6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

一人称複数形の包括と除外について

包括と除外

 一人称複数形が聞き手を含む場合を包括、含まない場合を除外と言い、それらの形式を包括形(inclusive)、除外形(exclusive)と呼びます。東京方言(日本語標準語)にはない人称にかかわる文法規則なので、以下ではアイヌ語沙流さる方言で概要をまとめています。

アイヌ語沙流方言の例

 日本語の一人称複数形「私たち」は複数の話し手だけを指すこともあれば、複数の話し手と聞き手をまとめて指すこともあります。次の東京方言の例を見てください。左の会話では話し手は聞き手を含んで「私たち」と言っていますが、右の会話は聞き手の男性を含まずに「私たち」と言っています。東京方言では一人称複数形を用いるとき、聞き手を含む場合でも聞き手を含まない場合でも区別せず「私たち」が使えます。

 ところが、アイヌ語沙流さる方言などは聞き手を含む一人称複数と聞き手を含まない一人称複数を区別し、それぞれ異なる形式で表されます。

 ”Eiga a=nukar” も “Eiga ci=nukar” も東京方言でいう「私たち映画見る」にあたりますが、「私たち」を表す語が左と右で違い、左は “a” 、右は “ci” です。アイヌ語沙流さる方言の一人称複数表現は聞き手を含む包括と聞き手を含まない除外を区別し、それぞれ異なる形式で表しています。

一人称複数包括形
(聞き手を含める「私たち」)
一人称複数除外形
(聞き手を含まない「私たち」)
 a(ア)+他動詞
 an(アン)+他動詞
 an(アン)+自動詞
 ci(チ)+他動詞
 as(アシ)+自動詞

参考文献

 公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構(2014)「中級アイヌ語 ―沙流―
 →魚拓
 斎藤純男・田口善久・西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』176頁.三省堂




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