平成27年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説
問1 「なければならない」と「べき」
選択肢1
(1) 宿題はしなければならない。
(2) 宿題はするべきだ。
「なければならない」は確かに規則に基づいて必要だというときに使えますが、「べき」はその行為を行うことが必要であるということを話し手の主観に基づいて言うときに使います。話し手にとって必要であるという意味を持つわけではありません。この選択肢は間違いです。
選択肢2
(3) 健康のためには、野菜を食べなければならない。 <意志動詞+なければならない>
(4) 防火戸は火災時に閉まらなければならない。 <無意志動詞+なければならない>
(5) 野菜を食べるべきだ。 <意志動詞+べきだ>
(6) 雨はもっと空気を読んで降るべきだ。 <無意志動詞+べきだ>
「なければならない」も「べきだ」も意志動詞、無意志動詞に接続できる例があります(3)~(6)。だからこの選択肢は間違い。
選択肢3
(1) 宿題はしなければならない。
(2) 宿題はするべきだ。
「なければならない」を使った(1)は行為の妥当性、つまり宿題をすることは妥当な行為だと述べるのに加え、宿題をすることが一般常識的に当然であって、それをすることが義務的であることを表します。「なければならない」は「虫を殺さなければならない」のように一般常識でなく、通常それをすることが義務的ではないことには使えません。「べきだ」を使った(1)はその行為の妥当性を述べます。それをすべきかどうかは話し手の主観によるので、一般常識的にその行為をすることが義務的であるとは限りません。だから「虫を食べるべきだ」ということができます。この選択肢は正しいです。
選択肢4
「なければならない」を肯定形だと考えると、その否定形は「なければならなくない」です。この言い方は存在します。
「べきだ」の否定形は「べきではない」があるので、肯否の対立があります。
この選択肢は後件の内容が間違い。
答えは3です。
問2 東京に来たら私の家に来たほうがいいです
東京に来たら、私の家に来たほうがいいです。
この文の「ほうがいい」の使い方に注目して、なぜこの文が不自然なのか、その理由を選択肢から選びます。
選択肢1
「勉強したほうがいい」という表現は、勉強をすると良いことがあるという意味もありますが、勉強をしなければ悪いことがある、という意味も含まれます。したがって「私の家に来たほうがいい」は「来なければ悪いことが起きる」という意味を含意することになるわけですが、この意味が通常不自然です。すれば良いことがあるけどしなければ悪いことがある、みたいなときに「ほうがいい」は使えますが、そうでなければ使えません。この選択肢は正しいです。
選択肢2
「勉強したほうがいい」は勉強すると良いことがあるよ、ってことを前面に出しつつ、しなければ悪いことがあるという意味を含意します。肯定的な評価が前提にあり、否定的な評価はその裏にあります。この選択肢は間違い。
選択肢3
(1) 資料のここを見やすく修正したほうがいいよ。 <上司から部下に>
(2) 部長が不在でも対応できる体制を整えたほうがいいと思います。 <部下から上司に>
「ほうがいい」は目上から目下にも使えますし、目下から目上にも使えます。この選択肢は間違い。
選択肢4
(3) 東京に来るなら、スカイツリーには行ったほうがいい。
「東京に来るなら」という条件節をつけて主節に「ほうがいい」を置いた(3)は非文ではないので、下線部Bが誤用である理由を「『ほうがいい』は条件文で使えないから」とするのは誤りです。この選択肢は間違い。
答えは1です。
問3 過去形のときの意味
「べきだ」「ほうがいい」を過去形にして「べきだった」「ほうがよかった」としたときに<過去>以外の特殊な意味が現れるそうです。例文を見てみましょう。
(1) 勉強するべきだった。 <後悔・不満>
(2) 早く出発したほうがよかった。 <後悔・不満>
(1)も(2)も「勉強する」「早く出発する」という事態が<過去>に実現しなかったことを表しますが、その実現しなかったことに対して後悔や不満の気持ちが現れます。
だから答えは2です。
問4 モダリティ形式
1 勧め 「~たらいい」
2 不必要 「~までもない」
3 必要・義務 「~ざるをえない」
4 意志 「~つもり」
答えは4です。
問5 「なければならない」と「なければいけない」
選択肢1
(1) 勉強しなければなりません。 <丁寧体>
(2) 勉強しなければいけません。 <丁寧体>
「なければならない」も「なければいけない」も丁寧体にできます。この選択肢は間違い。
選択肢2
「なければならない」の口語形「なきゃならない」と「なければいけない」の口語形「なきゃいけない」を比較すると、後者のほうが比較的多く現れます。この選択肢は間違い。
選択肢3
その通りです。話し言葉では「なければいけない」のほうが多く使われます。なぜなら「なければならない」は書き言葉的だからです。
選択肢4
(1) 勉強しなければなりません。 <書き言葉的>
(2) 勉強しなければいけません。 <話し言葉的>
選択肢3にも通じますが、「なければならない」は書き言葉的で、「なければいけない」は話し言葉的なのでこの選択肢は間違い。
答えは3です。
コメント
コメント一覧 (8件)
すみませんが、問5の解答は3となっていますが、 話し言葉の時に、「なんなきゃならない」をよく使うと考えるのですが。これは北海道の特徴で他地域では「いけない」なのでしょうか?
