6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題10解説

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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題10解説

問1 学習ストラテジー

 学習ストラテジーとは、学習者が能動的・主体的に勉強していくときに必要な方略(ストラテジー)のことです。言語学習は覚えないといけないことがたくさんあって教師が全部教えきることはできないので、最終的には学習者自身が自分で勉強を進めて行く力が必要だよね、っていう考え方に基づいてこのストラテジーが提唱されました。全部で次の6つに分けられます。

直接 記憶 知識を結び付けたり、イメージしたり、復習したり、身体動作を使って覚えたりする記憶術全般。
認知 覚えた表現を使ったり、情報を分析、推論したり、理解を深めるためにノートにまとめたりするなどの知識を操作、変換するストラテジー。
補償 目標言語を理解したり発話したりする時に、足りない知識を補うために行う(コミュニケーション・ストラテジーなどの)ストラテジー。
間接 メタ認知 自分の学習過程を調整したり、自分自身をモニターするなどの学習者が自らの学習を管理するために用いるストラテジー。
情意 自分を励ましたり、音楽を聴いてリラックスしたりするなどの学習者が自身の情意面をコントロールするためのストラテジー。
社会的 質問したりして学習に他者を関わらせて学習を促進させるストラテジー。

 1 「規則を類推する」とあり、これが認知ストラテジーのキーワード。答えはこれです。
 2 語呂合わせを考えるのは記憶ストラテジー
 3 例の内容は「言い換え」と呼ばれるもので、補償ストラテジーの一種です。これによって言語の限界を越えます。
 4 学習に他者が関与してきているのでこれは社会的ストラテジー

 答えは1です。

問2 認知スタイル

 問題文に「学習スタイル」という用語が出てきています。これは第二言語習得で指導との相互作用が研究されている、いわゆる認知スタイルと呼ばれるものです。問題文には「場独立型」「場依存型」「総合型」「分析型」などと書かれていますが、これらは全部認知スタイルの一分類。
ある。

 認知スタイルとは、学習者が情報処理をするときの癖や好みのことです。認知スタイルの研究では人を2種類に分けて論じる傾向があり、場独立型と場依存型はその相対する2つのタイプを指します。場独立型は文脈に依存せずに目標を捉えることができるタイプで、文法テストがとても得意な代わりにコミュニケーションが苦手です。場依存型は文脈に依存して目標を捉えようとするために細部を捕捉するのが苦手で、したがって文法もあまり得意ではありません。その代わりコミュニケーションは得意です。

 もっと簡単にいえば、
 場独立型は読んだり書いたりするのが好き。どっちかというと翻訳のほうが向いてる。
 場依存型は聞いたり話したりするのが好き。どっちかというと通訳、口頭コミュニケーションが長けてる。

 こうした学習者の認知スタイルに合った指導をすると指導効果が高まります。
 で、この問題ば場独立型が得意なこと何かという問題ですね。

 1 話しかけるのはコミュニケーションだから場依存型
 2 概要を(直感で)把握するのが得意なのは場依存型
 3 口頭コミュニケーションが好きなのは場依存型
 4 文法が得意なのは場独立型

 答えは4です。

問3 総合型

 分析型総合型もまた認知スタイルの分類の一つです。分析型は物事を細部から正確に捉えようとするタイプ、総合型は物事を全体的に捉えるタイプを指します。

 1 母語へ翻訳するときは細部を見る必要があるので分析型が向いてます
 2 暗唱するには細部まで覚えないといけないので分析型が向いてます
 3 空欄に当てはまる語を書かせるのは細部に注目させることになるので分析型が向いてます
 4 物語を作るタスクは細部よりも全体に注目することになるので総合型が向いてます

 よって答えは4です。

問4 学習スタイルを広げる

 問題文を読むと学習スタイルの分類に「視覚型」「聴覚型」「運動型」「触覚型」という分類があるみたい。詳しい参考文献には当たってないけど、名前から大体想像ができるかな。視覚型は読む・書く、聴覚型は話す・聞く、運動型は体を動して学ぶ系、触覚型は何かを触って… って感じでしょうね。で、ここでは学習スタイルを広げていくっていう問題なので、そのスタイルの学習者に別のスタイルの働きかけが行われているかどうか見れば良さそうです。

選択肢1

 視覚型なので読み書きが好きなタイプですね。劇は話す・聞く系の活動なので、この学習者の学習スタイルと一致してません。ということは学習スタイルを広げられる活動になります! この選択肢は正しいです。

選択肢2

 聴覚型は話す・聞くが好きなタイプ。初対面の人たちと話すのはこの学習者の好みを満たすだけで、ほかの学習スタイルを身につけさせる活動にはならなそうです。この選択肢は間違い。

選択肢3

 運動型は体を動かして学ぶ系が好き。街頭インタビューに赴くのは運動型の好みに合ってるので、この選択肢は間違い。

選択肢4

 触覚型は触る系。料理を作りながら色々なものに触れて学ばせるのは触覚型の好みにあってるので、この選択肢は間違い。

 答えは1です。

問5 学習ストラテジーを意識させること

 問1の解説でも言ったんですが、言語学習というのは覚えなきゃいけないことが山ほどあります。しかもめちゃくちゃ上手になろうと思ったら数年じゃ終わりません。継続的に長い時間勉強し続けなきゃいけないんです。でもその間ずっと先生がついてくれるとは限りません。先生がいたとしても言語の全ての知識を教わるのは不可能です。先生も全て教えられません。そこで必要になってくるのが「学習者の自律」。先生に引っ張ってもらうんじゃなくて、学習者自身が自分の学習を管理し、自分でどんどん学んでいく態度が必要です。学習ストラテジーはそういうときに役立ちます。自律的な学習を進めていくために必要な戦略(ストラテジー)を身につけることがすばらしい学習者に近づくことに繋がります。

 ここまで読んでいただけたら答えがどれか分かるはず。
 答えは2です。




コメント

コメント一覧 (2件)

  • 問5の答えは3と書いてありますが2ではないでしょうか?
    自律的に学習に取り組むのは2と書いてあります。

    • >ミキさん
      読んでいただいてありがとうございます!
      ご指摘のとおり2でした。私のタイプミスです。
      内容は修正いたしました。ご協力ありがとうございます。

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