6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題10解説

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平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題10解説

問1 モニターモデル

 モニターモデルはクラッシェン (S.D.Krashen)が提唱した第二言語習得理論で、5つの仮説から構成されます。

習得・学習仮説 言語を身につける過程には、幼児が母語を無意識に身につけるような「習得」と、学校等で意識的に学んだ結果の「学習」があるとし、学習によって得られた知識は習得に繋がらないとする仮説。このような学習と習得は別物であるという考え方をノン・インターフェイスポジションと呼ぶ。
自然習得順序仮説
自然順序仮説
目標言語の文法規則はある一定の決まった順序で習得されるとする仮説。その自然な順序は教える順序とは関係ないとされている。
モニター仮説 「学習」した知識は、発話をする際にチェック・修正するモニターとして働くとされる仮説。学習者が言語の規則に焦点を当てているときに起きる。
インプット仮説 言語習得は理解可能なインプット「i+1」を通して進むとする仮説。ここでいう「i」とは学習者の現時点での言語能力のことで、「+1」がその現在のレベルから少し高いレベルのことを指している。未習のものであっても、文脈から推測できたりする範囲のインプットを与えると、言語構造な自然に習得されるとする。
情意フィルター仮説 学習者の言語に対する自信、不安、態度などの情意面での要因がフィルターを作り、接触するインプットの量と吸収するインプットの量を左右するという仮説。

選択肢1

 間違いです。モニター仮説では、「学習」した知識がモニターの役割を果たすとされています。
 「目標言語の理解の際」も引っかかります。モニター仮説では「目標言語で発話する際」に学習した知識を使ってモニターします。

選択肢2

 正しいです。習得・学習仮説では、学習によって得られた知識は習得に繋がらないとする立場をとっています。(ノン・インターフェイスポジション)

選択肢3

 間違いです。モニターモデルにはそういう主張はありません。
 これはたぶんインターアクション仮説? 学習者が目標言語を使って母語話者とやり取り(インターアクション)する場面で生じる意味交渉が言語習得が促進されるとする仮説で、この選択肢に一番近いかなーと思います。

選択肢4

 間違いです。モニターモデルのインプット仮説では理解可能なインプット「i+1」が習得を促進するとされています。選択肢の「未習の語彙や表現ないよう調整したインプット」はつまり「i」のことで、考え方が違います。

 したがって答えは2です。

問2 ナチュラル・アプローチ

 上記のモニターモデルに基づく教授法にナチュラル・アプローチがあります。

 ナチュラル・アプローチ
 1980年代初頭に注目され、テレル(T.Terrell)によって提唱された教授法。幼児の母語習得過程を参考にした聴解優先の教授法。クラッシェン(S.D.Krashen)のモニターモデルの緊張や不安のない状態で大量に理解できるインプットを与えれば言語習得が促進されるという仮説に基づき開発された。

 学習者が自然に話し出すまでは発話を強制せず、誤りがあっても不安を抱かせないために直接訂正しないなどの特徴があります。発話が行われるまでの間は聴解練習のみ行われ、発話は強制しません。その間、教師の発話や動作、絵などから言語習得を進めていきます。

選択肢1

 ロッドを使うのは、サイレント・ウェイです。サイレント・ウェイではロッド、サウンド・カラー・チャート、ポインターなどの独特な道具を使います。これ以外の教授法では使われない道具ですので、この言葉が現れたらサイレント・ウェイだと思っていいです!

