声帯振動
肺から送り出された空気は気管を通り、喉頭(larynx:喉)に至ります。喉頭の中には2本の1cmほどの声帯(vocal folds)があり、その2本の声帯の間の空間を声門(glottis)と呼びます。声帯によって調整された声門の開き具合は声門を通る気流に影響を与えます。2本の声帯が近づき声門がかなり狭まった状態なら、弾力性のある筋肉組織である声帯は通過する気流の力学的影響による閉鎖と解放を繰り返してブルブルと振動し、気流はその影響を受けます。一方、声帯同士が離れていて声門が広く開けられていると、空気はその流れを阻害されることなく通り、声帯も振動しません。こうして声帯を振動させる音は有声音(voiced consonants)、振動しない音は無声音(voiceless consonants)と呼びます。声帯は振動すればするほど声が高くなり、振動が少なくなればなるほど低くなります。
声帯振動を感じてみる
ここでは日本語の母音と子音の有声性を見てみます。
まずは喉仏に手を当てながら「あああああ」と言ってみてください。「い」でも「う」でも「え」でも「お」でも試してみてください。すると喉仏のあたりがブルブル振動してそれが手に伝わってくるのが分かると思います。母音はささやき声でない限り全て声帯振動する有声音です。
次に、[sɑ] の [s] だけを発音してみてください。「さ」は子音 [s] と 母音 [ɑ] からなっていて、この子音 [s] だけを発音します。うまくいけば「ssssーーー」という摩擦音だけ聞こえるはず。このとき喉仏を触ってみると声帯振動していません。人差し指を唇につけながら「静かにして」の意で小声で「シー」と言いますが、そのときの喉仏も声帯振動していないはずです。[s] は声帯振動しない子音です。では、[zɑ] の [z] だけを発音してみましょう。これは「zzzーーー」という摩擦音で、しかも喉のあたりがブルブル震えてるはずです。[z] は声帯振動する子音です。その音が声帯振動するかどうかは喉のあたりを触って発音してみるのが有効です。
日本語の母音と子音、有声音と無声音の対応は以下のようになります。日本語のカサタハパ行の子音(k,s,t,h,p)は無声音で、それ以外の子音と母音は全部有声音。そうして覚えておくといいです。
無声音 | カサタハパ行の子音[k] [s] [ɕ] [t] [ts] [tɕ] [h] [ç] [ɸ] [p] | 子音 |
有声音 | カサタハパ行以外の子音[g] [ŋ] [dz] [z] [dʑ] [ʑ] [d] [n] [ɲ] [b] [m] [j] [ɾ] [ɰ] [ɴ] | |
全ての母音[ɑ] [i] [ɯ] [e] [o] | 母音 |
参考文献
窪園晴夫(1999)『日本語の音声』岩波書店
斎藤純男(2019)『日本語音声学入門 改訂版』三省堂
服部義弘(2012)『朝倉日英対照言語学シリーズ 2 音声学』朝倉書店
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