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平成27年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

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平成27年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

問1 授受動詞の使い分けの基準

 「あげる(やる)」「くれる」「もらう」は、物が誰から誰に移動したかによって求心的か遠心的かに分けられます。物がソトからウチへと向かうものが求心的で、ウチからソトへと向かうものが遠心的です。ここではウチの存在として「私」、ソトの存在として「彼」を用いて例文を作ります。

 (1) 私が彼にプレゼントをあげた。 (私→彼:遠心的)
 (2) 彼が私にプレゼントをくれた。 (彼→私:求心的)
 (3) 私が彼にプレゼントをもらった。(私←彼:求心的)

 「あげる」はウチからソトへの物の移動を表す動詞で、遠心的です。「彼が私にプレゼントをあげた」のようにソトからウチへの移動は表しにくいことから見ても求心的でないことが分かります。
 「くれる」「もらう」はソトからウチへの物の移動を表す動詞で、求心的です。「私が彼にプレゼントをくれた」や「彼が私にプレゼントをもらった」とは言いにくいので、これらの動詞はウチからソトへの物の移動を表すことはできず、遠心的ではありません。
 遠心的か求心的かでこの3つの授受動詞を捉えると、「あげる」は遠心的、「くれる」「もらう」は求心的ということになります。(ここではソトからソトへの物の移動については省略します)

 さらに、「あげる」「くれる」「もらう」は与え手が主語になるか、受け手が主語になるかでも区別できます。「あげる」「くれる」は与え手が主語になり、「もらう」は受け手が主語になります。

 これらを表にするとこんな感じ。

あげる くれる もらう
遠心的 求心的
主語が与え手 主語が受け手

 答えは1です。

問2 授受動詞の格助詞の使い方

 授受動詞「あげる」「くれる」「もらう」は、物の授受を表すときもありますし、行為の授受を表すときもあります。物の授受を表すときは授受動詞を本動詞として用いた時であり、次の例(1)~(3)がそうです。行為の授受を表すときは「~てあげる」「~てくれる」「~てもらう」と動詞のテ形に接続して授受動詞を補助動詞として用いたときであり、例(4)~(6)がそうです。

 (1) 彼が妻に花をあげた。      <物の移動+物の授受>
 (2) 彼が私に花をくれた。      <物の移動+物の授受>
 (3) 彼女が彼に花をもらった。    <物の移動+物の授受>
 (4) 彼が妻に花を買ってあげた。   <物の移動+行為の授受>
 (5) 彼が私に花を買ってくれた。   <物の移動+行為の授受>
 (6) 彼女が彼に花を買ってもらった。 <物の移動+行為の授受>

 これらの文は本動詞で物の授受を表すにしろ、補助動詞で行為の授受を表すにしろ、すべて「花」の所有権が移動しているので<物の移動>を表す面で共通しています。このとき、文型は全て〔~が~に~を〕型です。

 (7)a *夫が子どもに宿題を手伝ってあげた。  〔~が~に~を〕
    b 夫が子どもの宿題を手伝ってあげた。   〔~が~を〕
 (8)a *お父さんが私に宿題を手伝ってくれた。 〔~が~に~を〕
    b お父さんが私の宿題を手伝ってくれた。  〔~が~を〕
 (9)a 私がお父さんに宿題を手伝ってもらった。 〔~が~に~を〕
    b お父さんに私の宿題を手伝ってもらった。 〔~に~を〕

 しかし、「~てあげる」「~てくれる」で物の移動を表さない行為の授受を表す場合は〔~が~に~を〕型の文型をとることができず、〔~が~を〕型にしなければいけません。「~てもらう」は〔~が~に~を〕型も可能ですが、〔~に~を〕型も可能です。すなわち、これらの文法現象は次のように記述できそうです。

 ①主語が与え手になる授受動詞(「あげる」「くれる」類)は、<物の移動>を表すときは〔~が~に~を〕の文型をとり、<物の移動>を表さないときは〔~が~を〕の文型をとる。
 ②主語が受け手になる授受動詞(「もらう」類)は、<物の移動>を表すときは〔~が~に~を〕の文型をとり、<物の移動>を表さないときは〔~が~に~を〕か〔~に~を〕型の文型をとる。

 これを使って問題を解いてみましょう。

選択肢1

 「指輪」の所有権が移っているので<物の移動>を表す「~てあげる」です。この選択肢の例文は①にしたがって〔~が~に~を〕型の文型をとっているので、格助詞の使い方は正しいです。この例文の間違いは、「あげる」ではなく「くれる」を使うべきで、動詞選択を誤っています。
 この選択肢は間違い。

