6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

意志動詞と無意志動詞について

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意志動詞と無意志動詞について

 ある動作が意図的に行われる度合いを意志性(volitionality)と言います。動詞はその意志性の高低によって意志動詞(volitional verb)と無意志動詞(non-volitional verb)に分けられます。意志動詞動詞が表す動きが意志的にコントロールできる動詞で、無意志動詞動詞が表す動きが意志的にコントロールできない動詞です。

 動詞の意志性は様々な文法領域と関係しています。
 例えば、可能形にできる動詞は意志的な動作を表す意志動詞でなければならず、無意志動詞は可能形にできません。なぜなら「可能」は主体が意志的な動作を行うときのその動作の実現可能性を表すからです。

 (1) 逃げられる (意志動詞:逃げる)
 (2) 置ける   (意志動詞:置く)
 (3) *落ちられる (無意志動詞:落ちる)
 (4) *降れる   (無意志動詞:降る)

意志動詞と無意志動詞の別

 動詞は意向形、「~つもり」「~てみる」「~ておく」「~ことにする」などの形にできるものとできないものに分けられます。

無意志動詞 意志動詞
(5) *ドアが閉まろう (←閉まる) ドアを閉めよう (←閉める)
(6) *壁が壊れるつもりだ (←壊れる) 壁を壊すつもりだ (←壊す)
(7) *汚れが落ちてみる (←落ちる) 汚れを落としてみる (←落とす)
(8) *アイスが冷えておく (←冷える) アイスを冷やしておく (←冷やす)
(9) *会議が始まることにする (←始まる) 会議を始めることにする (←始める)

 「閉まる」「壊れる」「落ちる」などの動詞は意向形や「~つもり」の形にすることはできませんが、「閉める」「壊す」「落とす」などはできます。前者は無意志動詞であり、後者が意志動詞です。動詞が意志動詞かどうかは、意向形にできるかどうか、「~つもり」の形にできるかどうかなどで判別可能です。

他動性と意志性は別の概念

 上の表の左側は全て無意志動詞ですが、同時に全て自動詞です。右側は意志動詞ですが、全て他動詞でもあります。無意志動詞は意志的にコントロールできない動きを表すことから自動詞と同じよう感じ、意志動詞は意志的にコントロールできる動きを表すことから他動詞と同じように感じますが、他動詞と自動詞、意志動詞と無意志動詞は全くの別物で、他動性と意志性は別の概念であることに注意してください。

 (10) 土手を歩く。 (自動詞かつ意志動詞)
 (11) 川を泳ぐ。  (自動詞かつ意志動詞)
 (12) 橋を渡る。  (自動詞かつ意志動詞)

 自動詞であっても「歩く」「泳ぐ」「渡る」などの移動動詞は「歩こう」「泳ごう」「渡ろう」などと意向形にすることができ、意志動詞です。

参考文献

 寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』262-263頁.くろしお出版
 森山卓郎・渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』7頁.三省堂




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