平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題9解説

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平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題9解説

問1 フォーカス・オン・フォーム

 教授法の言語習得観は3つに分けられます。それを簡単に説明すると…

 文法訳読法やオーディオリンガル・メソッドは教師主導で文型を重視しているフォーカス・オン・フォームズの教授法です。
 フォーカス・オン・フォームズの授業は文法、文型は確かに身につくんですが、コミュニケーション能力は全然ダメでした。そこでナチュラル・アプローチやコミュニカティブ・アプローチなどの意味を重視した学習者中心のフォーカス・オン・ミーニングの教授法が現れます。ところが… フォーカス・オン・ミーニングの授業も問題が出てきます…。確かにコミュニケーションは上手になるんですが、今度は文法がおろそかになってしまいました。
 結局、文型を身につけられるフォーカス・オン・フォームズとコミュニケーション能力が身につけられるフォーカス・オン・ミーニングを合わせたフォーカス・オン・フォームの教授法が開発されます。タスク中心の教授法や内容言語統合型学習(CLIL)がこれにあたります。

選択肢1

 海、川、山、食べる、飲む、美しいなどの実質的な意味を持ってる名詞・形容詞・動詞などは内容語と言います。「それ」「しかし」「~です」「~かもしれない」みたいな代名詞・前置詞・接続詞・助動詞などは機能語です。
 フォーカス・オン・フォームは基本意味重視ですが、必要あれば言語形式も取り上げます。内容語も機能語も指導対象です。

選択肢2

 フォーカス・オン・フォームは現実的な場面のコミュニケーションを身につけさせるための教授法です。場面シラバス、タスクシラバス、概念・機能シラバスなどを用います。
 機能シラバスは依頼する、慰める、同意する、拒否する、提案するなどの言語の持つ機能に焦点を当てたシラバス。コミュニカティブ・アプローチなどのフォーカス・オン・ミーニングで用います。

選択肢3

 フォーカス・オン・フォームでは必要があればしっかり言語形式を説明します。禁止されているわけではありません。

選択肢4

 上述の通り、フォーカス・オン・フォームはコミュニケーションと文法どちらも取り上げるので、意味と形式を相互に組み合わせて学習できます。

 したがって答えは4です。

問2 モダリティ表現

 モダリティとは、簡単にいうと文の客観的な意味を表す部分(命題)に対して、話し手がどう認識しているかを表す言語形式、および聞き手に対する主観的な言語形式の部分のことです。例えば「雨が降っているかもね」という文章は、命題「雨が降っている」という事態に対して話し手が「かも」で可能性の認識を示し、「ね」で聞き手に対する同意要求の気持ちを表しています。このとき「かも」と「ね」は命題に対してモダリティと呼ばれています。

選択肢1

 この文の命題は「毎日練習すれば上手に話せるようになる」で、この命題に対して話し手は「だろう」を用いて推測の意図を表しています。モダリティ表現は「だろう」です。「ように」は命題の一部なのでモダリティ表現ではありません。この選択肢は間違い。

選択肢2

 この文の命題は「太郎は断ったことを後悔している」で、この命題に対して話し手は「に違いない」を用いて主観的な断定の意図を示しています。モダリティ表現は「に違いない」です。この選択肢が適当。

選択肢3

 この文の命題は「交通事故に遭ったが、軽い打撲だけで済んだ」です。この事態に対して副詞「幸い」で話し手の安堵する気持ちを表しています。「幸い」はモダリティ表現なのでこの選択肢は適当。

選択肢4

 この文の命題は「今日は本当にいいお天気になってよかったです」で、この命題に対して話し手は聞き手に対して「ね」を用いて同意要求をしています。この「ね」はモダリティ表現だからこの選択肢は適当。

 答えは1です。

問3 プロンプト

 訂正フィードバックの一種であるプロンプトとは、学習者に正用を提示しないで誤用訂正を行い、自己修正を促すタイプのフィードバックのことです。学習者が「あまり高いじゃない」という誤用をしたとき、プロンプトは学習者に正用「高くない」を提示しないで修正を促そうとします。そのような選択肢を探しましょう。

