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形態的観点からの動詞分類(五段動詞、一段動詞、不規則動詞など)

目次

形態的観点からの動詞分類

 動詞はその形態的特徴から分類がなされます。ここでいう形態的特徴とは語幹に見られる特徴と活用規則の違いのことです。学校文法と日本語教育文法でも分類と名称が異なりますし、形態のどの側面に注目したかでも名称が異なります。

五段活用、上一段活用、下一段活用、カ行変格活用、サ行変格活用

 学校文法では動詞をその形態的特徴から五段活用、上一段活用、下一段活用、カ行変格活用、サ行変格活用の5種類に分けます。次の例を見てください。

動詞 語幹 活用語尾
未然形 連用形 終止形 仮定形 命令形
五段活用 書く kak anai imasu u eba e
結ぶ musub anai imasu u eba e
終わる owar anai imasu u eba e
上一段活用 起きる oki nai masu ru reba ro
着る ki nai masu ru reba ro
下一段活用 食べる tabe nai masu ru reba ro
寝る ne nai masu ru reba ro
カ行変格活用 来る ku
ki
ko
nai masu ru reba i
サ行変格活用 する su
si
se
nai masu ru reba ro

 いくつかの動詞を未然形、連用形、終止形、仮定形、命令形に活用し、その語幹活用語尾を一覧にしたのが上表です。このうち活用語尾に注目すると、「書く」「結ぶ」「終わる」は全て -anai, -imasu, -u, -eba, -e で共通しており、他の動詞とは異なります。この類の動詞はアイウエオ全段で活用することから五段活用の動詞と呼ばれています。
 「起きる」「着る」「食べる」「寝る」の活用語尾はいずれも -nai, -masu, -ru, -reba, -ro で共通していますが、語幹の末尾音が「起きる」「着る」は /i/ で終わり、「食べる」「寝る」は /e/ で終わる点で異なります。このうち語幹が /i/ で終わる前者の動詞は上一段活用の動詞、/e/ で終わる後者の動詞は下一段活用の動詞と言います。
 「来る」と「する」は特別で五段活用や上一段活用、下一段活用の活用語尾とは全く異なります。このことから「来る」はカ行変格活用の動詞、「する」はサ行変格活用の動詞と言います。

子音語幹動詞と母音語幹動詞

 不規則な活用をする「来る」「する」を除いた全ての動詞はその語幹に注目すると、末尾音が子音のものもあれば母音のものもあります。次の例を見てください。

動詞 語幹 活用語尾
未然形 連用形 終止形 仮定形 命令形
子音語幹動詞
(五段活用)
淀む yodom anai imasu u eba e
焦がす kogas anai imasu u eba e
母音語幹動詞
(上一段、下一段活用)
鑑みる kangami nai masu ru reba ro
落ちる oti nai masu ru reba ro
束ねる tabane nai masu ru reba ro
離れる hanare nai masu ru reba ro

 「淀む」「慎む」は語幹がどちらも子音 /m,s/ で終わっていて、「鑑みる」「落ちる」「束ねる」「離れる」は母音 /i,e/ で終わっています。日本語は基本的に子音と母音が交互に現れるという音韻規則があるため、語幹が子音で終わる動詞は後続する活用語尾の先頭音が母音となり、語幹が母音で終わる動詞は後続する活用語尾の先頭音が子音となります。語幹末尾音が子音であるか母音であるかの違いは活用語尾の形の違いを生むことになり、動詞はこの観点からの形態的な分類が可能です。前者のような語幹が子音で終わる動詞子音語幹動詞語幹母音で終わる動詞母音語幹動詞と言います。

 子音語幹動詞は上述した五段活用の動詞と指すもの同じで、母音語幹動詞は上一段活用、下一段活用の動詞と同じです。

u-verb と ru-verb

 不規則な活用をする「来る」「する」を除いた全ての動詞はその終止形に注目すると -u のものもあれば -ru のものもあります。次の例を見てください。

動詞 語幹 活用語尾
未然形 連用形 終止形 仮定形 命令形
u-verb 持つ mot anai imasu u eba e
減る her anai imasu u eba e
ru-verb 見る mi nai masu ru reba ro
飽きる aki nai masu ru reba ro
増える hue nai masu ru reba ro
冷める same nai masu ru reba ro

 「持つ」「減る」の終止形は -u で、「見る」「飽きる」「増える」「冷める」は -ru で終わっています。この形態的特徴から前者は u-verb、後者は ru-verb と呼ばれることがあります。u-verb は五段活用の動詞及び子音語幹動詞を同じものを指し、ru-verb は上一段活用と下一段活用の動詞及び母音語幹動詞と同じものを指しています。

五段動詞と一段動詞と不規則動詞

 日本語教育文法では、学校文法における五段活用の動詞を五段動詞、上一段活用と下一段活用の動詞を一段動詞、カ行変格活用とサ行変格活用の動詞を不規則動詞と呼び、日本語の動詞を3種類に分けます。教科書によっては五段動詞をⅠグループ、一段動詞をⅡグループ、不規則動詞をⅢグループと呼び、より学習者に分かりやすい名前を用いています。

学校文法 日本語教育文法
五段活用 五段動詞
Ⅰグループ(Japanese Verb Group 1)
上一段活用 一段動詞
Ⅱグループ(Japanese Verb Group 2)
下一段活用
カ行変格活用 不規則動詞
Ⅲグループ(Japanese Verb Group 3)
サ行変格活用

 不規則動詞のうち「来る」はカ変動詞、「する」はサ変動詞と呼び分けられます。

まとめ

 各名称の対応は以下です。

学校文法 語幹末尾音の観点から 終止形の観点から 日本語教育文法
会う 五段活用 子音語幹動詞 u-verb 五段動詞
着る 上一段活用 母音語幹動詞 ru-verb 一段動詞
寝る 下一段活用
来る カ行変格活用 不規則動詞 (カ変動詞)
する サ行変格活用 (サ変動詞)

参考文献

 鈴木孝明(2015)『日本語文法ファイル―日本語学と言語学からのアプローチ―』132-138頁.くろしお出版
 森山卓郎・渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』118-119頁.三省堂




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