6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

バイリンガリズムとは?

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バイリンガリズム(bilingualism)

 バイリンガリズム(bilingualism)とは、「2つの言語が個人または社会の構成グループにおいて使用されること」(迫田 2002: 126)です。バイリンガリズムは、個人における二言語使用の個人的バイリンガリズム(individual bilingualism)と、社会における二言語使用の社会的バイリンガリズム(societal bilingualism)に分けられます。後者の状況は社会言語学でダイグロシア(diglossia)と呼ばれます。単にバイリンガリズムというと、一般的には個人的バイリンガリズムを指します。ここでも個人的バイリンガリズムについて触れます。

個人的バイリンガリズム(individual bilingualism)

 二言語を使用する人のことをバイリンガル(bilingual)と言います。なお、一言語を使用する人はモノリンガル(monolingual)、3つ以上の言語を使用する人はマルチリンガル(multilingual)です。バイリンガルといっても聞いたり読んだりはできるが、話したり書いたりはできないという人もいれば、そのどれもができる人もいます。個人の状態によって様々な種類があり、いろんな分類がなされています。

到達度による分類

 二言語の到達度から見るとバイリンガルは大きく3つに分けられます。両方の言語が年齢相応のレベルで流暢に使用できる場合を均衡バイリンガル(balanced bilingual)、一方の言語のみが年齢相応のレベルで流暢に使用できるが、もう一方の言語はそうではない場合を偏重バイリンガル(dominant bilingual)、二言語とも年齢相応のレベルに達していない場合をダブル・リミテッド・バイリンガル(double limited bilingual)と言います。均衡バイリンガルは理想的な状態とされています。

 様々な呼び方があります。均衡バイリンガルはバランスバイリンガル、完全バイリンガル(proficiency bilingual)とも呼ばれます。偏重バイリンガルはドミナントバイリンガル、部分的バイリンガル(partial bilingual)とも呼ばれます。ダブル・リミテッド・バイリンガルはセミリンガル(semilingual)、制限的バイリンガル(limited bilingual)とも呼ばれます。

四技能の発達の度合いによる分類

 言語能力には、聞く(listening)、話す(speaking)、読む(reading)、書く(writing)の4つの技能があり、二言語におけるこれらの技能の発達の度合いでバイリンガルを分類すると3つに分けられます。一方の言語は四技能全てできるが、もう一方の言語では「聞く」だけできる場合を聴解型バイリンガル、一方の言語は四技能全てできるが、もう一方の言語では「聞く」「話す」だけできる場合を会話型バイリンガル、二言語で四技能全てできる場合を読み書き型バイリンガル、あるいはバイリテラル(biliteral)と言います。一方の言語で四技能全てでき、もう一方の言語では「読む」だけできるというタイプの人は現実にかなり多いですが、この状態をバイリンガルと呼ぶことは一般にありません。

習得時期による分類

 バイリンガルはバイリンガリズムを獲得した時期によっても分類できます。幼少時にバイリンガルになった場合は獲得型バイリンガル(ascribed bilingual)、子供時代を過ぎてからバイリンガルになった場合は達成型バイリンガル(achieved bilingual)です。

 また、子どもが日々の生活を通してかなり早い時期に二言語に同時に触れ、習得する場合を同時バイリンガル(simultaneous bilingual)、あるいは同時発達バイリンガルと言います。先に一方の言語が先行して習得され、その後に第二言語が加わる形で習得するような場合を連続バイリンガル(consecutive bilingual)、あるいは継起バイリンガル、継起発達バイリンガル(sequential bilingual)と言います。自宅では一方の言語、外では別の言語を話したりするような環境にいる子どもは同時バイリンガル、日本に生まれて、その後両親の仕事などで海外に移り住むことになるなどすると連続バイリンガルです。

使用状況による分類

 例えば、英語を母語とする子どもが日本に生活を移すような状況において、第二言語である日本語に触れることで母語が失われたり、母語に加えて日本語を習得をすることがあります。第二言語を習得しても、第一言語の能力や第一言語の文化に根ざしたアイデンティティを損なわない場合を付加的バイリンガル(additive bilingual)、もしくは加算的バイリンガルと言い、第二言語を習得し、第一言語の能力や第一言語の文化に根ざしたアイデンティティを損なう場合を削減的バイリンガル(subtractive bilingual)、もしくは減算的バイリンガルと言います。付加的バイリンガルは第一言語が確立しているところに第二言語が加わりますが、削減的バイリンガルは第一言語の能力やアイデンティティが失われます。第二言語が母語をはぎ取ることで親子のコミュニケーションが難しくなったり、アイデンティティの喪失で深刻な問題を引き起こすこともあります。

参考文献

 迫田久美子(2002)『日本語教育に生かす第二言語習得研究』126-128頁.アルク
 コリン・ベーカー(1996)『バイリンガル教育と第二言語習得』11-28頁.大修館書店
 中島和子(1998)『バイリンガル教育の方法―地球時代の日本人育成を目指して』6-16頁.アルク




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