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遊離数量詞とは?

遊離数量詞(floating quantifier)

 日本語では事物を数えるとき、「一つ」「三人」「1メートル」などのように数詞(1、2、3…)に接尾辞である助数詞(つ、個、本…)がついた数量詞(numeral quantifier)を使います。数量詞には上記と機能が同じ「たくさん」「すべて」なども含まれる場合もあります。

 数量詞が名詞の数量を限定するために名詞を修飾する最も基本的な方法は2つあります。一つは「数量詞+の+名詞」の形で「の」を介して名詞を修飾する方法、もう一つは「名詞+数量詞」の形で名詞に直接数量詞を置いて修飾する方法です。

 (1) 3匹の猫を飼っています。   (「数量詞+の+名詞」)
 (2) 猫3匹を飼っています。    (「名詞+数量詞」)
 (3) 猫を(今)3匹飼っています。 (遊離数量詞)

 ところが、数量詞は名詞から離れた位置にも現れることがあります。例文(3)は「猫」と「3匹」の間に「今」などを挿入できることから見ても数量詞と名詞は引き離されています。この現象を数量詞遊離といい、またそのような数量詞を遊離数量詞(floating quantifier)といいます。

遊離数量詞と痕跡

 (4) 障子を猫が2枚やぶった。 (遊離数量詞)
 (5) *猫が障子を3匹やぶった。 (遊離数量詞)

 数量詞は名詞から引き離すと修飾関係が成り立たなくなり非文になることもありますが、ならないこともあります。例えば(5)は引き離された「猫」と「3匹」が修飾関係を失い非文になっていますが、(4)は「障子」と「2枚」が引き離されているのにもかかわらず修飾関係が失われていない文法的な文です。

 (4)と(5)は同じように数量詞と名詞が引き離されているけど、なぜ(4)は文法的で(5)は非文なのか。そこには日本語の基本語順(SOV)と、語順の自由度が関係しているとされています。

 (4) 障子を 猫が   t  2枚やぶった。 (OSV)
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 日本語の基本語順はSOVだから、元々「猫が障子を2枚やぶった」だったと考えます。そこから目的語の「障子」が語順の移動をしてOSV語順になったのが(4)です。このとき、「障子」がもともとあった場所には痕跡(trace)が残ることになります。痕跡tはもともと数量詞「2枚」と隣接しているから文法的なわけです。
 (5)はもともとSOV語順であり痕跡tは存在しません。「猫」と「3匹」は隣接していないから修飾関係が成り立たず非文になります。

 遊離数量詞が非文になるかどうかは、基本語順における数量詞と名詞の隣接関係がポイントになっています。

参考文献

 鈴木孝明(2015)『日本語文法ファイル―日本語学と言語学からのアプローチ―』165-171頁.くろしお出版
 森山卓郎,渋谷勝己編(2020)『明解日本語学辞典』101頁.三省堂




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