ライマンの法則(Lyman’s Law)
ライマンの法則(Lyman’s Law)とは、連濁を回避する現象の一つで、複合語の後部要素にすでに濁音が含まれている場合は連濁しないとする法則のことです。
連濁する例 | 連濁しない例(ライマンの法則による) | |
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(1) | 合鴨(あいがも) | 神風(かみかぜ) |
(2) | 矢印(やじるし) | 蝉時雨(せみしぐれ) |
(3) | 目玉(めだま) | 一人旅(ひとりたび) |
(4) | 乾拭き(からぶき) | 花札(はなふだ) |
左側に並ぶ複合語の後部要素の語頭は「かも」が「がも」、「しるし」が「じるし」、「たま」が「だま」、「ふき」が「ぶき」と連濁していますが、右側は「かぜ」「しぐれ」「たび」「ふだ」のままで連濁していません。この言語事実を観察すると、右側の複合語の後部要素にはすでに濁音「ぜ」「ぐ」「び」「だ」が含まれているため連濁しないと一般化でき、この一般化はライマンの法則(Lyman’s Law)と呼ばれています。ライマンの法則は異化(dissimilation)と呼ばれる現象の一つです。
ライマンの法則が言及しているのは複合語の後部要素の”濁音”の有無であって、有声子音の有無ではありません。(1)の「かも」にはすでに有声子音 /m/ が、(2)の「しるし」には有声子音 /r/ が含まれていますが、「がも」「じるし」と連濁しています。有声子音が連濁を阻害するのではなく、あくまで濁音が連濁を阻害します。
ライマンの法則は連濁の実現に向けて複合語後部要素の語頭に強力に働きますが、一部例外があることも知られています。
(5) 縄ばしご
nawa + hasigo → nawabasigo
(6) 避難ばしご
hinan + hasigo → hinanbasigo
(7) 礼手紙
rei + tegami → teidegami
(8) 踏んじばる
humu + sibaru → hunjibaru
(9) 若白髪
waka + siraga → wakajiraga
(10) 庄三郎
syou + saburou → syouzaburou
「はしご」や「てがみ」にはすでに濁音「ご」「が」が含まれているのにも関わらず「縄ばしご」「れいでがみ」のように連濁します。ライマンの法則を無視するこのような例はとても少ないですが存在しています。
参考文献
窪園晴夫(1999)『日本語の音声』122-131頁.岩波書店
菅原真理子(2014)『朝倉日英対照言語学シリーズ3 音韻論』100頁.朝倉出版
鈴木豊(2005)「ライマンの法則の例外について–連濁形「-バシゴ(梯子)」を後部成素とする複合語を中心に」『文京学院大学外国語学部文京学院短期大学紀要 = Journal of Bunkyo Gakuin University, Department of Foreign Languages and Bunkyo Gakuin College (4)』249-265頁
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