平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説
問1 時間の直示
発話現場における時間(発話時)を基準にして時を定める直示を時間直示と言います。例えば「今日」は常に発話時を含む日を指す時間直示表現です。1月1日に「今日」と言えばそれは1月1日を指し、3月1日に「今日」と言えば3月1日を指します。このように発話時の時間を参照して時を定めているかどうか、各選択肢を見てみましょう。
選択肢1
「試験の翌週に合格発表された」という発話を1月1日に発話した場合、「翌週」が指す週は不明です。なぜなら発話時とは関係なく、試験が行われた日が分からないからです。「翌週」は発話時を基準にして時間を指定しているのではなく、この文においては「試験」が行われた日という任意の時間を参照して、その次の週を指しています。したがって「翌週」は直示ではありません。
選択肢2
「あした合格発表があります」という発話を1月1日に発話した場合、「あした」が指す日は「1月2日」です。「あした」は発話時を含む日を基準にして、その次の日を指す直示表現です。この選択肢が答え。
選択肢3
「2013年に大事件があった」という発話を2014年にしても「2013年」が指す時間は「2013年」です。2015年に発話したとしても「2013年」を指します。2013年は発話時を基準に時間を指し示しているわけではないので直示ではありません。
選択肢4
「あの時の6分間は劇的な試合運びだった」の「6分間」は、文中の「あの時」を参照して、その時間に含まれる特定の6分間を指しています。発話時を基準にして時間を示しているわけではないので非直示です。
答えは2です。
問2 談話の直示
談話や文章の一部を指す指示詞は、発話現場における言語的コンテクストを参照します。この類の直示は談話直示と言います。
選択肢1
指示詞「それ」は先行文脈の「今回の失敗はあなたのせいだ」を指しています。これが談話直示。
選択肢2
「その」は発話現場にある青い何かを指しています。これは言語的コンテクストを参照しているのではなく、発話現場の物理的状況を参照しているので場所直示です。
選択肢3
「あの」は派手な服を着ていた時を指していますが、その時の思い出は話し手の頭の中、長期記憶に貯蔵されているものです。
発話現場における話し手の長期記憶を参照していると考えれば直示のように感じますが、言語的コンテクストを参照しているわけではないので談話直示ではありません。この選択肢は間違い。
選択肢4
この「あれ」も記憶を参照しています。言語的コンテクストを参照しているわけではないので談話直示ではありません。
答えは1です。
問3 ある直示表現が別の直示表現として使われるもの
選択肢1
「次」は「皿を洗ったから、次は洗濯物を干そう」のように時間的な順序を表すのに用いられる時間直示ですが、「次のかたどうぞ」の「次」は先行する文章に現れている人物の「次」を表しており、言語的コンテクストを参照しているので談話直示です。この選択肢は適当。
選択肢2
「この間」は2つの物の間の空間を指す場所直示ですが、ここでは発話時を基準にして少し前の時間を指しています。本来場所直示だった形式が時間直示として使われています。この選択肢は適当。
選択肢3
「あちら」は「あちらに銀行があります」のように発話現場基準で方向を指し示す場所直示ですが、ここでは人物を指す「あちら」として使われています。場所直示が人称直示として使われているのでこの選択肢は適当。
選択肢4
「お前」は発話現場における聞き手を指す人称直示です。この文の「お前」は聞き手を指しているので人称直示。談話直示ではありません。この選択肢が不適当。
答えは4です。
問4 直示の体系
選択肢1
役職語について…
日本語では「部長、話があります」「課長、話があります」と役職語を使うと呼称表現として使用できます。
英語では…
中国語では…
韓国語では…
選択肢2
日本語には尊敬語と謙譲語の使い分けがあります。
英語にはありません。
中国語にもありません。
韓国語にはあります。
選択肢3
現場指示について…
日本語では「これ」「それ」「あれ」と3つが使い分けられています。
英語では…
中国語では「这个」「那个」の2つです。
韓国語では…
選択肢4
日本語に幼児が使用する専用の自称詞がありますか…? 自分を名前で呼ぶことはあると思いますが、それは自称詞(話し手を指す指示詞)じゃないですね。この選択肢は間違い。
答えは1です。
問5 誤用の原因が直示に関わらない例
選択肢1
「あなたの家に来るよ」ではなく、「あなたの家に行くよ」と言うべきです。
話し手が友達の家へと移動することを表す場合、日本語では「行く」を使います。なぜなら日本語の「行く」は話し手の位置を基準に、話し手がいる場所ではないところに移動することを表すからです。「行く」「来る」などは発話現場の話し手基準の移動を表すので直示性を有します。この誤用は直示に関わります。
選択肢2
「いらっしゃります」ではなく「いらっしゃいます」というべきです。
直示とは関係なく、動詞「いらっしゃる」の活用を間違っているだけ。
選択肢3
「これ」も「こちら」も発話現場にある物を指す場所直示ですが、「こちら」は発話現場にいる人物を指す人称直示としても使えます。この文では「先生」に対して物を指す「これ」を使っているので間違い。正しくは人物を指す「こちら」を使うべきです。つまり人称直示に関わる誤り。
選択肢4
「昨日に」と不要な「に」をつける誤りです。時間直示は基本的に「に」をとらないという文法規則がありますが、この学習者はそれを知らないようです。時間直示に関わる誤り。
答えは2です。
コメント
コメント一覧 (3件)
いつもありがとうございます。
間違いを見つけましたので、修正お願いします
問1 時間の直示 答えは2です
>mikoさん
ご指摘ありがとうございました。
答えを2にし、解説も多少修正致しました。これからもよろしくお願いします。
問3の「次」の件です。
これは正直よくわからない面もありますが・・・ひとつの考え方として。
「次のかた」が存在する=伝達される内容が事実として成立するためには、複数の人が順番待ちをしているという前提が必要です。
病院の待合室で典型的に見られる発話ですが、一人しかいなければ、通常「次のかた」という呼ばれ方はしないと思いますので・・・。
すなわち、複数人が順番待ちをしているという了解があってはじめて「次のかた」が意味をなすがゆえ、談話の直示だと言えなくもないのではないでしょうか。