平成27年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説
(1)付加された形態素の数
「手伝わせられていたらしいですね」の動詞「手伝う」の後ろに付与されている形態素の数を答える問題です。日本語の形態を見るときは漢字や平仮名よりもローマ字とかIPAとかにしたほうがいいです。IPAはちょっと表記が面倒なのでここではローマ字で。
tetudaw – ase – rare – tei – ta – rasii – desu – ne
手伝う – 使役 – 受身 – ている – 過去 – 伝聞 – 断定 – 感嘆
tetudaw は「手伝う」、-ase- は使役接辞、-rare- は受身接辞、-tei- は進行中の「ている」、-ta- は過去時制、-rasii- は伝聞・推測の助動詞、-desu- は断定の助動詞、-ne は感嘆を表す終助詞です。tetudaw の後ろには7つの形態が連なっています。次のように書けばもっと分かりやすいかも。
① 手伝わせる(使役)
② 手伝わせられる(受身)
③ 手伝わせられている(進行中「ている」)
④ 手伝わせられていた(過去)
⑤ 手伝わせられていたらしい(伝聞)
⑥ 手伝わせられていたらしいです(断定)
⑦ 手伝わせられていたらしいですね(感嘆)
答えは3です。
(2)アスペクト・テンス
選択肢1
「あとで食べる」は、発話時よりも<未来>のある時点において「食べる」という動きが実現することを表します。動詞「食べる」が表す動きの直前を表すには「食べる」と辞書形を用います。
「もう食べた」は、発話時よりも<過去>のある時点において「食べる」という動きが実現したことを表します。動詞「食べる」が表す動きが完了したことを表すには「食べた」とタ形を用います。
動詞のル形はアスペクトもテンスも表しますし、タ形も同様です。この選択肢は後件が間違い。
選択肢2
選択肢1で検証した通りで、これが答え。
選択肢3
状態動詞「いる」を用いて「あそこに猫がいた」というとき、この文に解釈は「あそこに猫がいる」という事態が<過去>に実現していたことを表します。動きがないものを状態動詞と言うので、状態動詞には動きの局面(アスペクト)が存在しません。だから状態動詞のタ形は<過去>の時制は表せますが、完了のアスペクトは表せません。
動作動詞「食べる」を用いて「もう食べた」というと、選択肢1で説明したようにテンスもアスペクトも表します。
この選択肢は前件も後件も間違い。
選択肢4
動作動詞「食べる」を用いてル形「今食べている」というと時制は<現在>、「あとで食べる」というと時制は<未来>を表します。日本語の動作動詞のル形は<現在>も<未来>も表せます。
状態動詞のル形「あそこに猫がいる」では時制は<現在>しか表しません。状態動詞は発話時現在における事物の状態を述べるものなので、ル形では<現在>を表すのが普通で、<未来>は無理。
したがって答えは2です。
(3)モダリティの種類
話し手の命題に対する認識や判断を表したり、聞き手に対する気持ちを表す文法カテゴリーをモダリティと言います。モダリティの分類は研究者によっていろんなものが提唱されていますが… 選択肢1の「対事的モダリティ」と「対人的モダリティ」の分類はよくあげられる分類の一つです。
明日雨が降るらしいよ。
例えばこの文は、「明日雨が降る」という命題に対して、話し手が「らしい」を用いてその命題が表す情報は誰かから聞いた情報である(伝聞)ということを述べています。この「らしい」は命題に対する認識や判断を表すものなので、対事的モダリティと呼ばれます。文末の「よ」は命題「明日雨が降る」に対して何かの気持ちを表明しているのではなくて、話し手が聞き手に対する気持ちを表すものです。これは命題ではなく聞き手に対するものだから対人的モダリティと言います。
文章中の イ と ウ のあとに「この順で述語に接続する」「後者の代表的な形式に終助詞がある」とありますが、これらは対事的、対人的モダリティに合致します。
答えは1です。
(4)組み合わせ可能な終助詞
三つの終助詞を組み合わせて使えるものを探します。それぞれ6通りあるので、一つずつ見ていって、使える言い方があるかどうか見ていくといいです。
選択肢1
✕ぞよわ
✕ぞわよ
✕よぞわ
✕よわぞ
✕わぞよ
✕わよぞ
選択肢2
✕ねよわ
✕ねわよ
✕よねわ
✕よわね
✕わねよ
◯わよね (私ちゃんとあなたに言ったわよね)
選択肢3
✕さねよ
✕さよね
