平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅱ 問題3解説
1番
「ち」が「き」になる誤りです。
「き」の子音は[k]軟口蓋破裂音です。舌が軟口蓋付近にあるのはbだけです。また、破裂音は口腔内のどこかで閉鎖を作り、かつ鼻腔への通路が閉じている状態ですので、やはり舌が軟口蓋に触れているbが答えになります。
1 歯茎硬口蓋摩擦音
2 軟口蓋破裂音
3 硬口蓋接近音?
4 歯茎破裂音/歯茎破擦音
したがって答えはbです。
2番
語中の「ず」が「じゅ(じ)」になる誤りです。
語中の「じ」の子音は [ʑ]有声 歯茎硬口蓋 摩擦音なので、舌が歯茎硬口蓋付近にあるものを探します。
舌が歯茎硬口蓋付近にあるのは選択肢cだけです。a、bは歯茎、dは硬口蓋です。
ということで答えはcです。
しかし… 調音法を見るとなんか変なところに気付きます。
語中の「じ」は摩擦音なので舌は本来触れません。しかしcでは舌が触れてます。つまりこの学習者は正しい発音ができずに、語中の「じ」を破擦音で発音していると思われます。
1 歯茎破裂音/歯茎破擦音
2 歯茎摩擦音
3 歯茎硬口蓋破擦音
4 硬口蓋摩擦音
聴解問題の学習者の発音は絶対正しいとは限りません! お気をつけください。
そういうところを察するとやっぱり答えはcです。
3番
「み」が「び」になる誤りです。
「び」の子音は[b] 両唇破裂音。まず両唇が閉じているc、dに絞られます。破裂音は口腔内のどこかで閉鎖を作り、かつ鼻腔への通路が閉じている状態ですので、c、dのうち、鼻腔への通路が閉じているcが答えになります。
1 硬口蓋鼻音
2 歯茎摩擦音
3 両唇破裂音
4 両唇鼻音
答えはcです。
4番
「ち」が「つ」になる誤りです。
「ち」の子音は[tɕ]無声歯茎硬口蓋破擦音、「つ」の子音は[ts]無声歯茎破擦音で、調音点が異なります。
また、母音/i/は前舌、/u/は後舌なので舌の前後位置も異なります。
答えはdです。
5番
「し」が「ち」になる誤りです。
「し」の子音は[ɕ]無声歯茎硬口蓋摩擦音、「ち」の子音は[tɕ]無声歯茎硬口蓋破擦音で、調音法が異なります。
答えはbです。
6番
※自信があまりないのですが…
[ɾ]有声歯茎弾き音の「ら」が、英語のrの発音 [ɹ]有声後部歯茎接近音になっていると思われます。
調音点も調音法も異なります。
答えはcです。
7番
「じゅ」が「ちゅ」になる誤りです。
語頭の「じ」の子音は[dʑ]有声歯茎硬口蓋破擦音、「ち」の子音は[tɕ]無声歯茎硬口蓋破擦音で声帯振動の有無に問題があります。
答えはbです。
8番
「ち」が「てぃ」になる誤りです。
「ち」の子音は[tɕ]無声歯茎硬口蓋破擦音、「て」の子音は[t]声歯茎破裂音で、調音点と調音法が異なります。
答えはdです。
コメント
コメント一覧 (19件)
6番についてですが、
『「ら」は有声歯茎弾き音、「は」は無声声門摩擦音で、調音点も調音法も異なります』とありますが、
一方は有声でもう一方は無声なので、「声帯振動の有無も、調音点も調音法も異なります」となると思います。
そうすると、c調音点と調音法、d声帯振動と調音法のどちらも抜けがあり、同等となると思うのですが、なぜcが正解になってしまうのでしょうか。(抜けがあって同等という点でいうと、aもcもなのですが)。
恐れ入りますが、ご教示頂ければありがたく存じます。
>石川さん
ご指摘の通り、「ら」と「は」では声帯振動の有無、調音点、調音法の全てが違うので正しい答えに行き着けないですね…。解説が間違っていたようです。私は「きはい」と聞き取ったのですが、今何度聞いてみても「きはい」には聞こえなくなってしまいました。おそらく「は」じゃなくて、別の発音をしているんだと思うのですが、私もちょっとよく分からなくなってしまいました。江戸っ子口調のラ行[r]も有声歯茎震え音ですので、これだと調音法が異なるだけで正解ではないようです。
逆に質問をして大変恐縮ですが、石川さんはどう聞き取られましたか?