選択肢2

 「お菓子」の所有権が移っているので<物の移動>を表す「~てあげる」です。この選択肢の例文は①にしたがって〔~が~に~を〕型の文型をとっているので、格助詞の使い方は正しいです。この例文の間違いは、「あげる」ではなく「くれる」を使うべきで、動詞選択を誤っています。
 この選択肢は間違い。

選択肢3

 「宿題」は手伝ってくれる前から所有権が「私」であり、手伝ってくれた後も所有権は「私」にあります。だから<物の移動>を表さないタイプの「~てくれる」です。①にしたがうと、<物の移動>を表さない「~てくれる」は〔~が~を〕の文型をとるはずですが、この選択肢の例文は〔~が~に~を〕型となっていて、<物の移動>を表すときの文型となっています。格助詞の使い方が異なるのでこの選択肢が答え。正しくは「友達が(私の)宿題を手伝ってくれた」です。

選択肢4

 「本」の所有権が移っているので<物の移動>を表す「~てくれる」です。この選択肢の例文は①にしたがって〔~が~に~を〕型の文型をとっているので、格助詞の使い方は正しいです。この例文の間違いは、「くれる」ではなく「もらう」を使うべきで、動詞選択を誤っています。
 この選択肢は間違い。

 よって答えは3です。

問3 恩恵の意味を表さない用法

 誰かに対して利益を表す場合に「恩恵」と言います。各選択肢の例文における恩恵が誰に向かっているのか確認します。

 1 「合わせてあげる」はストールがシャツに対する行為の授受ですが、両者無情物なので非恩恵的です
 2 「降ってくれた」は雨から人に対する行為の授受で、受け手が有情物なので恩恵の意味が現れます
 3 「出してあげた」は話し手から友達に対する行為の授受で、受け手が有情物なので恩恵の意味が現れます
 4 「切ってくれました」は母から話してに対する行為の授受で、受け手が有情物なので恩恵の意味が現れます。

 無情物には感情がないので、恩恵を与える意図もなければ、恩恵を受けたという意識もありません。与え手も受け手も無情物である選択肢1の文は非恩恵的。
 答えは1です。

問4 授受動詞の待遇表現

選択肢1

 「やる」「あげる」「さしあげる」はウチからソトへの授受を表す動詞です。「やる」は目下に、「あげる」は同等の者に、「さしあげる」は目上に移動するときに使う表現なので、通常目下と認識されるペットや植物などには「ご飯をやる」「水をやる」というのが普通です。しかし現代ではペットも人と同等という考え方からなのか、あるいは「やる」がぞんざいな感じがするのか等の理由で、ペットや植物にも「あげる」を使うようになってきています。選択肢1の理由づけは正しいです。

選択肢2

 五段動詞の命令形は「書く(kak-u)」の活用語尾を /e/ にして「書け(kak-e)」として作ります。この規則を「くださる(kudasar-u)」に適用すると命令形は「くだされ(kudasar-e)」になるはずですが、現代ではこのように言いません。正しくは「ください(kudasai)」です。命令形が不規則な活用になっているのは事実です。この内容は正しいです。

選択肢3

 「先生の荷物を持ってあげました」というと失礼な感じがします。先生は目上の人ですから「あげる」ではなく、「あげる」の謙譲語「差し上げる」を使えば丁寧になるはずですが、「先生の荷物を持って差し上げました」というと丁寧さはあるものの、恩着せがましい感じが出てきます。
 謙譲語を使って自分の行為をへりくだったとしても、自分が相手のために行動しているという事実は変わらないため、恩を与えているという上から目線感が抜けません。相手が目上でも「~て差し上げる」を使うのは語用論的に不適切。だから「差し上げる」は目上に対して使用が義務的とは言えません。これが答え。

選択肢4

 「助けてくれる」のような複合動詞において、前についている「助ける」のほうが本動詞、後ろの「あげる」のほうが補助動詞です。ここでは「くれる」の尊敬語「くださる」を例に考えます。
 五段動詞のマス形は動詞語幹に /-imasu/ をつけて作ります。例えば「書く(kak-u)」なら「書きます(kak-imasu)」です。この規則を「くださる(kudasar-u)」に適用すると「くださります(kudasar-imasu)」になるはずですが、現代では動詞語幹末尾の /r/ が脱落して「くださいます(kudasa-imasu)」が使われています。また、「手伝ってくださる」をマス形にしても「手伝ってくださいます」とやっぱり /r/ が脱落します。つまり「くれる」は本動詞だろうが補助動詞だろうがマス形で不規則な活用をするということです。
 ちなみに謙譲語Ⅱの「ござる(gozar-u)」もマス形で「ござります(gozar-imasu)」ではなく「ございます(goza-imasu)」となり活用が不規則。本動詞だろうが補助動詞だろうが活用は不規則です。
 この選択肢の内容は正しい。

