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平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

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平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

問1 比喩による意味拡張

 「花見に行く」の「花」が「桜」に解釈されるタイプの意味拡張はシネクドキーと言います。上位概念で下位概念を表したり、下位概念で上位概念を表したりする比喩の一種で、この場合は上位概念である「花」で下位概念である「桜」を指しています。シネクドキーについて、詳しくは上記のリンク先をご覧ください。各選択肢からこのような例を見つけましょう。

選択肢1

 「パトカー」で「警察官」を表す比喩は、空間隣接に基づくメトニミーです。

選択肢2

 上位概念「天気」で下位概念「良い天気」を表す比喩はシネクドキー。

選択肢3

 「背中」で「背中の汚れ」を指す比喩は、空間隣接に基づくメトニミー

選択肢4

 「卵」で「見習い」を表す比喩はメタファー

 答えは2です。

問2 意向形

 <意志>を表す代表的な形式は動詞の意向形「食べよう」「行こう」をはじめ、「~つもり」をつけて「食べるつもり」「行くつもり」等があります。しかし、問題文によると動詞の辞書形にも<意志>の解釈ができる例があるようです。例えば、「私は絶対合格する」と言う場合などがそうです。意向形や「~つもり」を使わなくても話し手の<意志>が現れます。

選択肢1

 「意志性の低い動詞」をどう定義するかによりますが、意志性を確かめる方法は、①その動詞が意向形にできるか、②「~つもり」をつけられるか、③「~てみる」をつけられるか、④「~ておく」をつけられるか、⑤「~ことにする」をつけられるか、などの基準を用いて判断できます。例えば「開ける」は「開けよう」「開けるつもり」「開けてみる」「開けておく」「開けることにする」と全ての形式がつけられるので意志性がある動詞(意志動詞)と言えます。一方、「降る」は「*降ろう」「*降るつもり」「*降ってみる」「*降っておく」「*降ることにする」と全ての形式がつけられないので意志性が無い動詞(無意志動詞)です。では「忘れる」はどうかというと、「忘れよう」「忘れるつもり」「*忘れてみる」「*忘れておく」「忘れることにする」となり、2つだけが不自然になりました。部分的に意志性はあり、部分的に意志性はないという結果は、意志性は「ある」「ない」という二元的な尺度で評価できないことを示します。したがってこの選択肢では「忘れる」は”意志性の低い動詞”と位置付けているわけです。
 それでやっと選択肢の内容に触れますが、意志性の低い動詞「忘れる」は「さっさと忘れよう」のように意向形にできます。そしてその場合も<意志>を表します。だからこの選択肢は適当です。

選択肢2

 聞き手に対して「一緒に行こう」と意向形を用いると、それは<意志>ではなく<勧誘>を表すようになります。この選択肢は適当。

選択肢3

 (1)a 気が変わった。明日告白する。  (その場の<意志>決定)
    b ずっと考えてて、明日告白する。 (過去の<意志>決定)
 (2)a *気が変わった。明日告白するつもりだ。 (その場の<意志>決定)
    b ずっと考えてて、明日告白するつもりだ。 (過去の<意志>決定)

 「告白する」のように辞書形を使う場合は、その場の意志決定でも過去の意志決定でも表すことができます(1)。でも「告白するつもりだ」だとその場の意志決定は表せず(2a)、過去の意志決定だけ表せるようです(2b)。なのでこの選択肢は間違い。

選択肢4

 相手に「私はもう行くよ」と言えば、それは自分の<意志>を相手に示すことになります。この選択肢は適当。

 答えは3です。

問3 様々な解釈ができる発話行為

 新入社員は、先輩より20分早く出社して、掃除をしなければなりません

 この文を選択肢の文脈で発した場合の発話行為が正しいかどうか見ます。

選択肢1

 指導教授が内定をもらった大学生にこう言うと、それは確かに<助言>を表します。この選択肢は適当。

選択肢2

 部長が配属された新入社員に言うと<助言>にも<提案>にも聞こえず、<命令>になります。この選択肢は適当。

選択肢3

 新入社員以外の社員が社長に向かってこう言うと、まるで「新入社員は先輩より20分早く出社して掃除しなければならないのに、新入社員はそれをしていない」みたいなチクりをしてるような感じがします。それはつまり、社長が新入社員を教育するよう<進言>しているかのようです。この選択肢は間違い。

選択肢4

 レポーターが会社紹介でこう言った場合はただの情報提供なので<断定>です。この選択肢は適当。

 答えは3です。

問4 ネガティブ・ポライトネス

 ネガティブ・ポライトネスとは、主に聞き手のネガティブ・フェイスに対して配慮してFTAを行うことです。説明すると長くなってしまうので、詳しくはこちらをご覧ください。

