平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

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平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

問1 言語適性

 1 「生涯一定」や「見解が一致」などという言いきりの表現は怪しむべきです。
 2 その通りです。試験のために勉強するなら記憶力の適正が必要ですが、試験ではなくとにかくコミュニケーション!というなら記憶力よりも音韻処理能力のほうが必要。確かに場面によって必要な適性は異なります。
 3 言語適性が高いと、当然習得の速度も速いです。この2つは関係しています。
 4 コミュニカティブな授業が好きな人な人もいますし、暗記が好きな人もいますし。それは結局その人の言語適性です。

 したがって答えは2です。

問2 動機づけ

 行動の原動力となるものや、そのきっかけのことを動機づけといいます。いわゆるモチベーションです。そのモチベーションの源泉が外部なのか内部なのかで分けられます。

外発的動機づけ 外部からの報酬を得るため、罰を回避するための行動の原動力となるもの。
内発的動機づけ 自分の内側から湧いてくる行動の原動力となるもの。好奇心や興味によることが多く、長期間持続しやすい。

 例えば、母親と子供が「歴史のテストで100点取ったらゲーム買ってあげる。80点以下だったらお小遣い減らすよ」と約束し、子どもは歴史の教科書をたくさん読むようになった場面を考えてみます。子供が歴史の教科書を読んでいるのは、ゲームという報酬を得るため、そしてお小遣い減額という罰を回避するためなので、外部要因によって教科書を読んでいることになります(外部的動機づけ)。
 逆に「歴史が大好きで子供のころから本をたくさん読んでいた。」という子供がいたとします。この子供が歴史の本を読んでいるのは好きだからです。つまり内部要因によって本を読んでいます(内部的動機づけ)。

 第二言語習得においては、ガードナー (Gardner)が道具的動機づけと統合的動機づけを提唱しました。これは外国語を学習するときの動機を分類したものです。

統合的動機づけ その文化に溶け込みたいという気持ちからくる学習のこと。価値観や文化観を理解したい、もっと周囲とコミュニケーションを取りたい、好きなアイドルを追いかけたいなどがこれにあたる。
道具的動機づけ お金の為、進学や就職に有利だからという理由で外国語を学習すること。

 1 道具的動機付け(外発的動機づけ)
 2 外発的動機付け
 3 統合的動機付け(内発的動機付け)
 4 外発的動機付け

 したがって答えは1です。

問3 習得開始年齢

 外国語環境と第二言語環境の違いについてまず説明します。

 外国語環境とは、その言語を外国語として勉強する場合のことで、日本で英語を学ぶ場合がこれ。
 第二言語環境とは、その言語が実際に使われている環境に身を置いて自然に身につく場合のこと。長期滞在、移住などがこれ。

選択肢1

 臨界期というのは、ある年齢を過ぎたら母語話者のような言語能力を習得するのは難しいとする、その年齢のことです。レネバーグは臨界期仮説で、臨界期は12~13歳頃だと主張しました。でも、特に海外から来て力士になった方たちを見ると母語話者のように日本語を流暢に扱ってますし、臨界期を過ぎても習得はできますよね。

選択肢2

 その通りです。実際語彙や文法などの能力は幼児よりも年長者のほうが習得スピードが速いという研究結果があります。それは年長者のほうが既に習得している母語を利用したり、発達した認知能力を利用して第二言語を学ぶことができるからです。ある程度母語が発達しているとスタートダッシュみたいなことができる、つまりカミンズの発達相互依存仮説ですね!

選択肢3

 日本の幼稚園で英語を学ぶのと、アメリカの幼稚園で日本語を学ぶのでは、後者のほうが上達が早いのは直感的にも分かると思います。それはインプットの量が比較的できないほど多いことと、コミュニケーションするためにアウトプットが絶対的に必要という点が挙げられます。インプットの量に関係ないわけありません。

選択肢4

 発音に関しては早い時期に始めたほうが有利で、語彙や文法については年長者のほうが早く習得できるようです。文法と音声の臨界期は異なります。

 したがって答えは2です。

 参考:「英語は小さい頃に始めた方がいい」という誤解 | 英語学習 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

問4 ビリーフ

 問題文によると、第二言語習得はみんな同じように進むわけではなくて、必ず個人差が生じるとのこと。その個人差を生じさせる要因として、言語適性、動機づけ、習得開始年齢、そして   ア    イ   があるようです。この2つは何でしょう。

 「知能」は説明不要だと思います。その人の潜在的な要因なので第二言語習得に影響を及ぼします。
 「学習環境」は確かに第二言語習得に影響を及ぼしますが、文章中には「学習者の要因」と書かれているのでこれは間違いです。学習環境は学習者の要因ではなく、環境要因です。

 パラメータとは、『言語により設定が異なる言語特有の文法のこと』(小柳 2004: 36)です。たとえば日本語は「車で」「私が」などと名詞の後ろに側置詞(後置詞)を置きますが、英語だと with~、on~ のように名詞の後ろに側置詞(前置詞)を置きます。チョムスキーの生得主義によると、生まれたばかりの子どもには「側置詞を名詞の前に置くか後ろに置くか」のような原理がすでに頭の中にあって、英語からのインプットを受けると「側置詞を名詞の前に置く」というパラメータを設定、日本語からのインプットを受けると「側置詞を名詞の後ろに置く」というパラメータを設定する、という具合に、与えられたインプットからパラメータを設定していると考えます。やや詳しく説明しましたが、パラメータは生まれたばかりの赤ちゃんの言語習得にかかわるものなので、第二言語習得の個人差とは関係ありません。

 ビリーフとは、どのようにすれば言語を習得できるかという考え方、信念のことです。例えばその学習者が「たくさん単語を書いて覚えることが習得の近道だ」というビリーフを持っていたとして、そのビリーフに忠実にしたがって勉強していたとします。単語はたくさん書いて覚えられますが、書いて覚えただけなので実際のコミュニケーションで使えるとは限りません。こんな感じで、ビリーフは第二言語習得に影響を及ぼすものです。

    ア    イ   に入るものとしては、「知能」と「ビリーフ」が適当。
 答えは3です。

 《参考文献》
 小柳かおる(2004)『日本語教師のための新しい言語習得概論』35-37頁.スリーエーネットワーク

問5 情意フィルター仮説

 下線部Dの内容は情意フィルター仮説です。第二言語に対する不安が多いと、例えば自分はリスニングが苦手だから会話が怖い、とかそういう負の情意があると言語習得を抑制してしまうかもしれません。逆に不安がなく自信満々だと言語習得を促進するかもしれません。

 答えは4です。




コメント

コメント一覧 (2件)

  • 平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8 問2の解説ですが、選択肢1について、「(内発的動機づけ)」となっていますが、「(外発的動機づけ)」ではないかと思います。ご確認をお願いします。

    • >にんじんさん
      確認しましたところ誤りがありました。コメント頂いた通り「外発的動機づけ」です。ご指摘ありがとうございました!

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