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古典的カテゴリー観とプロトタイプ理論について

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古典的カテゴリー観とプロトタイプ理論について

 カテゴリー化の方法をめぐっては相対する2つの考え方があります。古典的カテゴリー観(classical view of category)とプロトタイプ理論(prototype theory)です。

古典的カテゴリー観(classical view of category)

 あるものがそのカテゴリーに属するか属さないかは定義に基づいて明確に決まり、そうして規定されたメンバーは均質な資格を持っている、とする考え方のことです。このように規定されたカテゴリーは決して他のカテゴリーと重複することなく、またカテゴリー境界も明確です。この考え方に基づくカテゴリー化が活躍するのは数学やエキスパート・カテゴリー(expert category)です。

 例えば、「2で割り切れる整数」と「2で割り切れない整数」という定義で整数をカテゴリー化したときに、前者の「偶数」カテゴリーには「2、4、88、102…」などが属し、後者の「奇数」カテゴリーには「1、3、77、585…」などが属します。この定義はそのカテゴリーのメンバーとなるための必要十分条件となっています。

 エキスパート・カテゴリー(expert category)は、何らかの客観的基準をもとに分類を試みた結果で、科学的な専門知識にかかわるカテゴリーです。例えば、これまでの学習によってコウモリが哺乳類であることを知らない人は、羽があり飛ぶ様子からコウモリを「鳥」カテゴリーに属すると判断するかもしれませんが、科学的認識のもとでは「哺乳類」カテゴリーに属します。古典的カテゴリー観ではこうした曖昧さを認めず、哺乳類とは何か、コウモリとは何か? を明確にして分類を試み、重複を避けようとします。学術的な分類によく見られるカテゴリー化です。

 専門知識でよく用いられる古典的カテゴリー観は必ずしも万能であるとは限りません。例えば、エキスパート・カテゴリーである「ナ形容詞」カテゴリーには「綺麗」「静か」「自由」「同じ」などが属しますが、「同じ」は他と違い、名詞を修飾する際に「な」を介在させません。この事実により「同じ」は他のメンバーと均質の資格を持っていないため、古典的カテゴリー観では「綺麗」「静か」「自由」を一つのカテゴリーに、「同じ」を一つのカテゴリーにまとめ区別すべきです。このように、必要十分条件に基づくカテゴリー化はしばしば実態を置き去りにすることがあります。

プロトタイプ理論(prototype theory)

上述した「ナ形容詞」カテゴリーのように、古典的カテゴリー観が当てはまらないケースはたくさんあるのに対し、人はプロトタイプを中心にカテゴリー化を行うとするプロトタイプ理論(prototype theory)では、カテゴリー境界の曖昧さを認める立場をとります。

 例えば、「鳥と言えば?」のような質問をして答えの多い順に並べると「すずめ」や「カラス」のような身近なものがまず真っ先に挙げられ、「ニワトリ」や「ダチョウ」はランキングの下位に位置することが予想されます。もしカテゴリーのメンバーが均質の資格を持っていればこの質問に対する各メンバーの回答数に差はないはずですが、実際は差が出ます。「すずめ」や「カラス」は鳥としての典型性(らしさ)が高く、「ニワトリ」や「ダチョウ」は典型性が低いと感じられるように、カテゴリーのメンバー間には典型性で差があり、中心メンバーとそうでないメンバーに分けられることが分かります。プロトタイプ理論(prototype theory)では、カテゴリー化プロトタイプを中心とし、その周辺はメンバー間の典型性の違いに基づいて行われると考えます。また、プロトタイプに基づいて形成されたカテゴリープロトタイプ・カテゴリー(prototype category)と言います。プロトタイプ・カテゴリーは、プロトタイプから周辺へと放射状に広がっていった結果形成されるわけですが、そのカテゴリー境界付近では他のカテゴリーと重複することがあります。

参考文献

 大堀壽夫(2002)『認知言語学』29-51頁.東京大学出版会
 籾山洋介(2010)『認知言語学入門』18-26頁.研究社
 吉村公宏(2004)『はじめての認知言語学』23-46頁.研究社




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