平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題4解説

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平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題4解説

問1 グローバルエラー

 グローバルエラーエラーの一種で、意味が分からなくなるほどの支障が出るエラーのことです。このタイプのエラーは聞き手がコミュニケーションエラーを回避するために意味交渉がなされることが多く、先生も訂正せずにはいられないやつ。以下の例文の(1)がグローバルエラーの例です。

 (1) *私は彼にプレゼントをくれました。
 (2) *最後に財布を見たはレストランの席だった。

 グローバルエラーとは逆に、エラーはエラーだけど意味が分かるタイプの軽微なエラーをローカルエラーと言います。

 1 「だ」があっても意味が分かるのでローカルエラー
 2 誤用と正用で全く意味が違うのでグローバルエラー
 3 タ形にしなくても「先週」から過去時制であることが分かるのでローカルエラー
 4 促音があっても意味が分かるのでローカルエラー

 よって答えは2です。

問2 言語内の誤り(言語内エラー)

 エラーは、学習言語以外の言語(母語など)の影響を受けて生じるものもありますし、学習言語以外の言語からの影響ではなく、単に学習言語の知識不足から生じるものもあります。前者は言語間の誤りで、後者がこの問題で出題されている言語内の誤りです。

選択肢1

 「~じゃない」はナ形容詞や名詞の述語に現れる形式ですが、この学習者はイ形容詞「面白い」にそれを適用しています。
 これは学習言語の学習不足から生じている言語内エラーで、過剰般化と呼ばれています。この選択肢が答え。

選択肢2

 英語の “could you tell me~” などを直訳して「教えることができますか」と言っていると思われます。学習言語以外の言語が日本語にエラーを生じさせているのでこれは言語間エラー。

選択肢3

 「それ」と言うべきところ「これ」と言ってて、他の言語から転移したものと思われます。日本語以外の指示詞の例は詳しく知らないのでここでは例を示せませんが…

選択肢4

 ”I should come back here again.” のような英文をそのまま直訳して「来なければなりません」と言ってると思われます。これは英語からの転移。言語間エラーの例です。

 答えは1です。

問3 回避のストラテジー

 学習者はいろんな誤用をしますが、その言語形式が誤用だと分かっていれば使わない選択を取ることがあります。文法形式の正確さを重視するあまり、自信のない表現は回避してしまうわけです。これには良い面も悪い面もあります。意味が分からなくなるほどの誤用を産出してコミュニケーションに問題を生じさせるくらいならいっそ回避することで、当該コミュニケーションを円滑に進めるのに役立ちます。しかし、誤用も自信のない表現も産出してしまえば聞き手と「それはどういう意味?」などと意味交渉が生じるきっかけになり、インプットとアウトプットの機会が増え、それが習得に繋がるかもしれません。

 答えは2です。

問4 明確化要求

 訂正フィードバックの表を貼っておきますね。

暗示的 理解確認 学習者の発話に対して、自分の理解を述べ、正しいかどうかを確認する。 正用を提示
インプット誘発型
リキャスト 間違っているところだけを正しく言い直して学習者に提示する。
明確化要求 言っていることが理解できなかったことを伝え、言い直させる。 正用は提示せず
自己訂正を促す
アウトプット促進型
プロンプト
繰り返し 間違っている発話全体や間違っている部分をそのまま繰り返す。
明示的 メタ言語的
フィードバック
文法を説明したり、情報を与えたりして間違っていることを教える。
誘導 途中まで文を与えるなどして、正しい言い方を引き出す。
明示的訂正 間違いがあることを指摘し、正しい言い方を提示する。 正用を提示
インプット誘発型

 学習者に言い直しを求めるのは明確化要求という訂正フィードバックの一種です。
 したがって答えは2です。

問5 発話に対する「口頭訂正フィードバック」

 訂正フィードバックは口頭で行われることもあるし、書いて行われることもあります。問題文にはこれらの特徴を理解したほうがいいとあるんですけど、確かにこの2つは全く違います。例えば学習者が次のように誤用を産出したとします。

 (1) *若いときに重要ことは、いろんなことに挑戦します。

 これに対して口頭で訂正を行うなら、「『重要なこと』ですよ」「『挑戦することです』ですよ」などと言うにとどまります。口頭での訂正は学習者に負担をかけるので長々しい訂正フィードバックは通常避けられ、端的に行われる傾向があります。
 でも書いて訂正フィードバックを行う場合、つまり作文の添削のような指導ではもっと詳しくフィードバックができます。「重要なナ形容詞だから名詞に接続するときは『な』が必要です」とか、「主語が名詞だから述語も『挑戦すること』と名詞にします」って赤い文字で余白に書いたりしますね。
 口頭訂正フィードバックとライティング・フィードバックでは訂正の質が全然違います。

選択肢1

 相手の発話意図を確認しながら訂正できるのは口頭訂正フィードバックならでは。ライティング・フィードバックだと書き手が目の前にいることがまずないので確認することも難しいです。これはライティング・フィードバックの記述。

選択肢2

 「見るました」と学習者が言ったとして、口頭訂正フィードバックだと「それは間違ってますよ」などと明示的に訂正することもあるし、「そうですか、見ましたか」などと暗示的に訂正することもあります。どちらが中心とかないです。逆にライティング・フィードバックだと暗示的な訂正は普通されません。誤用は明示的に示されます。

選択肢3

 ライティング・フィードバックは文字にして訂正する方法ですから、訂正を受けた学習者はゆっくり文字を読んで理解することができるから認知的負荷が小さいです。しかし口頭訂正フィードバックは文字による手助けもなく、先生がリアルタイムで訂正をすることになるのでライティング・フィードバックに比べて認知的負荷は大きいです。この選択肢は逆。

選択肢4

 口頭訂正フィードバックでは文法、表現など形式面のフィードバックが多くなります。
 ライティング・フィードバックだと形式面のフィードバックもできますが、話の流れ、文の構成なども訂正できます。この点は口頭訂正フィードバックではなかなか難しい部分です。

 したがって答えは4です。

 




コメント

コメント一覧 (2件)

  • 問5に関してですが、「口頭で直接訂正するフィードバックは明示的です」とありますが、問題文には「直接」という文字がありません。従って、回答が2とはならない(4が唯一の正答となる)のは、実際の授業が「明示的フィードバックより暗示的フィードバックが中心となる」ではなく、逆の「暗示的フィードバックより明示的フィードバックが中心となる」ということだと思うのですが、いかがでしょうか。

  • こんにちは。勉強の参考にさせていただいています。ありがとうございます。

    質問ですが、問2の2「分からないことがあるんですが、教えることができますか。」は解説で「母語である英語が影響している、言語間エラー」とありますが、プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)と違う点がどこかよく分からないのでご教示お願いします。
    Can you teach me?をそのまま日本語に直訳しているようにも思うのですが、そのあたりの判断が難しく感じています。
    どうぞよろしくお願いいたします。

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