私も最初は「は」と聞き取りました。ただ、解答に矛盾があるのに気づいたので、管理人さんのサイトの「母音と子音の分類とIPA表記」のページを頼りに、矛盾が生じない発音を探してみました。可能性が高い、「江戸っ子口調のラ行[r]」と「[l]」の双方ともに、やはり矛盾が生じているので、何なんだろうなと思い質問させて頂いた次第です。
有声で、「歯茎」でもなく、「はじき音」でもない音ということだと思うのですが、範囲が広すぎて絞り込むのが難しく感じました。
*なお、私自身は日本語教師ではなく、検定の勉強をしている最中です。発音問題は大きな弱点となっているので、管理人さんのページやドリルで勉強させて頂いています。
有声音で、[ɾ]と調音点も調音法も違うア段の音は「か゚」「ば」「ま」「や」「わ」しかないのですが、私にはそのどれにも聞こえませんでした…。
フランス語やドイツ語で現れるらしい有声口蓋垂震え音[ʀ]や有声口蓋垂摩擦音[ʁ]などの可能性もあるようですが、過去問の傾向から見ても日本語にない外国語の発音が出題されるのは稀で、あったとしても英語までです。[ʀ]や[ʁ]はあまりに聞き慣れていない発音なので、これなのかどうかかも全く確信がありません。
せっかくコメント頂いたのですが答えられず申し訳ありません。ご指摘頂いた部分は修正し、答えが分かりましたら追記することとします。
ご対応頂きましてありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。
こんにちは。
6ですが、私も迷ったのですが、
ハ行の異音である、無声・軟口蓋・摩擦音[x]なのではと思うのですがどうでしょうか?
PS いつもこちらのサイトで過去問の答え合わせをさせていただき、大変有効に使わせていただいております。ありがとうございます!
>Kyokoさん
なるほど!
[x]なら調音点も調音法も違いますし、最初「は」に聞こえたのと合点がいきますね。中国語の「h」の発音で用いるので、学生に確認してみたいと思います。貴重な意見、ありがとうございました!
検定勉強中の者です。
いつも先生のサイトで色々と勉強でさせていただいております。
さて、2番について質問させてください。
私は、この問題で選択肢dを選びました。それは、「じょうジュ」のジュが、語頭ではないので、歯茎硬口蓋・摩擦音と思ったからです。そして、それらしき口腔断面図である選択肢dを選びました。もちろん正解はcですが、学習者が【歯茎硬口蓋・摩擦音】で発音しているのか、【歯茎硬口蓋・破擦音】で発音しているのかを聞き分ける方法があるのでしょうか。
お恥ずかしい限りですが、選択肢dの口腔断面図の調音点はどこなのかもご教示いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
>Kさん
コメントありがとうございます。お答えいたします。
「じ」は語頭なら[dʑ]有声歯茎硬口蓋破擦音、語中なら[ʑ]有声歯茎硬口蓋摩擦音になります。「じょうじゅ」の「じゅ」は語中ですので[ʑ]有声歯茎硬口蓋摩擦音と考えるのが普通ですが、この4つの選択肢には歯茎硬口蓋摩擦音の口腔断面図がありません。
選択肢dの口腔断面図は、歯茎硬口蓋に接近しているように見えますが、実は「硬口蓋」に接近しています。よってdは[ç]硬口蓋摩擦音、あるいは[j]硬口蓋接近音の口腔断面図です。
参考:http://nihongonosensei.net/?p=11186
お手元にあれば確認して頂きたいのですが、「平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅱ 問題3 問1」では、[ç]無声硬口蓋摩擦音の口腔断面図が答えとなっています。この問題のdと、ご質問を受けたdの口腔断面図は同じですので間違いありません。
歯茎硬口蓋摩擦音の断面図が選択肢にないということは、この学習者の「ず」は[dʑ]有声歯茎硬口蓋破擦音で発音しているということになります。語頭の「ず」と語中の「ず」を聞き分けているわけではなく、単に消去法です。これを聞き分けることは不可能に近いことなので、試験で出題されることは間違いなくないと断言できます。
先生、ご丁寧に返信賜りまして、誠にありがとうございます。
【語頭の「ず」と語中の「ず」を聞き分けているわけではなく、単に消去法です。これを聞き分けることは不可能に近いことなので】