 だから答えは3です。

問5 授受を表す他の動詞との差異

選択肢1

 「くれる」は「彼が指輪をくれた」や「雨が降ってくれた」のように、有情名詞も無情名詞も主語にとることができます。
 授受を表す「与える」は「先生は課題を与える」や「この作品は人々に大きな影響を与えた」のように、有情名詞も無情名詞も主語にとることができます。
 この選択肢は間違い。

選択肢2

 「もらう」は「彼にボールをもらった」というと恩恵を感じるので恩恵表現です。
 「受ける」は「ボールを受ける」といっても恩恵の意味がないので、恩恵表現ではありません。
 この選択肢が答え。

選択肢3

 「あげる」には「彼女に指輪をあげる」のように物の移動の用法があるので、前件の内容が間違い。
 授受を表す「渡す」には「お金を渡した」のように物の移動にしか使えません。後件の内容は正しい。
 この選択肢は間違いです。

選択肢4

 「やる」についての前件はちょっと意味が分からないんですが…
 授受を表す「出す」は「宿題を出す」のように恩恵の意味は含まれていません。
 後件が間違いなのでこの選択肢は間違い。

 答えは2です。




コメント

コメント一覧 (18件)

  • 問5の正解は2とありますが、選択肢1の説明を読むと、1も正解のように思えるのですが、どこが違っているのでしょうか。

  • >目黒千早さん
    失礼しました。確かに問題文1と同じ内容でした。
    「与える」は有情名詞も無情名詞ともに主語になることができますので、選択肢1は間違いということになります。
    ご指摘ありがとうございました!

  • 丁寧なご解説に、いつも心より感謝しております。
    たいへんすみませんがお教えください。
    27年度試験Ⅲ 問題1解説「問1 授受動詞の使い分けの基準」のご解説において、以下のようにお書きくださっていますが、

    A【「あげる(やる)」「預ける」「貸す」「売る」などの】
    B【行為がソトからウチへ向かうものが求心的】、
    C【「くれる」「もらう」「借りる」「買う」などの】
    D【行為がウチからソトへ向かうものが遠心的です。】

    との記述は、これで正しいのですか?
    Bだけ、Dだけを読めばよくわかるのですが、これとAとBとのつながりが、何度読んでもわからないのです。
    もしかしてAとCの記述が入れ替わっている、というようなことはありませんか?
    私が理解できないだけでしょうか???

    図解において「あげる」が遠心的、「くれる」「もらう」が求心的となっているのは、その通りによくわかるだけに、これとA-B-C-Dの記述が、同じことだということなのかどうかが理解できません。

    他のサイトで、
    【共通語では他者が話者に与える求心的方向の授与には「くれる」を用い、話者が他者に与える遠心的方向の授与には「やる」「あげる」を用いる。】
    http://yourei.jp/%E6%B1%82%E5%BF%83%E7%9A%84%E6%96%B9%E5%90%91
    としている記述もあります。

    このサイトの記述と、先生のA-B-C-Dの文は、同じことをおっしゃっているのでしょうか?申し訳ありません。

  • >伊藤さん
    ご指摘ありがとうございます。
    確認しましたところ、まとめ間違いでした。おっしゃる通り、AとCの記述が逆になっていました。
    正しくは「あげる等はウチからソトへの遠心的、くれる、もらう等はソトからウチへの求心的」です。
    ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。他に問題等ありましたら、コメント頂ければと思います。

    • とんでもありません。
      迅速ご丁寧なお答えをいただき、疑問も氷解しました。
      先生の解説は、どんな教科書よりも明快親切で勉強になります。
      本当にありがとうございました。
      伊藤敏朗

  • 解説ありがとうございます。
    いつも勉強させていただいております。
    上記コメントにて、伊藤さんが一度指摘されているようですが、違う形で修正されているのでは?と思い、質問させていただきます。

    2019/10/05本日時点では、
    問1 授受動詞の使い分けの基準
    「あげる(やる)」「預ける」「貸す」「売る」などの行為がウチからソトへ向かうものが求心的、「くれる」「もらう」「借りる」「買う」などの行為がソトからウチへ向かうものが遠心的です。
    となっていますが、「求心的」と「遠心的」が逆ではないでしょうか。
    図解では「あげる=遠心的」となっていますが、記述は逆なので、あれ???となっている状況です。

