令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3B解説
(6)テ形
これまで試験では五段動詞、一段動詞などの名前で出題されていたんですが、今回はじめてⅠグループ、Ⅱグループって言葉が出てきています。Ⅰグループは五段動詞、Ⅱグループは一段動詞のことです。私これどっちかっていうと慣れてない…
で、この問題はⅠグループの話をしてますから、五段動詞について検討すればOK!
まず (ア) についてですが、ここでは「う」「つ」「る」「む」で終わる動詞について検討してみます。
「う」で終わる動詞はテ形で「って」 (買う→勝って)
「つ」で終わる動詞はテ形で「って」 (勝つ→勝って)
「る」で終わる動詞はテ形で「って」 (狩る→狩って)
「む」で終わる動詞はテ形で「んで」 (噛む→噛んで)
「む」で終わるときだけ「って」にならないので、「む」が含まれる選択肢は除外できます。すると選択肢1か2に絞られる。
次に (イ) について、「ぬ」「ぶ」「む」「ふ」「う」があります。これも一つずつ見ていきましょう。
「ぬ」で終わる動詞はテ形で「んで」 (死ぬ→死んで)
「ぶ」で終わる動詞はテ形で「んで」 (結ぶ→結んで)
「む」で終わる動詞はテ形で「んで」 (噛む→噛んで)
「ふ」で終わる動詞は現代にないです
「う」で終わる動詞はテ形で「って」 (買う→勝って)
すると「ぬ」「ぶ」「む」のときは「んで」になってて、これで答えが1に絞れます。
答えは1です!
(7)テ形の例外
Ⅰグループ(五段動詞)のテ形の例外を聞いています。これは日本語教師として絶対覚えておくべきもの。
普通「く」で終わる動詞はテ形で「いて」になります。書く→書いて、置く→置いてなど。でも「行く」は「行いて」ではなく「行って」です。「行く」は初級の初級で出てくる動詞なだけに、テ形の例外であることは必須の知識です。
このほか私が今思いつく限りを挙げると、「沿う→沿うて」「問う→問うて」「請う→請うて」「乞う→乞うて」もあります。でもこっちは初級にも中級にもなかなか出てこない動詞だから日本語教育であんまり問題にならないんです。
1 「行く」がありますからこれが答え
2 「行く」があるけど、「歩く」は例外じゃない
3 「着る」はそもそもⅡグループ(一段動詞)だからここでは論外
4 「着る」は論外、「ある」は例外じゃない
したがって答えは1です。
(8)様子を表す従属節
この問題を解く前に知っておきたいのは、テ形にはいろんな使い方があるよーってことです。次のを見てください。
荷物を整理して、出発する。 (継起)
包丁を使って切った。 (手段・方法)
地震で揺れて起きた。 (原因・理由)
喜んで返事をした。 (付帯状況)
ここに並べたのはテの一部です。他にももっとあります。こうしてみると同じテなのに意味が違うことが分かりますね。
そして、この問題で聞かれている「主体の様子を表す用法」が付帯状況のテを指しています。付帯状況とは簡単にいうと「ながら」。ある事態に付随して別の事態が起きることを表すものです。例えば「youtubeを見ながらご飯を食べる」は、「ご飯を食べる」という事態に「youtubeを見る」という事態が付随しています。こんな感じの文を付帯状況と呼びます。
1 下山して、それから泊まった (継起)
2 荷物を背負いながら登った (付帯状況)
3 遅れたから叱られた (原因・理由)
4 聞いたから安心した (原因・理由)
付帯状況のテが使われているのは選択肢2。
だから答えは2です。
(9)原因・理由を表すテ
この参考書のp284にはこのような記述があります。
2つの事態が意志的な動きであれば、それは継起を表すと解釈されるが、従属節または主節のどちらか、あるいは両方が無意志的な動きである場合には、先に起こった出来事が原因であとの事態が起こると解釈される。
つまり、もうこれだけで答えが3ってことは分かります。
しかし試験中は本なんか参考にできないから、例文を作って確認してみましょう。
選択肢1
(私が)お皿を洗って、(私が)お風呂に入った。
従属節も主節も人です。でもこれは継起。原因・理由ではないです。
選択肢2
警察が来て、犯人を捕まえた。
これもやっぱり継起。
選択肢3
太陽が昇って、朝が来た。 (無意志+無意志)
ホラー映画を見て、怖くなった。 (意志+無意志)
銃声が鳴って、身構えた。 (無意志+意志)
従属節と主節のいずれかが無意志動詞、あるいはどちらも無意志動詞の場合、従属節は主節の原因・理由を表します。この例を見ると確かに原因・理由を表してますね!