選択肢2

 ナチュラル・アプローチはモニターモデルが理論的基盤となっています。そのモニターモデルの中の1つの仮説「情意フィルター仮説」では、自信がなかったり、緊張・不安を感じていると習得に影響が出ると考えられていて、ナチュラル・アプローチもこの考え方を引き継いでいます。「学習者の不安の軽減に努め」の部分は合っていますが、「適宜指導する」が間違いです。ナチュラル・アプローチでは不安を抱かせないために直接訂正することは避けられます。

選択肢3

 習慣形成理論に基づく、オーディオリンガル・メソッドの記述です。オーディオリンガル・メソッドはパターン・プラクティスなどの練習を繰り返して「習慣形成」を促し、習得させようとします。

選択肢4

 これがナチュラル・アプローチの考え方です。「理解可能なインプットを大量に与える」という部分が、ナチュラル・アプローチの理論的基盤となったモニターモデルのインプット仮説と関係しています。

 したがって答えは4です。

問3 社会言語能力

 社会言語能力といえばコミュニカティブ・コンピテンス。

 ハイムズは、コミュニケーションには正しい言語形式を使用するだけではなく、場面や状況に応じた使い方をすることが必要だと提唱しました。これを伝達能力(コミュニカティブ・コンピテンス)と言います。
 また、カナルは、伝達能力は文法能力、社会言語能力、方略能力、談話能力から成り立っていると主張しました。

談話能力 言語を理解し、構成する能力。会話の始め方、その順序、終わり方などのこと。
方略能力
(ストラテジー能力)
コミュニケーションを円滑に行うための能力。相手の言ったことが分からなかったとき、自分の言ったことがうまく伝わらなかったときの対応の仕方のことで、ジェスチャー、言い換えなどがあてはまる。
社会言語能力
(社会言語学的能力)
場面や状況に応じて適切な表現を使用できる能力。
文法能力 語、文法、音声、表記などを正確に使用できる能力。

 1 社会言語能力の記述
 2 談話能力の記述
 3 文法能力の記述
 4 方略能力の記述

 したがって答えは1です。

問4 インフォメーション・ギャップ・タスク

 1 プロセシング・インストラクション
 学習者に文法形式を含んだインプットを与えることによって意味理解を集中的に経験させ、インプットからインテイクへと導く指導のこと。
 インプットの話です。他者とのやり取りが含まれない活動なので、相手が理解可能なアウトプットをする場面もありません。

 2 インフォメーション・ギャップ・タスク
 インフォメーション・ギャップを用いたタスクのこと。学習者同士の間に情報の格差があれば、お互い相手の情報を引き出そうとして質問したり、答えたりのやりとりが活発になります。お互いちゃんと理解するため、相手が理解可能なアウトプットをしなければいけません。この活動は理解可能なインプットを引き出すことができます!

 3 パラレル・リーディング
 テキストを見ながら音声を聞き、聞こえてくる音声と同じスピードで音読する方法。一方、シャドーイングはテキストを見ずに行う。
 他者とのやり取りが含まれない活動なので、相手が理解可能なアウトプットをする場面もありません。

 4 サイト・トランスレーション
 学習言語をその語順のまま理解する方法で、通訳者向けのトレーニングとして有名。
 他者とのやり取りが含まれない活動なので、相手が理解可能なアウトプットをする場面もありません。

 したがって答えは2です。

問5 日本語指導が必要な外国人児童生徒等に対する文部科学省の教育施策

選択肢1

 JSLカリキュラム開発の基本構想には、継承語の保持に関する記述はありません。
 参考:1 JSLカリキュラム開発の基本構想:文部科学省

選択肢2

 国際交流基金では日本語指導者等に対する日本語指導の研修が行われていますが、国際交流基金の管轄は文部科学省ではなく外務省です。
 参考:国際交流基金 – 日本語を教える

選択肢3

 正しいです。特別の教育課程では、日本語の能力が不十分な児童生徒を対象に日本語の指導を行ったりします。
 参考:日本語指導が必要な児童生徒を対象とした「特別の教育課程」の編成・実施について(概要)

選択肢4

 筆記テストだけではありません。四技能使います。

「DLA」は、<はじめの一歩>(「導入会話」と「語彙力チェック」)と、<話す>
<読む><書く><聴く>の4つの言語技能から構成されています。
 - http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/03/20/1345383_3.pdfより引用

 したがって答えは3です。




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