 一応フィードバック一覧貼っておきます。

暗示的 理解確認 学習者の発話に対して、自分の理解を述べ、正しいかどうかを確認する。 正用を提示
インプット誘発型
リキャスト 間違っているところだけを正しく言い直して学習者に提示する。
明確化要求 言っていることが理解できなかったことを伝え、言い直させる。 正用は提示せず
自己訂正を促す
アウトプット促進型
プロンプト
繰り返し 間違っている発話全体や間違っている部分をそのまま繰り返す。
明示的 メタ言語的
フィードバック
文法を説明したり、情報を与えたりして間違っていることを教える。
誘導 途中まで文を与えるなどして、正しい言い方を引き出す。
明示的訂正 間違いがあることを指摘し、正しい言い方を提示する。 正用を提示
インプット誘発型

選択肢1

 「高くない」という正用を提示しているので、この種のフィードバックは上表のインプット誘発型。プロンプトではありません。インプット誘発型のうち、学習者の誤った部分だけを訂正して自然な形で会話を続けているのでリキャストにあたります。

選択肢2

 「高くない」という正用を提示しながら、自分の理解を述べて確認しているので上表の理解確認にあたります。

選択肢3

 「高くない」という正用を提示していないのでこれがプロンプト。さらにいうと相手のことばをそのまま繰り返しているので繰り返しにあたります。

選択肢4

 「高くない」という正用を提示しているのでインプット誘発型です。さらにいうと明示的に間違いを指摘しているから明示的訂正にあたります。

 答えは3です。

問4 テスト

 ここで述べられる文法能力や方略的能力、談話能力とは、伝達能力(コミュニカティブ・コンピテンス)のことです。

 コミュニケーション能力に関して、ハイムズはコミュニケーションには正しい言語形式を使用するだけではなく、場面や状況に応じた使い方をすることが必要だと提唱しました。これを伝達能力(コミュニカティブ・コンピテンス)と言います。
 また、カナルは、伝達能力は文法能力、社会言語能力、方略能力、談話能力から成り立っていると主張しました。

談話能力 言語を理解し、構成する能力。会話の始め方、その順序、終わり方などのこと。
方略能力
(ストラテジー能力)
コミュニケーションを円滑に行うための能力。相手の言ったことが分からなかったとき、自分の言ったことがうまく伝わらなかったときの対応の仕方のことで、ジェスチャー、言い換えなどがあてはまる。
社会言語能力
(社会言語学的能力)
場面や状況に応じて適切な表現を使用できる能力。
文法能力 語、文法、音声、表記などを正確に使用できる能力。

選択肢1

 文法性判断テストはその名の通り文法能力を測ります。例えば「私の趣味は寝るです」を正しい表現に直せみたいな、文法的な知識がないと解けない問題を出すものです。こういうテストでは方略能力は測れません。

選択肢2

 ロールプレイは参加者がある目的を達成するためにやり取りを行う活動です。正しい表現を使わないと相手に伝えられないので文法能力も測れますし、何かやり取りの中でつまずいたときにどうすればいいのかみたいな方略能力も必要になります。どちらも測れます。

選択肢3

 談話完成テストは「彼は必ず行くといった。(    )来なかった。」みたいな問題でしょう。実際はもっと長いと思います。談話の流れを理解して正しい言葉を入れたりするので談話能力を測定できます。前後の内容をちゃんと理解するためには文法的な知識も必要なので、このテストは文法能力も測れます。

選択肢4

 インタビューは口頭での受け答えをするものですから、当然談話能力は測れます。また、相手の言ってることが分からないときに聞き返すことができるか、みたいな方略能力も測れます。

 したがって答えは2です。

問5 t検定

 1 2変数間の関係の分析手法
 2 複数の群に有意な差があるかどうか判断する分析手法
 3 クロス集計表において二つの変数に関連性があるのかどうかを判断するための分析手法
 4 ある観測された変数がどのような潜在的な変数から影響を受けているかを探る分析手法

 答えは2です。

問6 Y先生のアドバイス

 X先生は協力してくれる学生を募り、授業外に1時間程度の指導を行うつもりです。その指導の前後にテストをしてどのくらい伸びたかを比較しようとしています。

 1 授業外に1時間の授業をするので負担が大きい。協力してくれる学生だけ対象にすべきです。
 2 この指導は長期的に行うものではありません。
 3 伸びた部分が指導の効果であるかどうかをより明確にするために、指導を行わないグループと行うグループに分けたほうがいい。
 4 どのくらい伸びたかを比較したいので、持続効果まで調べる必要はありません。

 答えは3です。

 




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