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平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題12解説

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平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題12解説

問1 東京式アクセント

 東京式(東京方言)は日本語標準語のことです。標準語のアクセントは、核の位置から平板型、頭高型、中高型、尾高型の4つに分けられます。1拍名詞から4拍名詞で現れる全てのアクセント型を網羅した次の表をご覧ください。

平板型
(核なし)
頭高型
(語頭の拍に核)
中高型
(語中の拍に核)
尾高型
(語尾の拍に核)
1拍名詞
蚊が

目が
2拍名詞 しが
虫が
たが
肩が

父が
3拍名詞 かでが
百足が
ゆげが
眉毛が
ぜが
虎魚が
すめ
娘が
4拍名詞 きぶりが
ゴキブリが
んけいが
神経が
えびが
伊勢海老が
もうと
妹が

 この表を見ながら解いてみましょう。

選択肢1

 「メラが」「イドルが」みたいに1拍目が高くて2拍目以降がずっと低くなるのが頭高型です。上の表の「めが」「かたが」「まゆげが」「しんけいが」を見ても分かる通り1拍目が高くて2拍目以降が低くなってます。頭高型に限らず、日本語標準語のアクセントの特徴として1拍目と2拍目は必ず高さが違います。この選択肢は正しいです。

選択肢2

 「いわが」「いえいが」などの平板型は1拍目が低く始まり、あとはずっと高いままです。平板型と聞くとずっと高いのかなと感じるかもしれませんがそれは間違いです。この選択肢は間違い。

選択肢3

 「かくかびんが」「ずみが」などの中高型は最初の拍が低く、2拍目から高くなり、語(助詞を除いた部分)の最後の拍が低く、助詞も低くなります。日本語は1拍目と2拍目の高低は必ず違うので、1拍目が低い中高型は2拍目に必ず高くなり語のどこか中間地点で低くなります。上の表の「ぜが」「えびが」を見ると分かりますが高い部分は1つしかありません。
 そもそも日本語のアクセントは高いところは絶対1か所しかありません。一つの区切りの中で一度低くなったアクセントが再び高くなるなんてことは絶対ありません。ですから「語中で高い部分が複数ある」が間違いです。

選択肢4

 「」「」などの尾高型は、語(助詞を除いた部分)の最後の拍が必ず高く、そのあとの助詞は必ず低いです。言い換えると、後接する助詞が低いアクセントになるのを尾高型と呼んでいるわけです。この選択肢は間違い。

 したがって答えは1です。

問2 東西方言境界線

 各地の方言の類似性に基づいて区分する場合に、東日本と西日本に大きく分ける方法があります。これを東西対立分布なんて呼ぶことがあります。この問題に関連するところでいうとこんな感じ。

 否定助動詞の「~ない」、断定助動詞の「~だ」、存在の「いる」を用いる傾向が見られるのは東日本で、否定助動詞「~ん」、断定助動詞「~じゃ」、存在の「おる」を用いるのは西日本に見られる傾向です。
 選択肢1の「散っとる」は基本的に完了のアスペクトを表します。既に花びらが地面に落ちている様子を指して言います。「散りよる」は今まさに花びらが宙を舞っている状態を指し、進行中のアスペクトを表します。どちらも西日本方言の形式だから東西で対立する例として不適当。

 したがって答えは1です。

問3 周圏分布

 周圏分布型(方言周圏論)とは、特定の語や音、言語形式が、文化的中心から同心円状に伝播していくような分布を示すことです。柳田国男が提唱しました。

 1 太平洋側・日本海側対立 「しもやけ」と「ゆきやけ」など
 2 交互分布 「ベロ」と「舌」など
 3 ???
 4 周圏分布

 選択肢4がその説明をしてます。答えは4です。

問4 方言コンプレックス

 方言コンプレックスとは、自分の使う方言に対する劣等感のことです。
 選択肢2「否定的な感覚を持つ」が劣等感のことを指しています。

 答えは2です。

問5 地域方言の指導

選択肢1

 例えば「なげる」は共通語ではボールなどを遠くに放ること、投擲の意味を持ちますが、一部地域方言では共通語でいう「捨てる」の意で「ごみをなげる」などと言うことがあります。共通語と形式が同じですが意味が異なるものはコミュニケーション上の問題を生じさせる可能性が高いので、レベルに合わせて適切なタイミングで指導すべきです。この選択肢は間違い。

選択肢2

 その地域の方言と言っても、若い人が使うものと年配の型が使う方言はかなり違います。この2つどちらにも対応している教材を作るのってかなり難しいです。この選択肢は間違い。

選択肢3

 「共通語との接触により生まれた中間的な新しい方言」はネオ方言のことで、方言の「けーへん」、標準語の「こない」が混淆して「こーへん」となるのが代表的な例です。このような方言の導入を避ける理由はありません。これも方言なので。

選択肢4

 正しいです。使用頻度が高いものほど早い時期に導入すべき。

 答えは4です。




コメント

コメント一覧 (2件)

  • いつもお世話になっています。
    問1の選択肢4で質問です。
    正解は1で異存はありませんが、先生の「尾高型は、単語そのもの(助詞を除いた部分)の最後の拍が必ず高く、そのあとの助詞は必ず低い」という説明について、
    「花が」なら説明通りですが、「鼻が」の助詞は高くないですか?
    あと「腰が低い」とかどうでしょう。

    • >いわしさん
      ご指摘の「鼻が」は確かに「低高高」で発音しますが、このアクセントは平板型に分類されます。
      いわしさんはよくある勘違いをしていますので、気を付けてください! もう一度定義を確認ください。
       ●尾高型とは、語の最後の拍が高くて、そのあとの助詞が低いアクセントのことです。
       ●平板型は語の2拍目以降から助詞にかけてずっと高いアクセントのことです。
      「尾高」だから助詞まで高いのだろうと思ってしまいますが、語の最後が高いから尾高と呼んでいます。

      ちなみに「腰が低い」は2語からなっていますので、アクセントは通常「腰が」と「低い」の二つに分けます。それぞれ「低高高」と「低高低」です。
      早く話すと「低高高高高低」に聞こえるかもしれませんが… これは「腰が低い」は複合語ではありませんのでアクセントを繋げて表すということは通常しないです。
      ご確認ください!

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