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平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

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平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

問1 ヴォイス

 下線部A「動詞の形態が変わるのに合わせて格関係も変わる表現」とはヴォイスのことです。各選択肢の動詞の形態をとりあえず無標の形態に戻してみて格関係を見てみましょう。

選択肢1

 (1)a 彼は背中に大きなリュックを背負っている。 <~が~に~を>
    b 彼は背中に大きなリュックを背負う。    <~が~に~を>

 動詞の形態が辞書形だろうがテイル形だろうが格関係は変わらず<~が~に~を>でした。これが答え。

選択肢2

 (2)a 太郎には遠くの雷の音が聞こえた。 <~に~が>
    b 太郎が遠くの雷の音を聞く。    <~が~を>

 「聞こえる」は可能の意味を持っているので、可能の意味を持たない無標の形態「聞く」にして文を作ってみました。「聞こえる」の文は<~に~が>ですが、「聞く」の文は<~が~を>で格関係が違います。この選択肢は動詞の形態が変わるのに合わせて格関係が変わっているので下線部Aに該当します。

選択肢3

 (3)a 上司が部下に企画書を作らせる。 <~が~に~を>
    b 部下が企画書を作る。      <~が~を>

 選択肢の文は使役形なので、これを辞書形に戻して作った文が(3b)です。使役者の情報が減るので項が一つ減ります。(3a)は<~が~に~を>なのに対し、(3b)は<~が~を>で格関係が異なります。使役形は典型的なヴォイスです。この選択肢は間違い。

選択肢4

 (4)a 机の上に荷物が置いてある。 <~に~が>
    b Aが机の上に荷物を置く。  <~が~に~を>

 動詞の形態が「置いてある」だと<~に~が>で、「置く」だと<~が~に~を>になり、格関係に変化が生じます。この選択肢は間違い。

 まとめると…

 1 <~が~に~を> ⇔ <~が~に~を>
 2 <~に~が> ⇔ <~が~を>
 3 <~が~に~を> ⇔ <~が~を>
 4 <~に~が> ⇔ <~が~に~を>

 格関係が変わらないのは1だけ。
 答えは1です。

問2 ラレル

 「ラレル形」のヴォイスに関する問題です。ラレル形は可能、受身、尊敬、自発の4つの用法を持っています。この4つのうち、能動態と比較して格関係が変わらないものを見つけます。

 (1)a 私はそう思います。   <~が>
    b 私にはそう思われます。 <~に>   (自発)
 (2)a 私が虫を食べる。    <~が~を>
    b 私が虫が食べられる。  <~が~が> (可能)
 (3)a 先生が私を殴る。    <~が~を>
    b 私が先生に殴られる。  <~が~に> (受身)
 (4)a 社長が来る。      <~が>
    b 社長がいらっしゃる。  <~が>   (尊敬)

 これらの例文から分かることは、自発、可能、受身は能動文と比較すると動詞の形態が変わるのに合わせて格関係が変わっているのでヴォイスと言えます。尊敬は格関係が変わらないのでヴォイスではありません。つまり、「ラレル」は尊敬を除いて、その他の意味の時は格関係が変わります。
 したがって答えは3です。

問3 ら抜き言葉

 ら抜き言葉とは、一段動詞可能形「~られる」の「ら」が省略された言葉のことです。「食べられる」が「食べれる」になるみたいなこと。「~られる」には可能形の他に受身や尊敬、自発の用法があり、これらの意味を形式面で差別化するためにら抜き言葉が生じたと考えられています。

選択肢1

 一段動詞可能形「食べられる(tabe-rareru)」のうち、活用語尾「られる(-rareru)」を消失させると「食べ」だけになります。これはら抜き言葉でも何でもありません。この選択肢は意味不明。

選択肢2

 ら抜き言葉には、可能の意味しかありません。この選択肢は間違い。

選択肢3

 ら抜き言葉は大正時代に地方で用いられ、昭和初期には東京でも普及、1950年代以降急速に全国に広まりました。室町時代ではない。

選択肢4

 一段動詞において「動ます+られる」は可能、受身、尊敬、自発と4つの意味を持ちます。例えば「ピーマンが食べられる」は可能、「先生に殴られる」は受身、「社長が来られる」、「故人が偲ばれる」は自発です。同じ形態に4つの意味があるとややこしいので、可能の意味だけに異なる形態を持たせるような変化が生じました。これがら抜き言葉の発生の理由と考えられています。「動ます形+れる」は一段動詞の可能形として用いられるようになってきています。

 答えは4です。

問4 母語に起因する誤用

選択肢1

 この誤りは可能の誤りではなく「~ている」の誤りだから関係なし。この選択肢は間違い。

選択肢2

 「病気はすぐに治りますよ」の「治る(naor-u)」は辞書形で可能を表すことができますので、わざわざ「治れる(naor-e-ru)」と可能形にする必要はありません。
 例えば中国語の「治好(治る)」は、「他的病治好了吗?(彼の病気は治りましたか?)」のようにそのまま使えますし、「他的病能治好吗?(彼の病気は治りますか?/彼の病気は治せますか?)」のように可能を表す「能」をつけることができます。日本語の「治る」は可能形にできないですが、中国語の「治好」は可能形にできるので、中国語母語話者は「治れますよ」という誤用をする可能性があります。
 この選択肢が答えです。

選択肢3

 五段動詞「喋る」の可能形「しゃべれる」に不要な「ら」を入れて「しゃべられる」とする誤用です。「喋る」を一段動詞だと勘違いして、一段動詞の可能の形式「~られる」をつけたんだと思います。これは学習者の母語からくる誤りではないです。この選択肢は間違い。

