令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題6解説
問1 制限作文アプローチの背景にある言語教育の考え方
制限作文アプローチは特定の文型や表現を使わせて書かせる作文指導法です。
同時期に爆発的に流行したオーディオリンガル・メソッドは言語形式や音声を正確かつ流暢に産出させるためにパターン・プラクティスなどの練習を用いました。制限作文アプローチもこの影響を受け、作文の内容よりも、言語形式の正確さを重視しています。
制限作文アプローチはオーディオリンガル・メソッドに影響を受けています。
答えは2です。
問2 談話のパターン
「AとBは両方とも~だが」のところでAとBの共通点を述べつつ、後件ではある観点から見るとAとBは違うことを述べています。AとBの比較・対照を行ってるので答えは2。
問3 プロセス・アプローチ
プロセス・アプローチとは、フラワーとヘイズ (L.Flower & J.R.Hayes)のライティングプロセスの認知モデルを理論的基盤として1980年代に出現した、作文を仕上げていくプロセスを重視した作文指導法です。「構想」「文章化」「推敲」の3つの段階を行きつ戻りつ、繰り返しながら新しい発見をし、長い時間をかけてよりよい文章を再構築していくことを目的とします。プロセス・ライティングとも呼ばれます。
プロセス・アプローチといえば「構想」「文章化」「推敲」の3つを行き来する、です。これが最も特徴的。このキーワード無くして出題はできません。
選択肢1
これは何???
選択肢2
制限作文アプローチの説明ではないかと思います。
「正確さに注意しながら」という部分もそうですし、語彙や文型を使わせるところもそう。
選択肢3
「『推敲』を繰り返し」がプロセス・アプローチの特徴。これが答え。
選択肢4
「専門領域」という語がありますので、学術英語アプローチです。
学術英語アプローチは読み手の存在を重視した作文指導法。学術目的で書かれる専門分野の作文において、読み手が誰なのか、読み手が期待するものは何かを意識させ、その分野にふさわしい語彙、文体を用いて書かせるような活動を行います。
したがって答えは3です。
問4 引用の指導
選択肢1
【誤用】学校教育における重要な点は、子どもたちに学習を押し付けない。
【訂正】学校教育における重要な点は、子どもたちに学習を押し付けないことだ。
主語が「学校教育における重要な点」で述語が動詞「押し付けない」になっています。名詞述語文「名詞Aは名詞Bだ」にしなければならないのに述語に動詞があるこの文はねじれてます。引用の指導は必要ありません。主語と述語のねじれに関する指導、特に名詞述語文の指導が必要です。
選択肢2
【誤用】川崎市は、重工業が発展した地域にとって知られているということである。
【訂正】川崎市は、重工業が発展した地域として知られているということである。
「にとって」と「として」の混同が見られます。引用に関する誤用ではないので引用の指導は必要ありません。
選択肢3
【誤用】日本人は自分の意見をうまく表す、ああいう機会が少なかったのだと思われる。
【訂正】日本人は自分の意見をうまく表す、そういう機会が少なかったのだと思われる。
「ああいう」と「そういう」の混同が見られます。文脈指示に関わる誤用だから引用の指導は必要ありません。
選択肢4
【誤用】山口によれば、専門家になるためには大学時代が重要だと指摘している。
【訂正】山口(2011)によれば、「専門家になるためには大学時代が重要だ」と指摘している。
直接引用だったら「 」でかこって、参考文献の出版年も名前の後ろに書いたほうがいいかも。引用はレポートや論文で重要です。この例は引用の指導が必要。
したがって答えは4です。
問5 ピア・レスポンス
ピア・レスポンスとは、同じような立場の仲間(ピア)でお互いの作文を読み合い、良いところや直したほうがいいところを伝える作文活動のことです。
選択肢1
ピア・レスポンスの説明。
選択肢2
学習者と学習支援者は同じような立場の仲間とは言えないので、この関係だとピア・ラーニングの定義に反します。間違い。
選択肢3
ディクトグロスの説明。4技能を組み合わせて個人学習とピア・ラーニングが行える統合的な学習法のことです。まず先生がまとまった文章を数回読み、学習者はそのキーワードを聞き取ってメモします。そのあとグループにあってメモを持ち寄り元の文章の復元を試みます。
選択肢4
プロジェクトワーク的な活動内容。これは学習者が主体となって計画をし、資料や情報を集めたりして、グループごとに一つの作品にまとめる学習方法です。報告書、新聞、発表、映像などを作ります。現実性の高い活動なので、実践的な日本語を学べます。
答えは1です。
コメント
コメント一覧 (3件)
こんにちは。問題6の(1)ですが、私は本文中の「(制限作文アプローチは)口頭練習で形成された習慣を強化する目的で1950年代に用いられていたものである」という記述に着目し、「習慣強化」というアプローチと、「1950年代」という時代(グアン・メソッドは古すぎるし他は新しすぎる)に最もマッチする思われるオーディオ・リンガル・メソッドを選択しました。制限作文アプローチそのものが一体何かについては深く考えませんでした。(汗)
制限作文アプローチは、1950年代にオーディオリンがル・メソッドの流れで考案された、と言われています。何が書かれているかという内容面よりも、文型や表現が正しく使われているかという形式面が重要、とされています。 要は、AL法同様、パターンを覚えてそれを書くというものです。 従って、正答は2になります。 上記の点をかじっている学習者はあまり迷わず2を選んだと思います。
因みに、上記の説明はヒューマンアカデミーの『日本語教育能力検定試験 分野別用語集』に掲載されています。
>明田高之さん
本当ですね! 私も確認したところ、確かにオーディオリンガル・メソッドの流れで考案されたと書いていました。
ありがとうございました!