平成26年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題6解説
問1 演繹的指導
言語教育における演繹的指導とは、まずは学習項目(文法規則など)を教師側から明示的に教えて、そのあと教えられた知識を使って練習したりするような指導を指します。先に文法規則を教えるのでその後の練習が楽になるのが特徴です。それとは逆に、学習項目を教える前に実際の例文などに触れ、そこから学習者自身に規則を発見させるような指導を帰納的指導と言います。
選択肢1
ナチュラル・アプローチはクラッシェンらによって開発された外国語教授法です。幼児の第一言語習得過程を参考にした指導を行うので、教師は明示的に教えることはしませんから演繹的指導ではありません。
選択肢2
TPRも幼児の第一言語習得過程を参考にしています。教師が明示的に教えることはありませんので演繹的指導ではありません。
選択肢3
オーラル・メソッドは基本的に媒介語の使用を認めていないので、教師による文法規則の明示的な指導はほぼできません。だから演繹的指導ではありません。
選択肢4
文法訳読法はまず教師から文法規則が教えられ、学習者はその知識を使ってテキストを読んだりします。典型的な演繹的指導です。
答えは4です。
問2 初期段階における留意点
下線部Bについて、例えば文型「~ている」を教えるときは、「ご飯を食べている」「映画を見ている」「車を運転している」のように「~ている」を用いた例文も同時に提示して教えます。こういう方法を初級で用いるときの注意点とは?
選択肢1
例えば「~ている」を教えるときに例文を提示するのは重要ですけど、「~ている」は複数の意味があります。例えば「ご飯を食べている」は進行中、「ドアが開いている」は結果の状態など。それらの意味と使い方を初級で全部網羅するのは混乱させてしまうのでダメです。文型一つ扱うときは、その文型の一つの意味だけを扱います。この選択肢は不適当。
選択肢2
初級に教えるべき文型であるかどうか(難易度が適切か)、そしてその文型が実際の言語生活においてもよく使われているかどうか(使用頻度)には気を配るべきです。この選択肢は適当。
選択肢3
ある文型の例文を考えるとき、できるだけ一般的な場面で、かつ一般的な表現であるほうがいいです。学習者がその例文をそのまま日常生活で使えるくらいであれば覚えやすくなります。そのためには文脈も重要です。この選択肢は適当。
選択肢4
学習者のレベルに合わせた語彙や文型を含んだ例文で、かつ学習者の興味などの合わせて例文を考えられればとてもいいです。この選択肢は適当。
答えは1です。
問3 形・意味のルール
Nへ に行きます
この文型を使って問題を解きます。
選択肢1
「普通形」とは、日本語教育では動詞の全ての形を指します。「食べる」「食べます」「食べよう」「食べている」「食べられる」などなど… これらは に入れることはできません。「食べるに行きます」とか言えないから。この文型に動詞を入れるなら動ます形だけ許されます。「食べにいきます」など。この選択肢は間違いです。
選択肢2
「泳ぎに行きます」と動ます形を入れてもいいですし、「散歩に行きます」「水泳に行きます」など名詞を入れてもいいです。この選択肢が答え。
選択肢3
「食べにいきます」の「に」は目的を表しています。「食べるためにいきます」と言い換えられるから。動作の対象は表していません。この選択肢は間違い。
選択肢4
格助詞「へ」は動作の方向を表します。「国慶節に上海へ行く」など。この選択肢は間違い。
答えは2です。
問4 「Vべきだ」の使い方のルール
「~べき」の用法については以下を参照してください。
【N3文法】~べき/べきだ/べきではない
【N3文法】~べきだった/べきではなかった
選択肢1
「Vべきだ」はもともと文語ですが、現代では書き言葉でも話し言葉でも使えます。この選択肢は適当。
選択肢2
「べきだ」は一般常識的にそうしたほうがいいという意味で使います。根拠に基づいた推量は表せません。根拠に基づいた推量は「彼は風邪を引いているから、明日は休むだろう」みたいに「だろう」などを使えばいいです。この選択肢は不適当。