選択肢4

 日本語では可能の対象は「が」で表すので、「逆上がりができません」というのが普通です。この学習者は「が」ではなく「を」を使用しています。学習者の母語からくる誤りではなく、日本語自体の勉強不足からくる誤り。この選択肢は間違いです。

 答えは2です。

問5 動作対象の性質による可能

 動作対象の性質がどうであるかによって可能不可能が決まるような例を探します。

選択肢1

 60kgまでの荷物が置けるかどうかは網棚の耐荷重性によります。つまり網棚の能力なので、「置けます」は能力可能です。
 この選択肢は間違い。

選択肢2

 吸えるか吸えないかはそのお店が禁煙か喫煙可かによりますので状況可能です。
 この文の動作対象は「タバコ」ですが、タバコの性質によって吸えるか吸えないか決まるわけではありませんから動作対象の性質による可能ではありません。

選択肢3

 この文の動作「読む」の動作対象は「この本」です。「この本」の絵が多ければ子どもでも読める、絵が少なければ子どもは読めない。つまり動作対象「この本」の性質が可能か不可能かが決まっています。この選択肢が答え。

選択肢4

 能力的な話をしているので能力可能。
 
 答えは3です。




コメント

コメント一覧 (13件)

  • お世話になります。 のんびり日本語先生の解説は本当にためになります。ありがとうございます🙇
    問1の1  彼は背中に大きなリュックを背負っている  の文はヴォイスではなく、アスペクトですか。 他の文は能動文に変えてみるということですか。

  • >ひなばーさん
    コメントありがとうございます。お答えいたします。
    問1の解説について、問題文では「動詞の形態が変わる」とあるのでひとまず辞書形に変換してみています。ヴォイスの文の動詞を辞書形に変えるということは能動文に変えることと同じです。

    選択肢1は格関係が変わっていないという性質から見てもヴォイスではありません。おっしゃる通り「~ている」の部分はアスペクトです。
    選択肢2は可能態、3は使役態です。
    4は少し微妙で私も確定的なことは言えませんがヴォイスだと思われます。ただ、ヴォイスかどうかは別としても、確かに「置く-置いておく」で格関係が変わっている点から見ても答えではありません。

    • ご返信ありがとうございました。
      可能形の問題かと思いきや格関係が変わる。ヴォイスは格関係が変わることが特徴だとわかりました。素人は一面だけみてわかった気持ちになり、検定問題で多面的に問われると「な、なに?」とこんがらがります💦
      お願いですが、次回 解説のさい 問題が基礎問題 重要問題 難問 変な問題 などのコメントを先生のご判断で書いてくださると助かります。問題範囲があまりにも多いので 、判断基準がわからないです。

      先生の丁寧な解説に感謝しております。

      • >ひなばーさん
        検定試験まであと1か月を切りましたね。そのような意見は以前から多く、実は今試験の傾向、出題頻度などをまとめている最中です。完成し次第公開しますので、もし宜しければ見て頂ければと思います!
        できるだけ早めに、来週中にはと思っております。

          • 試験Ⅲ問題1の解き方について質問です。
            どの解説書より、分かりやすく、助かってます。
            ところで、「妹はケーキを食べる」の受け身形は、「妹にケーキは食べられる」 私は、虫を食べるの可能形は、「私は、虫を食べられる」ではダメなのか教えいただけると有りがたいです。ケーキをだと被害ぽく、虫がだと他のものと比較しているようで~難しい~

          • >メロンパンさん
            コメントありがとうございます!
            可能形は通常「が」を使います。「~ができる」「~が~られる」などの文型をとります。
            ただし「虫を食べられる」と言っても問題はありません。目的語の「を」ですね。
            ここでは最も自然な「が」を取り上げて、格関係が変わっていると解説しています。

  • ご連絡、ありがとうございます。よくわかりました。
    可能形は、通常(が)という基本がわからないと、問題解けませんね。
    しつこくてすみません。受身形がなかなかうまく理解できません。「妹はケーキを食べる。」の直接受身形は、「ケーキは、妹に食べられる」ではないかと思うのですが、「妹にケーキを食べられる。」(迷惑受け身うっぽく感じますが)ということですね。(よく勉強していないのにすみません。)
     

    • >匿名さん
      失礼いたしました。あとで修正しておきます!
      当解説は有志で成り立っております。試験合格を目指す方のためにぜひご協力ください。

  • お世話になっております。先生の解説はいつも参考にさせて頂いています。
    問5についてですが、
    1.「網棚には、60kgまで荷物が置けます。」とあり、裏を返せば「60kg以上の荷物は置けない」「60kgまでの荷物しか置けない」という条件を表しているので、状況可能となるのではないでしょうか。
    4番の文にあるように、「バタフライだとという条件を示しているので状況可能」という先生の解説と合致します。
    ここで質問なのですが、
    もし「この本は絵が少なく、子どもは読めません。」という文があった場合、この「本」は絵が少ないという性質による可能なのか、もしくは「大人」であれば読めるという状況可能なのか、どちらでしょうか。それとも不可能を示す場合は常に状況可能になるのでしょうか。

    • >かいつさん
      コメントありがとうございます。
      かいつさんのコメントを読みまして私もう一度考えてみたら、すごく良い考え方ひらめきました。
      解説は既に加筆修正していますので、詳しくはそちらをご覧ください。これが答えで間違いないと思っています。

      • なるほど、荷物が動作対象にあたるのですね。
        詳しい解説ありがとうございます!

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