平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題10解説
問1 モニターモデル
モニターモデルについてはクラッシェンが提唱した第二言語習得理論です。5つの仮説からなります。詳しくはリンク先をご覧ください。
選択肢1
間違いです。モニターモデルを構成するモニター仮説では、「学習」した知識がモニターの役割を果たすとされています。「習得」した知識ではありません。
選択肢2
正しいです。モニターモデルを構成する習得-学習仮説では、学習によって得られた知識は習得に繋がらないとする立場をとっています。(ノン・インターフェイスポジション)
選択肢3
間違いです。モニターモデルにはそういう主張はありません。
選択肢4
間違いです。モニターモデルを構成するインプット仮説では、理解可能なインプット「i+1」が習得を促進するとされています。選択肢の「未習の語彙や表現ないよう調整したインプット」はつまり「i」のことで、考え方が違います。
答えは2です。
問2 ナチュラル・アプローチ
上記のモニターモデルに基づく教授法にナチュラル・アプローチがあります。いくつかの特徴があるんですが詳しくはリンク先をご覧ください。重要な点は各選択肢で触れます。
選択肢1
ロッドを使うのは、サイレント・ウェイです。
選択肢2
ナチュラル・アプローチは情意フィルター仮説に基づいて学習者の不安や緊張を取り除こうとするのが特徴の一つです。この特徴は選択肢2に見られます。だから「教師は学習者の不安の軽減に努め」は正しいんですが、後件「学習者に主体的に話させて」が間違いです。ナチュラル・アプローチは幼児の母語習得過程を参考にしているので、「話す」「聞く」は後回しでまず「聞く」と「読む」の技能を育てます。この選択肢は後件の記述が間違い。
選択肢3
この選択肢は習慣形成理論に基づくオーディオリンガル・メソッドの記述です。オーディオリンガル・メソッドはパターン・プラクティスなどの練習を繰り返して「習慣形成」を促し、習得させようとします。
選択肢4
これがナチュラル・アプローチの考え方です。「理解可能なインプットを大量に与える」という部分が、ナチュラル・アプローチの理論的基盤となったモニターモデルのインプット仮説と関係しています。
答えは4です。
問3 社会言語能力
社会言語能力といえばコミュニカティブ・コンピテンス。
ハイムズは、コミュニケーションには正しい言語形式を使用するだけではなく、場面や状況に応じた使い方をすることが必要だと提唱しました。これを伝達能力(コミュニカティブ・コンピテンス)と言います。
また、カナルは、伝達能力は文法能力、社会言語能力、方略能力、談話能力から成り立っていると主張しました。
談話能力 | 言語を理解し、構成する能力。会話の始め方、その順序、終わり方などのこと。 |
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方略能力(ストラテジー能力) | コミュニケーションを円滑に行うための能力。相手の言ったことが分からなかったとき、自分の言ったことがうまく伝わらなかったときの対応の仕方のことで、ジェスチャー、言い換えなどがあてはまる。 |
社会言語能力(社会言語学的能力) | 場面や状況に応じて適切な表現を使用できる能力。 |
文法能力 | 語、文法、音声、表記などを正確に使用できる能力。 |
1 社会言語能力の記述
2 談話能力の記述
3 文法能力の記述
4 方略能力の記述
したがって答えは1です。
問4 インフォメーション・ギャップ・タスク
1 プロセシング・インストラクション
学習者に文法形式を含んだインプットを与えることによって意味理解を集中的に経験させ、インプットからインテイクへと導く指導のこと。
インプットの話です。他者とのやり取りが含まれない活動なので、相手が理解可能なアウトプットをする場面もありません。
2 インフォメーション・ギャップ・タスク
インフォメーション・ギャップを用いたタスクのこと。学習者同士の間に情報の格差があれば、お互い相手の情報を引き出そうとして質問したり、答えたりのやりとりが活発になります。お互いちゃんと理解するため、相手が理解可能なアウトプットをしなければいけません。この活動は理解可能なインプットを引き出すことができます!
3 パラレル・リーディング
テキストを見ながら音声を聞き、聞こえてくる音声と同じスピードで音読する方法。一方、シャドーイングはテキストを見ずに行う。
他者とのやり取りが含まれない活動なので、相手が理解可能なアウトプットをする場面もありません。
4 サイト・トランスレーション
学習言語をその語順のまま理解する方法で、通訳者向けのトレーニングとして有名。
他者とのやり取りが含まれない活動なので、相手が理解可能なアウトプットをする場面もありません。
したがって答えは2です。
問5 日本語指導が必要な外国人児童生徒等に対する文部科学省の教育施策
選択肢1
『1 JSLカリキュラム開発の基本構想:文部科学省』のJSLカリキュラム開発の基本構想には、継承語の保持に関する記述はありません。この選択肢は間違い。
選択肢2
『国際交流基金 – 日本語を教える』によると、国際交流基金では日本語指導者等に対する日本語指導の研修が行われていますが、国際交流基金の管轄は文部科学省ではなく外務省です。
選択肢3
『日本語指導が必要な児童生徒を対象とした「特別の教育課程」の編成・実施について(概要)』(魚拓)によると、特別の教育課程では、日本語の能力が不十分な児童生徒を対象に日本語の指導を行ったりします。正しい記述です。
選択肢4
「DLA」は、<はじめの一歩>(「導入会話」と「語彙力チェック」)と、<話す><読む><書く><聴く>の4つの言語技能から構成されています。
『第1章「対話型アセスメント(略称「DLA」)の概要』(魚拓)にはこう書かれています。DLAは筆記テストではなく、四技能を測定するものだからこの選択肢は間違い。
答えは3です。
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