↓
そうなのですね。「2019年 日本語能力検定試験 合格するための本」(アルク)の145Pに、『学習者は
語中であっても破擦音で発音することがある。実際の音声を聞く問題ではよく聞いて判断すること』
とありましたので、何か聞き分ける方法があるのかと思った次第です。
大変恐縮ですが、先生からのご返信にありました、
【「平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅱ 問題3 問1」では、[ç]無声硬口蓋摩擦音の口腔断面図が答えとなっています。この問題のdと、ご質問を受けたdの口腔断面図は同じですので間違いありません。】
についてですが、今回の質問の選択肢dの口腔断面図とは微妙に違う気がいたします。
今回の質問の選択肢dと同じ口腔断面図は「平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅱ 問題3 例」のdかと存じます。それもあり、今回の質問のdの口腔断面図の調音点がわからなくなった次第です。
ただ、今年の検定で、このような問題が出ましたら、そのあたりも加味し、注意深く選択しようと思います。
まさか、このように丁寧なご対応をいただけるとは思っておりませんでしたので、感動いたしました。
心より御礼申し上げます。
ただ今、令和2年2020年の試験勉強をしております。先生の過去問解説大変助かっております。
28年、2番のdの断面図は、先生のおっしゃるように[ç]無声硬口蓋摩擦音と思われます。消去法と、単に学習者の発音の間違い(語中は関係なく)という考え方は、とある集中講座でも聞きました。(文章の聴音では、語頭だから歯茎破擦音の「ざずぜぞ」で解釈しないといけない問題もあったように記憶しております。曖昧な記憶ですみません。)
平成30年度の1番のDの断面図は、舌の盛り上がりがKさんのおっしゃるようにこれとは違い、これこそ、歯茎硬口蓋摩擦音ではないでしょうか。令和元年の1番のbが同じ断面図で、「し」で正解になっています。
素人勉強で恐縮です。大変よい復習になりました。ありがとうございました。
>masaさん
コメントありがとうございます!
講座などでもやはりこの点について説明しているのですね。解説が合っているということで安心いたしました。
残り時間は少ないですが、試験頑張ってください。
先生、こんにちは。お返事ありがとうございます。昨日の試験、試験1が難しかったのと、緊張がひどかったのか、時間を確かめていたはずなのに1時間くらいと思っていたところで、「あと10分」と言われてしまいました。20問解答できず。帰りたくなりましたが、最後まで受けました。問題2も3もそこまで大変ではなく、特に、問題3は記述も含めまあまあの出来に思えたので、悔やまれます。早く、かつ、国家資格までに、資格が欲しいので、来年は、通信で科目履修ができる短大で、26単位受講しようかと迷っています。
ところで、度々恐縮ですが、2番のd、先生が最初におっしゃていた硬口蓋接近音のヤではないかと思いました。硬口蓋摩擦音のヒは1番のa、歯茎硬口蓋摩擦音は、例のdでしょうか。他の年で、ヤはパカーンと開いた断面図もあったので分かりませんが。試験対策では、わりきる、消去法でしょうか。
それから、ここに恐縮ですが、29年の2番は「じゅうちゅうできません」ではなく「ちゅうちゅう」に聞こえます。どちらにしても「語頭」扱いなら、同じ断面図ですね。
全く何の関わりもないところから、思い立って3ヶ月のやっつけ勉強でしたが、世界が広がったり、いろいろなことに気づきました。仕事に役立つことありました。先生のblog、大変助かりました。ありがとうございました。
>masaさん
試験お疲れ様でした。
学習者の発音が正しくない可能性もあるので、口腔断面図は最も可能性の高いもの、最も近いものを選ぶのがセオリーです。調音点と調音法の目安がつけば絞れるので、合致しなくても割り切るのが必要な問題もありますね。
29年 問題3 問2は、私は「じゅうちゅう」と聞こえています。これは声帯振動しているかどうかで口腔断面図に違いは現れませんから、確かに実際どちらでも良さそうです。
もし来年検定試験を受けるとき… 何か分からないことがありましたらいつでもコメントください!
