包括と除外
一人称複数形が聞き手を含む場合を包括、含まない場合を除外と言い、それらの形式を包括形(inclusive)、除外形(exclusive)と呼びます。東京方言(日本語標準語)にはない人称にかかわる文法規則なので、以下ではアイヌ語
アイヌ語沙流方言の例
日本語の一人称複数形「私たち」は複数の話し手だけを指すこともあれば、複数の話し手と聞き手をまとめて指すこともあります。次の東京方言の例を見てください。左の会話では話し手は聞き手を含んで「私たち」と言っていますが、右の会話は聞き手の男性を含まずに「私たち」と言っています。東京方言では一人称複数形を用いるとき、聞き手を含む場合でも聞き手を含まない場合でも区別せず「私たち」が使えます。
ところが、アイヌ語
”Eiga a=nukar” も “Eiga ci=nukar” も東京方言でいう「私たち映画見る」にあたりますが、「私たち」を表す語が左と右で違い、左は “a” 、右は “ci” です。アイヌ語
一人称複数包括形(聞き手を含める「私たち」) | 一人称複数除外形(聞き手を含まない「私たち」) |
a(ア)+他動詞 an(アン)+他動詞 an(アン)+自動詞 | ci(チ)+他動詞 as(アシ)+自動詞 |
参考文献
公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構(2014)「中級アイヌ語 ―沙流―」
→魚拓
斎藤純男・田口善久・西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』176頁.三省堂
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