硬口蓋化(palatalization)とは?
硬口蓋化(palatalization)とは、子音の調音にあたり、硬口蓋音以外の子音が前舌母音に先行するとき、前舌面が硬口蓋面に向かって盛り上がる現象のことです。硬口蓋音はそれ自体がもともと硬口蓋で調音するため、硬口蓋化しません。口蓋化とも言いますが、「口蓋」は硬口蓋や軟口蓋なども含めて指すため、この言い方は正確ではないです。硬口蓋化した音は、音声記号では [ʲ] で表されます。
(1) ぴ [pi] → [pʲi]
(2) り [ɾi] → [ɾʲi]
(3) きみ [kimi] → [kʲimʲi]
日本語には「ゃ」「ゅ」「ょ」がついた「ぴゃ」などの拗音が存在します。表記上は「ぴ」に「ゃ」がついていて [p] と [jɑ] の連続のように見えますが、音声学的には [p] が硬口蓋化した音 [pʲ] のあとに [ɑ] が続いた音です。「ぴゃ」は「ぱ」を拗音化した音とも言えますが、「拗音」という用語は日本語でしか用いられない用語であり、音声学では硬口蓋化と言います。要するに日本語の直音は硬口蓋化しない音で、拗音は硬口蓋化した音です。
「ぱ」は両唇を閉じて開放する音 [p] のあとに母音 [ɑ] が続きますが、「ぴゃ」は [pʲ] のあとに母音 [ɑ] が続きます。両唇を閉じるのは [p] と同じですが、それと同時に前舌面が硬口蓋面へ盛り上がっている状況が [pʲ] です。硬口蓋化した音は母音 [i] を発音するときと調音器官の形が似ているため、「い」のような聴覚印象を与えるとともに、音響的には高周波成分が多くなり鋭い音として知覚されます。
参考文献
川原繁人(2018)『ビジュアル音声学』30-32頁.三省堂
小泉保(1996)『音声学入門』77-81頁.大学書林
斎藤純男(2019)『日本語音声学入門 改訂版』64頁.三省堂
城生佰太郎(2008)『一般音声学講義』114頁.勉誠出版
服部義弘(2012)『朝倉日英対照言語学シリーズ 2 音声学』80頁.朝倉書店
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