平成26年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題7解説
問1 自己研修型
自己研修型教師は次の2つの特徴を持つ教師を指します(岡崎ら 1997: 15)。
a 他の人々が作成したシラバスや教授法をうのみにしそのまま適用していくような受身的な存在ではなく
b 自分自身で自分の学習者に合った教材や教室活動を創造していく能動的な存在である。
このような教師は学習者をよく観察してニーズを知り、教師自身が授業を観察・研究してカリキュラムをどんどん改変していくような行動を行うことで実現されます。
1 授業を分析・研究して新しい対応に役立てようとしてますから自己研修型教師に該当します。
2 先輩教師のやり方を真似しようとするのは上述の内容に反します。
3 内容自体は良いですけど、自己研修型教師は練習の仕方などをうのみにしません。
4 アシスタントとして授業に参加したりすることが自己研修型教師の特徴ではないので間違い。
答えは1です。
《参考文献》
岡崎敏雄・岡崎眸(1997)『日本語教育の実習 理論と実践』14-18頁.アルク
問2 アクション・リサーチ
アクション・リサーチとは、自分の授業を改善していくための授業研究のことです。
選択肢1
先輩教師のやり方をそのままそっくりまねして毎回同じようなクオリティで授業できるようになることを重視していたのは以前の伝統的な日本語教育なんですが、このやり方は自分自身の授業を批判的に見ていないので改善につながりません。でもアクション・リサーチはそういう従来のやり方とは違って能動的。柔軟性があります。この選択肢は適当。
選択肢2
アクション・リサーチは教師本人も同僚の教師も一緒になって授業研究を進めていくものです。この選択肢は適当。
選択肢3
方法論というのが何だか微妙ですが、アクション・リサーチは「計画立案(Planning)→アクション(Action)→観察(Observation)→省察(Reflection)」の流れで行います。一応方法論があって、これにしたがって行われるのでこの選択肢は適当。
選択肢4
仮説、実験、検証の過程は良いですが、一般化を目指すのではなく、自分のやり方というのを探っていくためにアクション・リサーチを行います。
答えは4です。
問3 ティーチング・ポートフォリオ
選択肢1
(教育場面で)実際に発生した問題について調査・分析すること。
選択肢2
個人の教授活動の記録や教育業績を集めたもののこと。
選択肢3
被験者の考えていること、思考の流れを客観的に測定する発話プロトコル法における、被験者の発話した内容のこと。
発話プロトコル法では被験者に何かしらのタスクを与え、それを遂行するにあたり被験者が考えたこと、思ったことを常時全て発話させます。この発話した内容をプロトコル・データと呼び、その発話を分析することによって、思考の流れを解明します。
選択肢4
現場にて記録された何らかの情報のことです。
したがって答えは2です。
問4 状況的学習論
状況的学習論とは、ある人が社会活動に参加することを通して知識や技能の習得していく過程を学習と捉える考え方のことです。グループの中で一人ひとりが役割を全うし、協力して成長していくようなものが状況的学習論に基づく活動です。
選択肢1
一方が他方に質問をして情報を得るために行われる活動がインタビューですが… グループで頑張る感は薄め。
選択肢2
ロールプレイは会話の目的や役割、状況を明示して、その役割に応じた会話をグループで進める活動です。グループ、役割を全うというヒントからするとロールプレイも状況的学習論に基づくものだと思うかもしれませんが違います。もっと現実的、社会的な活動を通した成長ができるような活動でなければいけません。
選択肢3
学習者の学習や異文化について思っていることや問題点を自由に書くことで、本人にその原因などを気付かせる方法をジャーナル・アプローチと言います。学習者が書いたものをジャーナルと呼び、それらを教師や援助者と共有することでフィードバックを与え、お互いの相互理解を深めることに用います。グループで頑張る感は薄め。
選択肢4
プロジェクトワークは学習者が主体となって計画をし、資料や情報を集めたりして、グループごとに一つの作品にまとめる学習方法です。報告書、新聞、発表、映像などを作る。現実性の高い活動なので、実践的な日本語を学べます。グループで協力して一つのものを作り上げる。状況的学習論の考え方が取り入れられている活動です!
状況的学習論の考え方は、プロジェクトワークのグループ作業と一致します。
したがって答えは4です。
問5 課題提起型学習
問題文にもあるパウロ・フレイエ(Paulo Freire 1979)は、教師が一方的に物事を教えて、生徒はそれをただ暗記するだけの従来の教育を銀行型教育(預金型とも)と名付けました。これは教師を預金者、生徒を銀行にたとえたものです。同時にこのような教育を批判し、課題提起教育を目指すべきだと主張しています。課題提起教育は次のように定義されています(フレイエ 1979: 80)。
現実世界のなかで、現実世界および他者とともにある人間が、相互に、主体的に問題あるいは課題を選びとり設定して、現実世界の変革とかぎりない人間化へ向かっていくための教育
これが問5の問題文にある「対話を通して現実を改善することを目指して」という部分と一致します。
答えは1です。
《参考文献》
パウロ・フレイレ(著)・小沢有作(訳)・楠原彰(訳)・柿沼秀雄(訳)・伊藤周(訳)(1979)『被抑圧者の教育学』63-92頁.亜紀書房
コメント
コメント一覧 (3件)
コメント失礼致します。
問2の3は不適当な内容のように書かれていますが、あらかじめ方法論を明示し行われるのは、適当なのでしょうか?
>にんさん
コメントありがとうございます。
アクション・リサーチは教師自身が自分の行動を教育活動を観察、内省して自己成長していくことなので、何かもともと答えのようなものは提示されないんだと思います。
お返事頂きありがとうございます。問2は不適当なものを選ぶ問題なので、3も4も不適当という訳にはいかないですよね。解答が4なので、3は適当という事になります。あらかじめ方法論を明示して行われるのが適当だという事になってしまいますね。