令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題12解説

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令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題12解説

問1 マリノフスキー?

 マリノフスキーって知らなくても大丈夫。この問題文見ると全体的に語用論に関わることを言ってるから、そうすると答えはおのずと分かりそう。

 語用論と言えば発話行為理論に代表されるような「発話を行為とみなす」考え方。そして語用論はコンテクストを研究する領域。だから答えは3です。

問2 ハイムズの考え方

 チョムスキーは正しい文を正確に作ることができる言語能力(linguistic competence)が重要で、これさえあれば言葉を言葉を正確に繋げて無限の意味を表すことができると考えました。でも実際は、文法的な表現である「それ取って」は、友達に向かって言う場合は大丈夫なのに、目上の人に向かって言う場合は失礼になってしまいます。文法的に全く誤りではないのに、相手が目上の人だからダメ。こうした表現は正しい正しくないという尺度ではなく、その場面にふさわしいふさわしくないという尺度で測るべきです。

 この考え方を提唱したのがハイムズ。コンテクスト(文脈)によって表現を使い分ける能力が重要だと主張しました。そこから生まれたのがコミュニケーション能力(communicative competence)。コミュニケーション能力はその後、カナルによって4つの能力から構成されるとしてまとめられました。

文法能力 音声、発音、単語、文法、綴り、語構成など、単一の文レベルで正確に使用できる能力。
正しさ、正確さの能力。
談話能力 文全体の意味や形式などを一致させ、前後の文脈を結びつけた分かりやすい談話を複数の文にまたがって作り出す能力。
分かりやすさ(明晰さ)の能力。
社会言語能力
社会言語学的能力
その場の場面や状況にあったふさわしい表現を使用できる能力。
社会的に「適切」な言語を使う能力。
ふさわしさ(適切さ)の能力。 語用論的能力ともいう。
方略能力
ストラテジー能力
言語知識が不十分でコミュニケーション上の問題が起こった時にそれを乗り越えるための能力。
コミュニケーション・ストラテジー(communication strategy)を使う能力。

 選択肢2の「場に適した話し方」っていうのがまさにハイムズの考え方。
 答えは2です。

問3 スピーチ・イベント

 朝妻(2009)『ロマン・ヤコブソンのコミュニケーション論―― 言語の「転位」 ――』によると、ハイムズ(1972)はスピーチアクトの構成要素としてSPEAKINGモデルを提示したそう。これには次の8要素が含まれています。

 〔状況〕 時間や場所などの物理的状況、心理的状況
 〔参加者〕 話し手、聞き手など
 〔目的〕
 〔連鎖行為〕
 〔基調〕 声のトーンや調音などの調子
 〔手段〕 口頭、文字などのコミュニケーション媒体、発話形式
 〔規範〕 相互作用や解釈における規範
 〔ジャンル〕 詩、物語、祈り、演説、講義などの範疇

 で、ここでいう「場面状況」はまさに〔状況〕、「媒体」は〔手段〕、「調子」は〔基調〕のことだろうと思われます。じゃあこの3つが明示されてるやつはっというと。

選択肢1

 〔目的〕情報を伝える
 〔手段〕丁寧体
 〔規範」正しい文法

選択肢2

 〔状況〕教室を巡回
 〔基調〕明るく
 〔手段〕話しかける

選択肢3

 〔状況〕二人で
 〔基調〕しみじみと
 〔ジャンル〕語り合う (たぶん)

選択肢4

 〔手段〕電話で
 ほかある?

 こうしてみると選択肢2が場面状況、媒体、調子が含まれているようです。これ初めて出題されたやつ。
 答えは2です。

問4 ナラティブ

 ナラティブは「物語」「語り」という意味。

 1 ナラティブ
 2 ヘッジ
 3 ???
 4 対人距離

 答えは1です。

問5 社会言語能力

 もう1回コミュニケーション能力の一つである「社会言語能力」が出題されました。その場の場面や状況にあったふさわしい表現を使用できる能力のことです。

 1 文法能力の記述
 2 談話能力の記述
 3 コミュニケーション・ストラテジーの援助要請
 4 社会言語能力の記述。目上なら丁寧な言葉がふさわしい、とかそういう状況に応じてことばを使い分ける知識のこと。

 答えは4です。




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