先生、今日やっと、自己採点をする気持ちになりました。さっそく解答、拝見しました。ありがとうございます。問題IIは他サイトを参照し、マークシートだけで、記入ミスがないとして、144点か145点。記述はまずまず書けましたが、希望的観測でも厳しそうです(絶対評価165点という噂もあるので)。さらに、ざっくり、未解答(実は24問でした!)も解きました。24問中17点。たらればですが、推定70%以上はできたのだなと。おかげさまで、少し気持ちの整理が進みそうです。通信で副専攻を学ぶにしても、試験は受けようと思います。さらには就職活動もあります。これからも、拝見させていただきます。よろしくお願いします。
どうしてもわからず、質問させていただきます。
7番について、
「じ」は、歯茎硬口蓋摩擦音、ンとッのあとの「じ」は歯茎硬口蓋破擦音、だと学習したので、
「じ」は摩擦音、「ち」は破擦音だと思っていました。
しかし、検定の解答もこちらでの解説も、どちらも破擦音になっています。
私が学習したことが間違えだったのでしょうか。
解説していただけると大変ありがたいです。
宜しくお願いいたします。
高橋先生、こんばんは。いつもお世話になり、ありがとうございます。
今日H28の音声の問題をやりました。今回4回目ですが、問題3の2番の問題でdを選び間違えました(4回中2回同じ間違いをしています)…。えっ、[ʑ]って舌と歯茎硬口蓋に少しすき間があったはずなのにと思ったら、[dʑ]だからcを選ばなければならないのですね…
検定試験の[ç]と[ɕ/ʑ]の断面図の差が、あまりに小さくてとてもわかりずらいですね。さきほど過去数年の問題3の断面図を見比べた所、おそらく例のdが[ɕ/ʑ]の音で、2番のdが[ç]ではないかと思われますが、もう少し差がわかるように改善してほしいものです(涙)。
ちなみに、2番のaの断面図はどの音になるのでしょうか。例のbが[t][d]だと思うのですが、2番のaの断面図は後舌が少し膨らんでいます…
>タルロさん
お答えします。
2番のaは歯茎破裂音[t][d]か、歯茎破擦音[ts][dz]です。
aの口腔断面図は典型的な歯茎破裂音、歯茎破擦音のものではないと思われます。おっしゃる通り後舌が盛り上がっているからです。
タルロさんに伝えなければいけないことがあります。
聴解問題で出てくる口腔断面図は、あくまで学習者が発音する瞬間の口腔断面図です。私たちが話す標準的な発音の口腔断面図と同じとは限りません。
私たちは普通脱力して[t]を発音するので後舌は盛り上がらないんですが、学習者によっては緊張状態で発音したりします。耳には[t]に聞こえても舌の形がやや違うこともあります。他の部分が違っていたとしても、「歯茎に触れている」という[t]最大の特徴で共通していますので、これもやはり[t]です。参考書などに書かれている口腔断面図は日本人の典型的な発音を示したものであって、それがそのまま試験に出るわけではありませんので注意してください。
いずれも、唇がどうであるか、舌がどこにあって触れているのかいないのか、鼻腔への通路はどうか等、そこだけに着目して解いてみてください。
高橋先生、おはようございます。お忙しい所、ご丁寧にご回答くださりありがとうございます。
検定試験の口腔断面図は規範的な発音の口腔断面図と同じではないこと、今日まで知りませんでした。アルクの口腔断面図より、検定試験の口腔断面図はタッチ?が愛らしいとは思っていたのですが。有益な情報をいただき、本当にありがとうございます。
私は問題3は、説明の音声が流れている間、用紙の空いているスペースに主要なIPA音声記号の一覧を書いた後、問1〜3の口腔断面図をざっと見て、口蓋帆が咽頭壁から離れていて鼻腔へ空気の流れがあるのものには○をつけて、例えば[m]と[p][b]を間違えないようにしていたのですが、明日の試験では、落ち着いて口腔断面図を見て判断できるようにしたいと思います。ありがとうございますm(_ _)m