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平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説

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平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説

問1 間接的表現

 ここでいう「間接的表現」とは間接発話行為と捉えていいです。つまり、その表現が字義通りの意味ではない意味を表出している場合、その表現を間接的表現と呼びます。例えば「なんだか暑いね」を字義通りに解釈すると「気温が暑い」という意味になりますが、エアコンもついていなくて窓も開いていない部屋でこの発話がなされると、それは文脈から「エアコンつけてほしい」「窓開けてほしい」みたいな意味を表すことがあります。これが間接的な意味です。

 各選択肢の表現が字義通りの意味を担っているかを見てみましょう。

 1 「あそこの棚届く?」と聞いて、「棚の上の物を取って」という意図を伝えています。
 2 字義通りの意味を担っています
 3 字義通りの意味を担っています
 4 字義通りの意味を担っています

 答えは1です。

問2 母語習得

選択肢1

 この記述は「共同注視(共同注意)」と呼ばれるものです。子どもが他者と同じ対象に注意を向ける共同注視は、子どもの言語発達、言語獲得の基盤として必須とされています。この選択肢が答え。

選択肢2

 子どもは周囲の人々が話している言語音を聞き、彼らの母語に含まれる音韻だけを弁別できるようになって、それを母語として身に付けます。生まれた直後に母語があるわけではないのでこの選択肢は間違い。「生まれた直後」ではなく、いわゆる音韻の臨界期の子どもだったら母語の音韻は弁別できますが、外国語の音韻は弁別できなくなります。

選択肢3

 母語習得については詳しくないのでこの記述は正しいように見えるのですが…
 たぶん、まず音韻を習得して、語を習得して、語長が長くなって… という過程はどの言語でも同じなのだろうと思われます。

選択肢4

 養育者から文法を教わるのもあると思いますけど、自分なりの文法体系に基づいた発話に対するフィードバックを見て、規範的な文法はどれかという肯定証拠否定証拠を得てもいたりするはず。だからこの選択肢は間違い。

 答えは1です。

>問3 語用論的転移の例

 第二言語を用いるときに、第一言語の語用論的知識を転移させることを語用論的転移と言います。例えば英語では他者を勧誘するときに「Would you like to」(~したいですか?)という形式を用います。この語用論的知識を日本語に転移させると「夕食に行きたいですか?(Would you like to go to dinner?)という表現になることがあります。日本語で勧誘するときは「~しませんか?」などの表現を用いるのが一般的です。

選択肢1

 なぞ(誰か教えて)

選択肢2

 おそらく英語の「Would you like to go for a drink?」を直訳したものです。英語だと問題ない表現ですが、日本語だと不適切。こういうのが語用論的誤りです。

選択肢3

 英語の work は勉強も仕事にも使える語なのでこういう誤りになります。これは語用論的転移ではなく、語彙領域の転移。

選択肢4

 英語の marry (結婚する)は他動詞だからその目的語を取ります。この学習者は日本語の「結婚する」も英語と同様に他動詞だと予測して、「彼を結婚します」と他動詞用法で使っているというわけです。これは文法領域の転移。

 答えは2

 

問4 語用論的転移が起こりやすい場合

選択肢1

 母語と学習言語が似ている部分があると感じていると、母語の言い方が学習言語環境でも通用すると思い込みやすいので、語用論的転移は起こりやすくなります。母語と学習言語が遠いと思っていれば警戒しますから転移は減ります。この選択肢が答え。

選択肢2

 様々な表現方法を知っていると転移を回避しやすいので、それだけ語用論的転移も起こりにくくなります。この選択肢は逆。

選択肢3

 母語のある特定の表現が特異性を持っていると認識している場合、その形式を学習言語に適用しようとしなくなるため語用論的転移は起こりにくくなります。この選択肢は逆。

選択肢4

 ある状況での適切な表現が母語と学習言語で違うと思っていれば、それを回避して別の表現を使うようになるので語用論的転移は起こりにくくなります。この選択肢は逆。

 答えは1です。

問5 ロールプレイにおけるタスクと表現学習

 ロールプレイにおいて、先にタスク(ロールプレイ)を行ってから指導を行うものをタスク先行型と呼びます。何も教えないでまずタスクをすると、こういう時どう言えばいいんだろうとか、こう伝えたいんだけど表現を知らないから言えないみたいなことが起きやすくなります。まずそういう経験をさせることでその後の表現学習のモチベーションを作ります。