お手数おかけいたしますが、返答頂ければ幸いです。
>晴山さん
コメントありがとうございます! 問5についてお答えします。
選択肢4の解説でもありますが、標準語における「なければならない」は書き言葉的で、「なければいけない」は話し言葉的です。例えば「てしまう」の縮約形「ちゃう/じゃう」なども書き言葉では現れにくいように、縮約形が話し言葉で現れやすいというのは縮約形全般に言えることです。よって「なきゃならない」よりも「なきゃいけない」のほうがよく使われると考える方が自然です。
「なんなきゃならない/なんなきゃなんない」は「ならなければならない」の縮約形ですが、おっしゃる通り、後者は話し言葉でもよく使われる気がしますね…。ここからは推測ですが、「なんなきゃならない」の「な」と「ら」はいずれも歯茎を調音点として発音しますので、全体を通して舌をあまり動かす必要がなくなり、「いけない」よりも言いやすくなるのだろうと思います。言いやすくなるというのも縮約形の特徴ですので、話し言葉で用いられる頻度が高くなっているのかもしれません…。
とはいっても、「なきゃならない/なきゃならん」と「なきゃいけない/なきゃいかん/なきゃいけん」などは確かに地域差がある気がします。地域差があるとそれが標準語であるという扱いがしにくくなりますので、やはり”縮約形は話し言葉に現れやすい”という標準語の原則を用いて解き進めるほうがいいと思います。
詳しい解説をしてくださりありがとうございます。とても、よく理解出来ました。北海道特有なのか余り「なければいけない」という言葉を聞く機会が少ないような気がします。「なければなんないしょ」という北海道弁的な使い方もよく耳にします。こういう問題があった時は標準語を調べるようにします。本当にありがとうございました。
問5の「〜ならない」と「〜いけない」、私も、どちらも話し言葉で使えると思い、迷いました。
そこで思いついたのが「なければ」の部分を「ねば」に置き換えてみることです。
この「ねば」に続けてみると、「ねばならない」には違和感はありませんが、「ねばいけない」には不自然さを感じます。
「ねば」は「なければ」に比べて硬い表現で、話し言葉で使うこともありますが、それは講義や演説などがほとんどで、書き言葉寄りの表現だと思います。
このことから考えて「なければならない」は書き言葉的ニュアンスを、「なければいけない」は話し言葉ニュアンスを持つと判断するのはどうでしょうか。
>kouさん
そのように説明すると分かりやすいですね!
貴重なご意見ありがとうございました。
初めて質問させてきただきます。
基本的な語彙の意味についてで申し訳ないのですが、問2-1について教えていただければと思う。
選択肢4に肯定形と否定形の対立がある、とありますが、〜と〜の対立とはどういうことなのでしょうか?過去問を見ていると時々この対立という言葉が出てきて、毎回どうしても理解ができません。
申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
>noliさん
こんにちは! コメントありがとうございます。
「『なければならない』は肯定と否定の対立があるのに対し、『べきだ』は対立がない。」のことですね。
対立とは、ある観点から見て2つのものが対応していることです。
肯定形と否定形という観点から見ると、「べきだ」は肯定形、「べきではない」は否定形です。この2つが対応しているので、”対立している”と言います。
他にも、「自他の対立」という言葉もあります。例えば「落ちる」は自動詞、「落とす」は他動詞です。この2つも対立しています。
さらに「音声的対立」もあります。バ行は[b]有声両唇破裂音、パ行は[p]無声両唇破裂音です。一つは有声音、もう一つは無声音なので、この2つは声帯振動の面から対立しています。
大体このような感じです。共通点はありますが、一部分異なる点があるときに「対立」という語が使われます。
お忙しいところ解説いただきありがとうございました。
今まで分からなかった点がやっと理解できました。
ありがとうございます。
質問の際に変換ミスをしてしまい、「思います」が「思う」になっていました。大変申し訳ありませんでした。