平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題10解説
問1 文化受容態度
こちらはBerry(1997)が提唱した文化変容ストラテジーからの出題です。簡単に言うと、自分の文化を保持しているかしていないか、相手の文化を保持しているかしていないかによって異なる4つの態度をとるとする異文化適応のモデルです。
自分の文化を保持しつつ、相手文化との関係も保持している状態は 統合 、相手文化との関係は保持しているが、自分の文化は保持していない状態は 同化 です。
だから答えは1。
問2 分離
1 自文化を卑下するのは同化か周辺化
2 両文化の融合、つまり統合
3 相手文化から離れる、これが分離
4 相手文化に近づくのは同化か統合
答えは3です。
問3 周辺化
1 滞在国でも出身国のスタイルを続けています。滞在国に馴染めず、自文化を保持している分離
2 滞在国の文化にも出身国の文化にも適応できているので統合
3 滞在国に馴染み、出身国から離れようとしているので同化
4 滞在国にも出身国にも適応できていない周辺化
答えは4です。
問4 文化受容態度について
選択肢1
最後の状態が「周辺化」とは限りません。人によってどこに落ち着くかは異なります。
選択肢2
分離では自文化を保持し続け、異文化を拒否します。異文化の習慣や価値観、行動様式をも拒否するので、自分の変化が非常に小さくなります。自文化に閉じこもっているだけでは変化はあまりないです。この選択肢は適当。
選択肢3
その通りです。どのストラテジーをとるかは、その人の自文化に対する考え方と相手文化に対する考え方によります。年齢ではなく。
選択肢4
各タイプは変動しています。最初は異文化に馴染めなかったけど、だんだん慣れて馴染めてきたみたいなこともあります。
答えは1です。
問5 文化的アイデンティティ
文化的アイデンティティとは、人種、階級、ジェンダー、言語、生活習慣、常識範疇などのカテゴリーの中で自覚される、他者との関係性における自己認識のことです(張 2000)。
選択肢1
自文化だけに触れていれば自文化のアイデンティティだけを持つことになります。ある程度年齢が高いと既に母文化のアイデンティティを持っていますが、幼児期は母文化のアイデンティティすら完全に持っていない状態なので、この時点で異文化に触れさせることは、アイデンティティの形成に大きな影響を与えます。もしかしたら母文化のアイデンティティを喪失するかもしれませんし、どちらか一方すらも確立できなくなるかもしれません。この選択肢は適当です。
選択肢2
周囲の人と同じ外見的特徴(アジア人の中でアジア人の見た目)なら、その文化に馴染みやすくなります。でも周囲と外見的特徴が違う(アジア人の中での欧米人)なら自分が他の人と違うということを意識させられるので、その文化に帰属意識が持てなくなる可能性もあります。この選択肢は適当です。
選択肢3
それまでの習慣、価値観、行動様式などが他の人と違うと当然混乱が起きます。この選択肢は適当。
選択肢4
成人以後も身を置く文化の影響を受けて変化します。この選択肢は間違い。
答えは4です。
《参考文献》
張競(2000)「文化越境のオフサイド トランスカルチュラルな批判はいかにして可能か」『異文化理解の倫理にむけて』115-132頁.名古屋大学出版会
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