選択肢1

 表現学習を先に行うと、学習者はそれに従って発話しようとするので表現の自由度は低くなります。この選択肢は間違い。

選択肢2

 初級前半レベルであればまず表現学習をしてからタスクを行ったほうがいいです。タスクを先に行うのはもっとレベルが高い学習者に適しています。この選択肢は間違い。

選択肢3

 あらかじめ表現学習を行うと、それに従って発話しようとするので状況対応力は養いにくくなります。この選択肢は間違い。

選択肢4

 正しいです。タスクを先に行うことで、できることとできないことを学習者に気付かせることができます。

 答えは4です。

 




コメント

コメント一覧 (7件)

  • 管理者様

    問2について

     私は母語(におけるコミュニケーションスタイルの)習得に関する記述として「最も適当なもの」だと思った選択肢1を選びました。コミュニケーションにおいて対象に注意を向けるという行為は必須であると考えます。子どもは親の領域内で対象を親と同じ目線で見て、そして親の発話を耳にします。その過程によって母文化の価値観が反映され、コミュニケーションスタイルが継承されてゆく、と考えました。
     そして選択肢2 3 4 についてですが、真偽のほどは分かりませんが、すくなくとも設問内の文脈で規定される母語習得と関連性が薄く、「最も適当なもの」とは言えないと考えます。

    よって
    1 母語におけるコミュニケーションスタイルの習得の過程
    2 母語における音韻の習得の過程
    3 母語における発達段階の過程
    4 母語における文法の習得の過程

    となり、設問の「下線部B『母語習得』に関する記述として最も適当なもの」は選択肢1だと考えました。

    • 設問2は、2と3はそもそも間違ってるから選ぶなら1と4でしょうけど
      4が選択肢からはずれる理由がわかりません。

      あとfoolさんの考え方ですが、設問にコミュニケーションスタイルのことは書かれていないので
      コミュニケーションの習得にかかわるから1を選ぶのは違うと思います。

      • >pontaさん
        コメントありがとうございます。この問題は現在根拠となる研究、論文、書籍等が見つかっておりません。
        選択肢2については生まれた直後は第一言語すら習得していない状況ですので、どんな言語でも音韻を弁別することはできないはずです。これは良いんですが… 選択肢3はどうして間違いだと思われたのか教えていただけませんでしょうか。

        • 選択肢3はチョムスキーによる普遍文法の理論からどの言語にも共通する発達段階があると考えられます。
          選択肢4ではプラトンの「刺激の貧困」を説明できないためではないでしょうか。養育者の発話の模倣のみで子どもが母語を習得できるとは考えにくいです。
          ただ、これらの理論はチョムスキーによる言語生得説に則っているため、協会はチョムスキーの説に従っていると思われます。

  • こんにちは。試験勉強のためにいつもありがたく拝読しております。

    問題11の問2ですが、以前に言語学の概論的講義で習ったのですが、
    「共同注意」が該当するのではないかと思います。

    ○「共同注意は、乳児が他者の発話時にその対象物を見ることで言語を学習できることから(後略)」
    https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%85%B1%E5%90%8C%E6%B3%A8%E6%84%8F

    ○「この、対象に対する注意を他者と共有する行動である共同注視は、言語獲得の基盤として必須なものである。」
    https://www.blog.crn.or.jp/lab/09/11.html
    ↑は「共同注視」という用語を使っています。

  • >けやきさん
    ありがとうございます!
    幼児の言語発達についてはほとんど知らなかったので、専門用語まで提示していただき非常に助かりました。間違いなく選択肢1と同じですね!
    解説に誤りや不備等ありましたらコメントください。試験まであと1週間切りましたが、頑張ってください。

  • 問題11問2、「母語習得」の問題のように、いくつかの学説がある場合には、課題文中に誰々の学説では〜」と指示して、質問して頂かないと、困ります。いくつもの論文を見比べて読んで、結論が出るようでは・・・こちとら、学者を目指しているわけではありませんので。そういう検定試験なんでしょうか?  (論文を読んでいる分には、なかなか面白いのですが、試験までに時間が限られているわけで)

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