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令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

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令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

問1 臨界期仮説

 臨界期仮説とは、第二言語習得において、ある年齢を過ぎると母語話者と同様の言語能力を身につけることは不可能であるという仮説です。ここでいうある年齢とは12~13歳ごろとされています。

選択肢1

 臨界期仮説はこんなこと言ってない。

選択肢2

 高ければ高いほど最終到達度が高いというのは臨界期仮説の考え方とは逆です。

選択肢3

 大人と子どもが同時に第二言語を学び始めたら、最初のころは大人のほうが学習が早い。なぜなら大人はそれまで母語で培ってきた認知能力を利用してスタートダッシュを切れるからです。子どもはそれができません。しかし1年くらい経つと子どもが逆転して大人を置き去りにします。
 この選択肢は大人と子どもが逆です。

選択肢4

 これが答え。
 音韻面の臨界期もあるし、統語面の臨界期もある。それぞれの領域で臨界期は異なります。

 答えは4です。

問2 バイリテラル

 バイリンガルは四技能の熟達度によって3つに分けられます。この問題を解くにはこの知識が必要。

聴解型バイリンガル ニ言語とも「聞く」はできるが、その他の技能は1つの言語でしかできないタイプ。
会話型バイリンガル ニ言語とも「聞く」「話す」はできるが、その他の技能は1つの言語でしかできないタイプ。
読み書き型バイリンガル
バイリテラル
二言語で「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能ができるタイプ。

 1 ???
 2 四技能全部が二言語でできるのでこれがバイリテラル。
 3 「聞く」「話す」が二言語でできるのは会話型バイリンガル
 4 「聞く」だけ二言語でできるのは聴解型バイリンガル

 バイリテラルは2言語で四技能全部できる人。
 よって答えは2です。

問3 言語的側面と認知的側面

 スクトナブ=カンガスらは研究で、バイリンガル教育が施されたスウェーデン在住の移民に「表面的には流暢に第二言語を操る子どもたちが、学業の場面においては困難を示す」という現象が見られることを発見しています。日常生活の言語使用は問題ないのに学業場面では問題が出るという事実は、カミンズがその後BICSとCALPを提唱するのに繋がります。

 日常生活での言語使用は文脈に支えられているのでそれほど認知的な負担はなく、認知的に発達していなくても学習者の言語的側面が発達していれば扱えます。しかし学業場面での言語使用は高度な認知能力が要求されるので、認知が発達していない子どもは当該場面における言語使用に困難を示します。問題文がいう「言語的側面」と「認知的側面」とはこのようなものです。

 1 言語的側面
 2 認知的側面
 3 認知的側面
 4 認知的側面

 選択肢1だけが言語の使用そのもの、それ以外は高度な認知能力を有する処理です。
 よって答えは1です。

問4 学習言語能力

 カミンズは言語能力を生活言語能力BICS:Basic Interpersonal Communicative Skills)と学習言語能力CALP:Cognitive Academic Language Proficiency)の2つに区別しました。

BICS
(生活言語能力)
日常生活で最も必要とされる言語能力のこと。主に話したり聞いたりする能力が中心。日常生活の対人場面ではジェスチャーや表情、状況などの非言語情報が豊富にあるため、コンテクストに支えられているBICSの習得は認知的な負担が少なく、2年ほどで習得可能とされています。
CALP
(学習言語能力)
教科学習などで用いられる抽象的かつ高度な思考を担う言語能力のこと。非言語情報があまりない低コンテクストの状態になりやすく認知的な負担が大きいため、習得には5~7年必要だとされています。

 BICSはおよそ2年で習得、CALPは5~7年で習得するそうです。つまり子どもが外国に住み始めたら、日常会話は2年くらいでできるようになるけど、学校の授業についていけるようになるには5~7年かかるってこと。それだけCALPが難しいようです。

 CALPは認知的負担が高く、低コンテクスト(場面依存度が低い)。
 したがって答えは4です。

問5 二言語基底共有説

 ニ言語基底共有説というのは…
 上の図みたいに二言語能力を二つの氷山にたとえ、その二つの言語は深層で共有基底言語能力(CUP:Common Underlying Proficiency)を有しているとする説のことです。この説では共有されている部分はCALP。

選択肢1

 数学などの高度な認知能力を必要とする処理ができるようになると二言語基底共有節における共有基底言語能力(CUP)は発達します。CUPは第一言語にも第二言語にも影響を及ぼすので、これが成長すると第二言語でも数学などの処理ができるようになります。この選択肢は正しいです。

選択肢2

 これはBICSの説明。二言語基底共有説の話をしてません。

選択肢3

 ニ言語基底共有説では、母語で認知能力が発達させると共有基底言語能力も発達し、それによって第二言語も発達しやすくなると考えます(発達相互依存仮説)。
 「二言語を同等に使うためには」の部分が間違いで、正しくは「第二言語をより発達させるためには」です。

選択肢4

 これは風船説の説明。二言語基底共有説の話をしてません。

 したがって答えは1です。




コメント

コメント一覧 (6件)

  • 問題9問1は選択肢3を選びました。選択肢4の記述は、言語の領域によって臨界期が異なるとされる複数臨界期説です。ただ、後から見直して選択肢3も「初期段階で習得速度が速い」とあるので、臨界期仮説の「言語の習得が容易になされる最適な時期」の説明としては異なるような気がしています。

  • 問5の選択肢3「2言語を同等に使うためには母語による認知能力の発達が必須である」について、私は「第一言語が発達しているほど第二言語も発達しやすい」という意味だと解釈し、これは発達相互依存仮説だから違うと判断してしまいました。消去法で選択肢1を選びましたが、2言語基底共有説と発達相互依存仮説はその境目がわかりにくく、浅い知識しかない私には難しい問いでした。

  • 問4
    >BICSは認知的負担が高く、低コンテクスト(場面依存度が低い)です。
    とありますが、CALPではないですか?

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