平成23年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題10解説
問1 アスペクト
「着る人」ではなく「着ている人」とテイル形を使うべきです。
この「ている」は動作の結果の状態が持続していることを表す形式で、いわゆるアスペクト表現と呼ばれるものです。
答えは4です。
問2 フィードバック
「赤いの服」に対して「この赤い服を着ている人ですか」とフィードバックするのは…
まずフィードバックについておさらい。
訂正フィードバックは、暗示的か明示的か、インプット誘発型かアウトプット促進型かに分けられます。
暗示的フィードバックは会話の流れを保ったまま自然な応答の中でさりげなく訂正するタイプで、明示的フィードバックは誤用の存在をはっきりと示すタイプのフィードバックです。
インプット誘発型は学習者に正用を与えるタイプです。
アウトプット促進型は学習者に自己訂正を促すタイプでプロンプトとも呼ばれます。
暗示的 | 理解確認 | 学習者の発話に対して、自分の理解を述べ、正しいかどうかを確認する。 | 正用を提示するインプット誘発型 |
---|---|---|---|
リキャスト | 間違っている箇所のみを正しく言い直して提示する。 | ||
明確化要求 | 学習者の言っていることが理解できなかったことを伝える。 | 自己訂正を促すアウトプット促進型(プロンプト) | |
繰り返し(反復) | 間違っている部分や発話そのものをそのまま繰り返す。 | ||
明示的 | メタ言語的フィードバック | 文法を説明したり、情報を与えたりして間違っていることを教える。 | |
誘導(引き出し) | 途中まで文を与えるなどして、正しい言い方を引き出す。 | ||
明示的訂正 | 間違いがあることを指摘し、正しい言い方を提示する。 | 正用を提示するインプット誘発型 |
ここでは「この赤い服を着ている人ですか」と会話の流れを保ったまま訂正しているので暗示的フィードバックです。そして文の中に「着ている人」という答えを示しているのでリキャストです。
ちなみにメタ言語的フィードバックとは、文法を説明して間違っていることを教える明示的フィードバックです。「状態の持続を表す『ている』を使ったほうがいいですよ」みたいな感じ。
それから、フォーカス・オン・フォームズとフォーカス・オン・フォームという用語が出てきてます。
簡単に説明しますと、フォーカス・オン・フォームズ(FonFs)は言語形式に焦点を当てた教授法で、フォーカス・オン・フォーム(FonF)は意味を重視しながらも必要があれば言語形式も指導する教授法です。
リキャストは暗示的フィードバックですから言語形式を明示的に説明することはありません。つまりリキャストはFonFで用いられることが多いです。
したがって答えは4です。
問3 リキャスト
学習者の「赤い服を着る人」という誤用に対し、教師は「この赤い服を着ている人ですか」とフィードバックしました。正用「着ている人」を提示しながらも自然な形で会話を継続させるタイプのフィードバックで、これはリキャストと言います。このリキャストの問題点は何でしょうか。
学習者が「赤い服を着る人」と言って、これに対して「それは間違ってます。正しい言い方は『赤い服を着ている人』ですよ」と誤用があることを明示して、さらに正用を提示して、というようなフィードバックをすると、学習者は誤用の存在にはっきりと気づくことができます。しかし「この服を着ている人ですか」のようなフィードバックは誤用の存在を明示していないので、学習者は教師の訂正フィードバックに気づかず、誤用の存在にも気づかない可能性があります。これがリキャストのデメリット。逆にメリットは会話の流れが阻害されないことなんですが。
1 ミステイクとエラーの違いに気づきにくい? 意味不明
2 これが答え
3 リキャストと学習ストラテジーに関係はなし
4 リキャストは自然な会話の流れの中で訂正するのでこの選択肢は逆
答えは2です。
問4 「赤いの服」
「赤いの服」と言ったのは中国語を母語とする日本語学習者だそうです。この問題は中国語から見ると良さそう。
選択肢1
中国語では「红色的衣服」というので、日本語にそのまま訳して「赤いの服」と言ってしまう可能性があります。この文は形容詞「红色的」が名詞「衣服」を修飾していますが、このように不要な「の」を入れてしまうのは形容詞の名詞修飾に限ったことではありません。例えば動詞が名詞を修飾する「吃饭的人」を「~ご飯を食べているの人」という可能性もあります。なのでこの選択肢は間違い。(→言語転移)
選択肢2
選択肢1にも書いたように、中国語母語話者は母語「红色的衣服」の影響で「赤いの服」という可能性があります。でもこういう誤りは中国語母話者特有というわけではないはず。
選択肢3
第一言語習得、つまり日本語母語話者の幼児期にも「赤いの服」のような誤用が見られることがありますね。「きれくない(きれいではない)」みたいなのもそう。また上述の通り母語(中国語など)から転移して「赤いの服」ということもあります。この選択肢が答え。
選択肢4
選択肢3で述べたように、第一言語習得でも見られます。
答えは3です。
問5 明示的フィードバック
明示的フィードバックは学習者に誤用の存在を直接はっきりと示して訂正する方法のことです。
1 はっきり誤用を示す明示的フィードバック
2 文法的説明をして明示的に誤用を示すのはメタ言語的フィードバック
3 会話の流れを遮らずさりげなく訂正する暗示的フィードバックで、答えを示してるのでリキャスト
4 明示的フィードバックの明示的訂正
答えは3です。
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