6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題12解説

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令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題12解説

問1 語の借用

 借用とは、外国語の語彙を取り入れて自国語にすることです。古代中国語から借用したものは漢語、中国語以外の外国語から借用したものを外来語と言います。

選択肢1

 英語の「sign」は署名するという意味を持つ動詞ですけど、日本語の「サイン」は名詞です。動詞にするには「する」をつけないといけません。原語の品詞がそのまま日本語でも同じ品詞になるとは限りません。

選択肢2

 中国語「拉面」は2つの形態素「拉」と「面」からできてます。それぞれの形態素を借用して、「ラーメン」が外来語として日本語に入りました。形態素レベルで借用は起きます。この選択肢は間違い。

選択肢3

 威信の高い言語、これはダイグロシアにおける高変種のことです。例えば、ある地域ではその地域で使われている方言と標準語が共存しているようなとき、高変種である標準語から語が借用されるケースがあるかどうかですが…
 例えば、津軽弁で猫のことを「ちゃぺ」と呼んでいましたが今もうこれはほとんど使われなくなって、代わりに標準語から「ねこ」を借用し、今では「ねご」と呼ばれるようになっています。この記述は間違いです。

選択肢4

 現代日本語では「合意」という日本語があるのにもかかわらず「コンセンサス」という言い方を借用しています。
 ほぼ同一概念を表しますが借用が起きているのでこの選択肢は間違い。

 したがって答えは1です。

問2 翻訳借用

 英語の「keyboard」を借用するとき、「key」を鍵、「board」を盤として中国語になりました。それが日本語にも来ています。こうして語の意味を翻訳して取り入れることが翻訳借用です。
 選択肢2のように音も似せて、意味も近い漢字を当てた借用は音訳借用と言います。

 1 ????
 2 音訳借用
 3 ????
 4 翻訳借用

 答えは4です。

問3 意味の縮小

 ここでいう意味の縮小とは、原義を失うなどして特定の意味のみでの使用されることを指します。

 選択肢4が意味の縮小の一例。
 「車」は、中世では牛の引く乗り物である<牛車>を指し、近世では<荷車>を指し、近代では<人力車>を指し、現代では<自動車>を指します。借用されたばかりの頃は、確かに車輪の付いた乗り物を指していた「車」ですが、現代ではもっぱら「自動車」を指す語として使われています。特定の意味のみで使用されるようになりました。

 答えは4です。

問4 外来語の言い換え

 言い換え提案は次のから見れます。
 参考:「外来語」言い換え提案 ―分かりにくい外来語を分かりやすくするための言葉遣いの工夫―

 1 翻訳語の作り方じゃなくて、言い換え語そのものを示してます。
 2 これが答え
 3 使用を減少させるためではなく、分かりにくい外来語を一般人にも分かりやすいように言い換えたり、説明を付けたりすることを目的としています。それから、リストになっているのが和語ではなく外来語です。
 4 制限するためではありません。

 答えは2です。

問5 原語との音韻的違い

選択肢1

 英語の strike は、これで一音節です。でも日本語にすると「ストライク(sutoraiku)」という語になって、5音節5モーラになります。日本語は「子音+母音」の音節構造が好きで、借用の過程で日本語に馴染む音節構造に調整されます。
 ですから正しい記述。

選択肢2

 例えば英語の class [klˈæs] は、læ のところに強勢アクセントがあります。しかし日本語の「ラス」になると「ク」の後ろに核がきます。これだけ見ても強勢の位置と核の位置は一致していません。そもそも外来語は、通常語末から3拍目にアクセント核が来るという特徴があります。これは強勢アクセントの位置を基にしたものではありません。この選択肢は間違い。

選択肢3

 loose の se は無声音なのに、日本語にしたら有声音「ズ」になっています。記述通り。

選択肢4

 「ワイシャツ」の「ワイ」はもともと white で、「ホワイトカラー」の「ホワイト」も white です。
 もともと同じ語だったのに、借用したら異なる形式になっています。記述通り。

 したがって答えは2です。

 




コメント

コメント一覧 (2件)

  • 解説ありがとうございます。いつも拝見しております。全くの素人ですので、的を射ていなかったら申し訳ありません。

    問3に関してですが、私は4を選びました。4は意味の縮小のわかりやすい例だと思うからです。これらの記述が全て正しいと仮定したうえで話したいと思います。
    「車」は「車輪の付いた乗り物」を指す言葉でした。「車輪の付いた乗り物」とは、自動車、自転車、一輪車などでさえを含む言葉です。
    ですが、現在は自動車だけを指す言葉になりました。「車に乗った」と言って「自転車に乗った」と解釈する人はまずいません。
    ここで、自動車、自転車などの「車輪の付いた乗り物」から「車」への意味の範囲の縮小が起きていると考えます。

    ただし、2に関しても同じことをいえる気がしています。2が間違いであるとするならば、4とは違って「天皇、仕える主人」などの原義に「同輩以下に対する代名詞」の用法が含まれていない…などでしょうか。平安の古典では普通に代名詞の用法があった気がするので、含まれていないということも無いと思うのですが…。困りました。公式の解答を待ちます。

    • 僕は2を選んで不正解でしたが、多分これは、ある一つの意味から別の一つの意味に変わっただけで、4のようにいろいろな意味があったところから一つの意味だけになっていったわけではない、というこなんだと思います。ほんと、問題製作者側が解説を用意してくれないから困るんですよね。

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