選択肢3
「大人も毎日勉強するべきだ」「先に資料を読んでおくべきです」のように忠告や助言に使うことができます。この選択肢は適当。
選択肢4
「転職する前に資格を取得しておくべきだった」のように過去形「べきだった」を使うと後悔の気持ちを表しますので適当。
答えは2です。
問5 タスク中心言語教育
教授法の言語習得観は3つに分けられます。それを簡単に説明すると…
文法訳読法やオーディオリンガル・メソッドは教師主導で文型を重視しているフォーカス・オン・フォームズの教授法です。
フォーカス・オン・フォームズの授業は文法、文型は確かに身につくんですが、コミュニケーション能力は全然ダメでした。そこでナチュラル・アプローチやコミュニカティブ・アプローチなどの意味を重視した学習者中心のフォーカス・オン・ミーニングの教授法が現れます。ところが… フォーカス・オン・ミーニングの授業も問題が出てきます…。確かにコミュニケーションは上手になるんですが、今度は文法がおろそかになってしまいました。
結局、文型を身につけられるフォーカス・オン・フォームズとコミュニケーション能力が身につけられるフォーカス・オン・ミーニングを合わせたフォーカス・オン・フォームの教授法が開発されます。タスク中心の教授法や内容言語統合型学習(CLIL)がこれにあたります。
文章中の下線部Eとは、フォーカス・オン・フォーム(FonF)のことです。
1 タスク中心言語教育(タスク中心の教授法)
1990年代以降に提唱された、オーディオリンガル・メソッドとコミュニカティブ・アプローチのお互いの長所を組み合わせ、欠点を補い合った教授法。必要に応じて言語形式にも注意を向けさせるFonFに基づく。「面接」「返品の電話をする」「友人にアドバイスする」など実生活に必要なタスクの中で実際に使われる言葉を使うことによって自然なコミュニケーション能力を身につけさせるもの。
上述したように、タスク中心の教授法はフォーカス・オン・フォームです!
2 スキルシラバス/技能シラバス
言語の四技能(読/書/話/聞)の中から、学習者に必要な技能に焦点を当てて構成されたシラバス。
3 概念・機能シラバス
機能シラバスと実際のコミュニケーションの場面を組み合わせて構成されたシラバス。依頼する、慰める、同意する、拒否する、提案するなどの言語の持つ機能を用い、実際にコミュニケーションが行われる場面で目標を達成するような活動を進めていく。
これはフォーカス・オン・ミーニングの教授法であるコミュニカティブ・アプローチで扱われるシラバスです。
4 認知記号学習理論
コグニティブ・アプローチ(認知学習法)の基盤となった理論です。これは全然出題されませんし、答えにもなったことないので覚えなくていい選択肢です。
下線部Eが何を言ってるのか分からないとこの問題は解けません。教授法は一つひとつ分けて覚えるよりも、FonFs、FonM、FonFの流れ、それまでの教授法への批判、新しい教授法の開発など順序良く覚えたほうがいいです。
したがって答えは1です。
コメント
コメント一覧 (3件)
您好,老师。
「意味中心の活動の中で、必要に応じて学習者の注意を文法項目に向けさせる指導が注目されている」というのはFonMではなく、FonF(フォーカスオンフォーム)ではないでしょうか。
参照:http://www.ed.gifu-u.ac.jp/~kyoiku/info/jissen/pdf/0715.pdf
「意味伝達 を中心とした言語活動の中で,必要に応じて文法などの言語形式に注意を向けさせる指導(Focus on Form,以下 FonF とする)
最近勉強はじめたばりで間違っているかもしれませんので、ご指導よろしくお願いします。
>Albertさん
ご指摘ありがとうございました。
確認しましたところ、確かにFonFの記述です。FonFs、FonM、FonFについてまとめたものを追記し、すでその部分は訂正いたしました。
ご迷惑おかけしております。
老师,早上好。
毎日のんびり参考にさせていただいており、助かっています。
この試験紛らわしい言葉の定義に関する正誤問題多くてこんがらがりますね。
なので私も細かい違いに敏感になってきました(笑)