選択肢4
薬を飲んで、治しました。
こうすると従属節も主節も過去になりますけど、どっちも意志的な動詞で例を作ってみたらやっぱり継起。
というわけで答えは3です。
(10)「~なくて」と「~ないで」
選択肢1
○商品が売れなくて、怒られた。
〇志望動機が書けないで、困った。
原因・理由のときは「なくて」「ないで」がどちらも使えそうです。「~ないで」しか使えないという言い方をしているこの選択肢は間違い。
選択肢2
✕荷物を持たなくて、出かけた。
○荷物を持たないで、出かけた。
主体の様子、つまり付帯状況は「ないで」を使います。この選択肢は正しいです。
選択肢3
イ形容詞「美しくないで」、ナ形容詞「綺麗でないで」なんて言い方はないので間違ってます。
選択肢4
「学生でないで」なんて言い方はないから間違い。
よって答えは2です。
コメント
コメント一覧 (7件)
いつもお世話になっております。やっとR4の過去問をスタートします。
テ形にはこんなにも種類があるなんて知りませんでした。(試験Ⅰ問題3B)
わかりやすい説明ありがとうございます。
>まっきぃさん
頑張ってください!
初めてコメントさせていただいきます。過去問解説やその他資料紹介などでは大変勉強させていただいております。ありがとうございます。
令和4年度検定試験、試験Ⅰ問題3B(10)についてどうもよく分かりません。と言いますのは、JEESの解答は2となっているのですが、『改訂版 日本語文型辞典』のP325【ないで】の項には、1⃣V-ないで〈付帯状況〉2⃣V-ないで〈代わりに〉3⃣V-ないで〈原因〉とあり3⃣の例文には(1)子どもがちっとも勉強しないで困っています。他4例が挙がっています。これが正しいとすると、選択肢1も正しいことにならないでしょうか。JEESの解答が正しいとすると(つまり1は間違いだとすると)この辞典は間違いを記述していることになってしまいます。先生も解説に1は間違いと書いていらっしゃいます。1が間違いだとする根拠は何なのでしょう。
日本語文法は難しいです。よろしくご教授お願いいたします。
なお、この質問は当該辞典出版のくろしお出版、またJEESにも問い合わせるつもりでおります。
>阿部さん
阿部さんご指摘の通り、「~ないで」も原因・理由を表す用法があるんですね! この点、私の解説のほうを更新しておきます。ありがとうございます。
その上で、選択肢1は原因・理由を表す場合は「~ないで」が使われると述べていますが、それは逆に「~なくて」は使われないということを含意していると思われます。しかし解説にある通り、「~なくて」は原因・理由を表すときに使えそうです。どちらも原因・理由を表せるなら「原因・理由を表す場合はどちらも使える」とすべきなので、その点が間違っているのではないかと思いました。
私は当初は原因・理由を表すときは「~なくて」しか使えないと思い、それを根拠に解説を書きました。しかし、ご指摘の通り「~ないで」も使えるようですので、それが根拠となって選択肢1は否定できそうです。何かさらに不明点がございましたらコメントください!
管理人様
お尋ねいたしました阿部康夫です。
早速に詳しいご説明をありがとうございました。選択肢1の「それは逆に「~なくて」は使われないということを含意していると…」というご説明でストンと落ちました。私には、この含意が読み取れませんでした。難しかったです。問題文や、選択肢の文の読み方も、今後の課題となりました。
感謝申し上げます。ありがとうございました。
いつもこちらのサイトを見て、勉強しております。
(8)で挙げられていた原因・理由のテを、(9)答えの「従属節か、主節のどちらか、または両方が無意思的な出来事の場合」に当てはめてみました。
以下の理解で、合っていますでしょうか?
(8の例文)地震で揺れて起きた。(無意思+意思)
(8)3ー私は、約束の時間に遅れて父に叱られた。(意思+無意思)
(8)4ー私は、合格の知らせを聞いて、安心した。(無意思+無意思)
自分なりに理解を深めたいと思って、質問しました。
お手隙の際に、返信いただけましたら、幸いです。
>もちさん
コメントありがとうございます。
そちらの例文は全て原因・理由の「て」の例として正しいと思います。少なくとも従属節と主節のいずれかが無意志的であれば原因・理由と解釈される旨、(9)の参考文献に書かれています。