    • >Hannaさん
      コメントありがとうございます!
      一度修正したにも関わらず再び間違っていたようで大変申し訳ございません。図解では「あげる=遠心的」「くれる/もらう=求心的」となっておりますが、こちらが正しいです。図解の下の説明に誤りがありました。正しくは「『あげる』等などの行為がウチからソトへ向かうものが遠心的、『くれる』等の行為がソトからウチへ向かうものが求心的」です。
      すでに修正致しました。今後ともよろしくお願いいたします。

  • お早いお返事&修正対応ありがとうございます。
    納得いたしました!
    文法のまとめも重宝しております!
    今後も勉強させていただきます(^ ^)

  • はじめまして
    先生の解説は詳細で分かりやすいので本当に助かっており感謝しております。
    初歩的な質問でしたら申し訳ありません。

    問題1の問5において、「受ける」には恩恵的な意味が含まれていないので、この選択肢を選ばなければならないということなのですが、例えば「もてなしを受ける」などは恩恵には当たらないのでしょうか?

    どうぞよろしくお願いいたします。

    • >和泉まきよさん
      コメントありがとうございます! お答えいたします。
      「もてなしを受ける」には恩恵の意味が含まれていますが、実際に恩恵表現となっているのは「もてなし」です。「受ける」自体には含まれていません。
      明日の試験、頑張ってください! 返信遅れて申し訳ありませんでした。

  • いつも参考にさせていただいております。ありがとうございます。
    1ー4選択肢3ですが、『使用が義務的』である、とありますが、使用が義務的とはこの場合どのような意味なのでしょうか?
    辞書には、進んでするのではなく義務としてするさまとありますが…

    この問いは、『目上の人に直接言う』がおかしいと言う理由で不適当とするということでしょうか?

    よろしくお願いいたします。

    • >noliさん
      コメントありがとうございます!

      「て差し上げる」は目下から目上に対面して言うときは使用が義務的とありますが、この「使用が義務的」は”必ず使わなければいけない”という意味合いです。

      しかし目下の人が目上の人にお土産を買ったときに「私は部長にお土産を買って差し上げた」というと厚かましさもあり、押しつけがましい感じもします。「て差し上げる」は目上に対して一律に使えるものだと理解していると逆に失礼になることもあります。目下から目上への使用は義務的ではなく、このように使いにくい場合もあります。というわけで「使用が義務的」の部分が誤りなので、答えは3になります。

  • ありがとうございます。
    私の勉強不足ですが、『使用が義務的』という言い方を普段聞いたことがないので、ん?と思ってしまいました。
    ありがとうございました。

  • 問2ですが

    友達が私に日本語を教えてくれた

    の場合はどうでしょうか。行為の授受ですが「~は~に~を~てくれた」になると思うのですが。

  • >くじらさん
    「教える」という動詞が三項動詞ですので、必ず「~が~に~を教えた」の形を取ります。これは補助動詞「くれる」があるかどうかで格関係が変わっているわけではなく、動詞の取る項によって変わっていると考えられます。下線部Bの内容とはちょっと違います。

  • お答えありがとうございました。
    理解いたしました。
    試験の後は、勉強から離れて過ごしており
    お礼が遅くなりました。
    申し訳ございません。

    本日、合格証書が届きました。
    過去問と赤本だけの独学で合格を目指す作戦でしたが、先生のこのブログは本当にありがたかったです。
    先生のユーモアにクスっとしながら楽しく勉強することが出来ました。
    本当にありがとうございました。

  • 先ず、てくれる等の補助動詞がつくと恩恵的な意味になると言うことですか、買ってくれたも行為の授受と考えていいのでしょうか(恩恵ではなく
    また、ご説明の中で、行為の授受の文型は、「〜は〜を〜てくれた」と書いてありますが、田中さんは私に指輪を買ってくれたとか鈴木さんは私にお菓子を焼いてくれた等受け手が入ってますが、恩恵の授受の場合と行為の授受とは異なるのでしょうか。
    レバル低すぎですすみません。

    • >明日頑張ろうさん
      コメントありがとうございます。お答えします。

      「~てくれた」だけでなく、「~てあげた」「~てもらった」などは全て利益のやり取りをしていますから恩恵表現です。「あいつを殺してやった」のような「~てやる」も不利益のやり取りなので恩恵表現です。
      これらの文型は同時に行為が相手に向かったり、自分に向かったりしています。だから行為の授受表現です。
      「~て」が無ければ物の授受表現になります。「~をあげる」「~をくれる」「~をもらう」などは行為ではなく物の移動ですね。

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