選択肢1

 XはYに対して「よかったよね」と言い、共感を示しています。これはYのポジティブ・フェイスに配慮したポジティブ・ポライトネス。

選択肢2

 YはXの「よかったよね」に対して同意を示す形で「もうねー、最高って感じ!」と言っています。同意を示す行為はXのポジティブ・フェイスに配慮したポジティブ・ポライトネス。

選択肢3

 Xは、Yがモネに興味があると踏んで、画集を貸してあげる提案を直接的な表現でしています。Yが画集のやり取りを行うことでXに近づきたいというポジティブ・フェイスを補償するような行為なので、この発話はポジティブ・ポライトネスです。

選択肢4

 YはXが画集を貸してくれることに対して「貸してもらってばかりで、いつも悪いね」と謝罪を述べました。謝罪をすることで、Xのネガティブ・フェイスに配慮しています。これはネガティブ・ポライトネス。

 答えは4です。

問5 ポジティブでもネガティブでもないポライトネス

 ブラウン&レビンソンが示したストラテジーは5つあります。この問題ではポジティブ・ポライトネス・ストラテジーネガティブ・ポライトネス・ストラテジーも用いられていないFTAを探せばいいので、残っているのはボールド・オン・レコード・ストラテジーか、オフ・レコードか、FTAを行わないストラテジーです。

選択肢1

 「お客さんが来るまでに」という条件があることから、お客さんはもうすぐ家に来ることが推測できます。このような緊急性の高い場面においては、フェイスに配慮することよりも意図の伝達効率が優先される傾向があるので、直接的な物言いがされる傾向があります。この種のストラテジーはボールド・オン・レコード・ストラテジー。

選択肢2

 母親が「片づけてくれないかしら」と質問の形式でお願いをしています。このような言い方をすると、聞き手である子どもには、条件によってはそのお願いを実現しなくてもいいというゆとりを与えることになります。それはつまりお願いを実行しなければならないという圧力を緩和することに繋がり、聞き手のネガティブ・フェイスに対する配慮となります。この選択肢はネガティブ・ポライトネスです。

選択肢3

 「時間があるときでいいから」と条件をつけてお願いをしています。これも選択肢2と同じで、条件によってはそのお願いを実現しなくてもいいことになるので、お願いを遂行しなければならないわけではなくなります。聞き手のネガティブ・フェイスに配慮したネガティブ・ポライトネスです。

選択肢4

 母親は手伝ってもいいと提案し、聞き手に寄り添っています。子どもの母親に近づきたいというポジティブ・フェイスに配慮した発話行為なので、この選択肢はポジティブ・ポライトネス。

 選択肢2~4はポジティブ・ポライトネスとネガティブ・ポライトネスで、選択肢1だけがそのどちらでもないストラテジーでした。
 答えは1です。




コメント

コメント一覧 (4件)

  • いつも解説を参考にさせていただいております。ありがとうございます。

    Ⅲ2-5の選択肢2-4の解説に子供のネガティブフェイスに配慮した母親のポジティブポライトネス、と書かれています。
    私は選択肢2から4の母親の発言について、
    子供は母親に色々言われたくない!自分の領域に入らないで欲しい!というネガティブフェイスを持っており、母親がそれに配慮してネガティブポライトネスを使ってやんわりと片付けを要求しているのではないかと考えたのですが、先生がお書きになっているこの場合の母親のポジティブポライトネスとは、母親のどのような気持ちをさすのでしょうか?

    よろしくお願い申し上げます。

    • >noliさん
      ご指摘ありがとうございます! 問題と解説を再度確認しましたら、誤りが見つかりました。
      子どもはそもそも片付けたくないから片付けずにいるので、つまり自由にさせてくれ、邪魔しないでくれという欲求(ネガティブ・フェイス)があります。母親はこの子どものネガティブ・フェイスを配慮して選択肢2、3、4のような発言をしているので、これは「子どものネガティブフェイスに配慮した、母親のネガティブ・ポライトネス」です。
      ご指摘の内容で間違いございません。大変失礼いたしました。解説の内容は修正しておきます!

  • いつもお世話になっております。この過去問に辿り着きました。出題者は、下記の → 
    A.あからさまに言う B.ポジティブ・フェイス C.ネガティブ・フェイス D.ほのめかして言う
    の中から、どちらの方略も用いられていない発話を選択する意図だと解釈しました。ご説明と、Noliさん質問
    では、発話のない子供の気持ちに踏み込まれていますが、そこは考えなくてもいいのではないかと考えます。
    子供に発話がない以上、母親が子供にどういうフェイスで発話しているかだけ見ると、 → 
    A相当が選択肢1で正解となり、選択肢2と3は子供に気遣ってCのネガティブですが、選択肢4はBになる
    ポジティブ・フェイスだと考えます。『一緒にやろう』と言っていますから。
    発話がなければ「子供のネガティブフェイスに配慮した」・・・は要らないのではないでしょうか。

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