平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説
問1 動詞と格助詞
どの格助詞をとるかは動詞、すなわち述語により決まります。例えば「憧れる」だったら<~が~に>(彼女が彼に憧れる)の格助詞をとるし、「殺す」だったら<~が~を>(彼女が彼を殺す)の格助詞をとります。このように動詞がある格助詞を要求しているのに、その要求を無視して別の格助詞を取っているような誤用を選択肢から探せばいいです。
選択肢1
ここでは「汗が出た」と自動詞「~が出た」を使うべきなのに、他動詞「~を出す」を使っています。これは自他を混同していることによる誤用。下線部Aとは違います。
選択肢2
「花子のところ」と言うべきです。「行く」はそのニ格名詞に場所性が高い名詞を要求します。例えば「学校に行く」だったら「学校」は場所性が高いので「行く」の行き先として適当ですが、「花子に行く」だと「花子」は場所ではなく人なので「行く」の行き先として不適当です。この種の誤りは、動詞「行く」が場所性名詞を要求しているのを無視したことによる誤りで、格助詞に起因する誤りではありません。
選択肢3
不要な「が」が挿入されています。数量表現が動詞を修飾する場合は何も介在させずに直接修飾すればよく、たんに「三つあります」と言えばいいです。この文法を知らないことによる誤りだから、下線部Aとは関係ありません。
選択肢4
「困る」は<~が~に>の格助詞を要求します。たとえば「花子が車の騒音に困っています」など。しかしこの学習者は<~が~を>だと思っているようで、選択肢4のような誤用を産出しています。下線部Aに起因する誤用として適当。これが答え。
答えは4です。
問2 動詞句の名詞化
名詞句「カナダからの帰国」は、「カナダから帰国する」の格助詞「から」の後に「の」を入れることで作られています。このように、格助詞の後ろに「の」を入れて名詞句になるという規則が、別の格助詞にも使えるかどうかをみていきます。
1 ◯彼女と結婚する ⇔ ◯彼女との結婚
2 ◯台風で休校した ⇔ ◯台風での休校
3 ◯学校に到着した ⇔ ✕学校にの到着
4 ◯学校までバスに乗る ⇔ ◯学校までのバス
3だけは名詞句にできません。
答えは3です。
問3 名詞修飾節のガ格成分を表す「の」
格助詞としての「の」の用法は2つ。一つは(1)のように名詞修飾節内の述語の主体を表す用法、もう一つは(2)のように名詞修飾節内の述語の対象を表す用法です。
(1) 彼の寝ている時間
(2) アイスの食べたくなる季節
この「の」は、(1)なら主体の「が」、(2)なら対象の「が」に置き換えられるため、格助詞の用法を持つ「の」と呼ばれます。したがって各選択肢の「の」が「が」に置き換えられるかどうかを見れば、それが格助詞の「の」かどうかが分かります。「の」に置き換えられれば格助詞、置き換えられなければ格助詞以外の何かです。
1 準体助詞の「の」。「こと」や「もの」に言い換えられます。
2 「が」に入れ替えられるから格助詞。
3 「~のです」の「の」は文型の一部。格助詞ではありません。
4 準体助詞の「の」。「こと」や「もの」に言い換えられます。
答えは2です。
問4 複合格助詞に置き換えられるケース
各選択肢に挙げられている格助詞と複合格助詞を同じ文において置き換えてみましょう。それで言い換えられるようだったらそれが答え。
1 ◯法に基づいて裁く ⇔ ✕法に裁く
2 ◯事実に即して報道する ⇔ ✕事実に報道する
3 ◯今日をもって辞める ⇔ ◯今日で辞める
4 ◯過去について語る ⇔ ✕過去で語る
選択肢3だけ言い換えられます。
答えは3です。
問5 時間名詞+に
「明日に、東京に行きます」という文は不要な「に」を「明日」につけた誤用です。時間名詞は「に」がついたりつかなかったりするんですが、「に」がつくかどうかは直示性と関係があります。
明日、東京に行きます。 <「に」が不要>
8時に東京に行きます。 <「に」が必要>
今年の夏、東京に行きます。 <「に」はあってもなくてもいい>
「明日」のように発話時を基準に時間を指定する直示表現は「に」が不要です。この学習者はその規則を知らないため、「明日に」という誤用を犯しています。
つまり答えは3です。
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