✕ねさよ
✕ねよさ
✕よさね
✕よねさ
選択肢4
✕ぞねわ
✕ぞわね
✕ねぞわ
✕ねわぞ
✕わぞね
✕わねぞ
選択肢2の組み合わせのうち「わよね」だけは言えます。
答えは2です。
(5)誤用が生じやすい例
選択肢1
「帰らさせて」と、いわゆるさ入れ言葉が見られます。五段動詞につく使役接辞に含まれる se の直前に不要な -sa- が挿入される文法現象を指します。「帰る」の使役形は規範的な立場では「kaer-ase-ru(帰らせる)」ですが、se の直前に sa を入れることで「kaer-asase-ru(帰らさせる)」とします。
一応これは一般に誤用と呼ばれているので、この選択肢が答えです。ただし、”誤用”と言い切るこの問題の作り手には疑問があります。”規範的な立場の人々には誤用と認識されている”と言ったほうがいいのでは。
選択肢2
誤用は見当たりません。一段動詞「出す」の使役形は「出させる」で間違いなし。
選択肢3
これも問題なし。一段動詞「見る」の使役形は「見させる」です。
選択肢4
これも誤用はありません。
答えは1です。
コメント
コメント一覧 (5件)
こんにちは。
平成27年度の試験Ⅰ問題3-A(1)の問題の解答がどうしても納得いきません。
問題は「手伝わせられていたらしいですね」の動詞「手伝う」の語幹に合計いくつの形態素が付加されているかということですが、「手伝う」の語幹は{tetsuda}なので、これに9つの形態素が付加されると考えられるのではないでしょうか。
私の答えは以下の通りです。
手伝/動詞(語幹)
①わ/動詞の活用語尾(接辞)
②せ/助動詞
③られ/助動詞
④て/助詞
⑤い/補助動詞
⑥た/助動詞
⑦らしい/助動詞
➇です/助動詞
⑨ね/終助詞
皆さんはどうお考えになりますか。
>こまったさん
コメントありがとうございます。
解説にある考え方が正しいとは言い切れないのですが、私の考え方を書いておきます。
動詞の後に付加された形態素はいくつかという問題ですが、形態素は意味を持つ最小単位を指していますので、分解した後に意味を何らかの持っていなければいけません。
動詞 手伝う
①手伝わ【せる】 使役
②手伝わせ【られる】 受身
(手伝わせられて 「て」は単なる接続)
③手伝わせられて【いる】 進行形
④手伝わせられてい【た】 過去形
⑤手伝わせられていた【らしい】 推定
⑥手伝わせられていたらしい【です】 断定
⑦手伝わせられていたらしいです【ね】 確認・共感・同意要求
手伝うの活用語尾である「わ」は実質的な意味を持っていないので形態素ではありません。
「手伝わない」を形態素に分割すると「手伝わ」と「ない」に分けられます。
また、「④て/助詞」については私は単なる接続だと思っています。「手伝わせられる」と「いる」を繋ぐためにて形が必要になっているからです。したがって形態素ではないと考えています。
文法的な分割となると、こまったさんが書かれたような分割になると思います。
ご丁寧な回答ありがとうございます。
なるほど、形態素は「意味を担う最小の単位」であって「分割できる最小の単位」ではないんですね。
自由形態素が語彙的な意味を、束縛形態素が文法的な意味を担うということですが、ご指摘いただき、活用語尾はそのどちらにも該当しないのが(ぼんやりとですが)見えてきました。
そして接辞の文法的な束縛形態素が「る/非過去」「た/過去」「ない/否定」「られ/受け身」「させ/使役」、のような文法的な機能を持っているためにヴォイス、アスペクト、テンス、モダリティーと関係があるんですね!
形態素の概念を把握するのにまだまだ時間がかかりそうですが、一人で頭を抱えていたので教えていただいて本当に助かりました。
ところで、「手伝わせられていたらしいですね」の中で語彙的な形態素はどれかと考えてみたところ、
私は「手伝わ」「い」「らしい」「です」「ね」ではないかと思うのですが、どうでしょうか。
解説とても助かります。
本当にありがとうございます。
今年、令和3年度 初受験します!
頑張ります!
さて、
平成27年度の試験Ⅰ問題3-A(1) の解答ですが、
手元にある中古の某大手教材に同じ問題が記載されていました。
手伝わ(せ)(られ)(てい)(た)(らしい)(です)(ね)
の7つだそうです!
アスペクトとヴォイスの境界が少し違うっぽいです
>匿名さん
「てい」で一つですか!
改めて見返してみるとその方が良さそう。「~ている」だから「てい」は一つでまとめたほうがいいんですね。
ありがとうございました!