平成23年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題11解説

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平成23年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題11解説

問1 ポライトネス理論

 問題の文章を読むと「フェイス」という言葉が出てきています。これはブラウン&レビンソン(1987)のポライトネス理論における重要な概念です。ポライトネス理論について詳しいことはリンク先をご覧ください。

 ポライトネス理論におけるフェイスは、全ての人間が持つ基本的な欲求のことです。この欲求は2つに分けられるとされ、一つは人に好かれたい、共感されたい、認められたいという欲求の  ポジティブ・フェイス  、もう一つは人と距離を取りたい、邪魔されたくないという欲求の  ネガティブ・フェイス  です。

 なので答えは2

問2 ポジティブ・フェイス

 下線部Aはポジティブ・フェイスのことです。

選択肢1

 発話内容の断定性を弱め、明言を避ける表現のことを垣根表現(ヘッジ)と言います。「それはちょっと直したほうがいいかもしれないと思うけど」でいうと、「ちょっと」「かもしれない」「と思うけど」などが垣根表現にあたります。垣根表現を用いずにはっきりと「それは直したほうがいい」というと、聞き手はその話し手の要求に応えなければならないという圧力にさらされ、ネガティブ・フェイスが大きく侵害されます。なのでその侵害の度合いを低めるために「それはちょっと直したほうがいいかもしれないと思うけど」と垣根表現を用い、その要求に応えなくてもいいという選択肢を与えるような言い方をしています。つまり垣根表現を用いることは相手のネガティブ・フェイスに配慮した行為(ネガティブ・ポライトネス)です。

選択肢2

 選択肢1でも述べたように「それは直したほうがいい」とか「直せ」のように直接的な言い方をすると、聞き手はその命令に応じなければならないという圧力にさらされ、ネガティブ・フェイスが大きく侵害されます。直接的な言い方をするのは、ポライトネス理論におけるボールド・オン・レコード・ストラテジーに該当しますが、このストラテジーは相手のフェイスに全く配慮しない行為です。この選択肢は間違い。

選択肢3

 仲間内で使われる言葉を用いることは、聞き手の近づきたい、好かれたい、共感されたいというポジティブ・フェイスを配慮する行為です。この選択肢が答え。

選択肢4

 「手伝って」のように直接言うと、聞き手はそれに応えなければならないという圧力にさらされ、ネガティブ・フェイスが大きく侵害されます。しかし「ちょっと手伝ってもらえませんか?」のように習慣的に用いられる間接表現を用いると、聞き手に手伝うか手伝わないかの選択肢を与えることになり、話し手の要求に応じなければならないという圧力も低減され、ネガティブ・フェイスを侵害する度合いが低まります。この種の行為はネガティブ・フェイスに配慮した行為(ネガティブ・ポライトネス)です。

 答えは3です。

問3 ネガティブ・フェイス

 下線部Bはネガティブ・フェイスのことです。

選択肢1

 「あなたのノート、本当に見やすいから」と相手を褒めることは、相手のポジティブ・フェイスに配慮した言語行動なのでポジティブ・ポライトネスです。

選択肢2

 相手のノートの必要性、価値を認めています。相手の近づきたい、共感してほしいというポジティブ・フェイスに配慮した言語行動(ポジティブ・ポライトネス)です。

選択肢3

 「貸してもらえないかな」というと聞き手は貸さなければならないという圧力にさらされてネガティブ・フェイスが侵害されてしまいますが、その後に「無理なら、他の人に聞いてみるけど」と言うことで “自分が貸さなくても構わない” という選択肢が増え、行為要求の強制力が低減します。したがってこの種の発話行為は相手のネガティブ・フェイスに配慮したネガティブ・ポライトネスです。

選択肢4

 自分も相手にお返ししようとしています。相手の近づきたい、共感してほしいというポジティブ・フェイスに配慮した言語行動(ポジティブ・ポライトネス)。

 答えは3です。

問4 協調の原理

 ここまで解説してきた通り、この問題はポライトネス理論の話です。
 ポライトネス理論における「ポライトネス」とは、会話参与者がお互いのフェイスを侵害する可能性に直面したとき、その侵害の度合いに応じてフェイスを侵害することを選んだり、侵害するとしてもある程度フェイスに配慮したりすることです。

 よって答えは4

問5 注釈

選択肢1

 「便所」を「お手洗い」と言ったり、「性交」を「寝る」と言ったり、「死」を「お別れ」と言ったりするのが婉曲表現です。

選択肢2

 慣用句とは、「腹が立つ」「頭に血がのぼる」みたいに語と語が強く結合して、各語の意味の総和ではない特殊な意味を持つようになった言語形式のことです。

選択肢3

 これが答え。自分の発言に注釈をつけるかのような表現。

選択肢4

 メタファーとは、物事のある側面から連想した類似性に基づく具体的なイメージを用いて、抽象的な物事を表す比喩の一種です。「頭が真っ白になる」「足が棒になる」などなど。

 答えは3です。

 

問6 規範的な立場から見る敬語の使い方

選択肢1

 この言い方でも別にいいんじゃないかなーと思うんですけどお… 尊敬語「~でいらっしゃいます」に注目して考えてみましょう。

 (1) 先生は何歳でいらっしゃいますか。
 (2) (そちらは)鈴木先生のお宅でいらっしゃいますか。

 (1)の「~でいらっしゃる」は主体である人物「先生」を立てているわけですが、じゃあ選択肢1「鈴木先生のお宅でいらっしゃいますか」の「~でいらっしゃる」は何を立てているかというと、(2)のように省略されている主体、おそらく「そちら」等を立てていると思われます。尊敬語が立てるのは人物です。しかし、(2)は人物ではなく、相手の家がある空間(そちら)を立てています。人物を立てていないので規範的に見ると誤りだと考える人がいるかもしれません。その点でこの選択肢は間違いです。 

選択肢2

 これが最も適切。

選択肢3

 電話のはじめに「鈴木先生、おりますか」のような聞き方は規範から逸脱しています。

選択肢4

 まずは「鈴木先生のお宅」であるかどうかを聞いてから、鈴木先生なのか聞いたほうがいい。規範から逸脱してます。

 答えは2です。




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