平成26年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説
問1 文法の指導
選択肢1
会話だけできればいいのであれば、平仮名や片仮名、漢字を書いたり読んだりする必要はないので、そうした文字を使わず、音だけを表すローマ字を用いて指導することも可能です。例えば「食べる」なら「tabe-ru」、そのナイ形は「tabe-nai」みたいにすれば指導できます。この選択肢は適当。
選択肢2
正しいです。最もよく使われている文型シラバスでは、文型を中心に日本語を学んでいきます。例えば存在を表すのは「AにBがあります」という文型をとり、Aには存在場所、Bには存在主体が入る、というように教えます。「に」はどういう意味? 「が」はどういう意味? みたいに一つひとつ掘り下げて教えるのはあまりしないで、文型の中で助詞の使い方を覚えるような指導をします。だからこの選択肢は適当。
選択肢3
媒介語を使わずに目標言語だけを用いて教える直接法では、教師の発話は全て日本語が用いられますが、文法書は別に母語で書かれたものを使ってもいいです。この選択肢は適当。
選択肢4
学習者のニーズに沿った内容を教えるべき。
答えは4です。
問2 初級と中級の学習項目の違い
選択肢1
(1) りんごが落ちた。 <単文>
(2) 木の上に実っていたりんごが落ちた。 <複文>
(3) りんごが落ちて、頭に当たった。 <重文>
初級では最も単純な文である単文を学びます。初級の後半では重文・複文も扱われます。この選択肢は間違い。
選択肢2
(4) 彼は学生です。 <内容語に関わる文末表現>
(5) 雪が降っているものの、あまり寒くない。 <機能語に関わる接続表現>
逆です。初級では語彙として実質的な意味を持つ「食べる」「りんご」「空」「お茶」などの内容語に関わる表現が中心ですが、中級では文法的な意味を持つ「しかし」「~にとって」「~かもしれない」みたいな機能語に関わる表現が多くなります。
選択肢3
(6) 私は先生に叱られた。 <ヴォイス:受動態>
(7) 彼はご飯を食べている。 <アスペクト:進行中>
初級では「食べます」「食べています」「食べました」みたいな動きの局面を捉えるアスペクト表現は扱いますが、受動態や使役態などのヴォイスは動詞の形態も格関係も複雑になるので難しく、扱われません。この選択肢は「ボイス」と「アスペクト」が逆。
選択肢4
(8) 湿度が高いね。 <命題+ムード>
(9) 午後から雨が降るかもしれない。 <命題+ムード>
初級では命題「湿度が高い」「午後から雨が降る」のような事態の客観的な叙述が扱われますが、中級以降は事態に対する主観的な叙述を表すムード(モダリティ)が学習項目に含まれてきます。主観的な表現であるムードのほうが命題よりも難しいので、初級では命題、中級ではムードという棲み分けは正しい。これが答え。
答えは4です。
問3 文体の違い
選択肢1
「~わよ」は女性的、「~ぞ」は男性的でジェンダーの違いを想起させます。性差による言語変種の対比として適当。
選択肢2
普通体「~だ」と丁寧体「~である」の対比なので文体の違いとして適当。
選択肢3
「来ます」も「いらっしゃいます」もどちらも丁寧体「~ます」が含まれているので、文体の違いはありません。この選択肢は間違い。
選択肢4
「~ちゃった」は「~てしまった」の口語体にあたり、会話でよく用いられます。書き言葉として用いることができるか、話し言葉として用いることができるか、という文体の違いを示せるのでこの選択肢は適当。
答えは3です。
問4 プラスの意味とマイナスの意味
各選択肢の (X) に適当な表現を入れてみて、プラスの内容とマイナスの内容が入るかどうか確認します。
選択肢1
(1)a *すぐに答えてもらわなくては うれしい 。
b すぐに答えてもらわなくては 困る 。
プラスの意味を持つ語「うれしい」は入りません。この選択肢は間違い。
選択肢2
(2)a ストーリーが進めば進むほど 面白くなる 。
b ストーリーが進めば進むほど つまらなくなる 。
プラスの意味を持つ語もマイナスの意味を持つ語も入りました。この選択肢が答え。
選択肢3
(3)a *恵まれた環境で育ったばかりに ストレス耐性がある 。
b 恵まれた環境で育ったばかりに ストレス耐性がない 。
マイナスの意味を持つ語しか入りません。「~ばかりに」は悪い原因を表すので後件にプラスの内容は来ません。この選択肢は間違い。
選択肢4
(4)a *景気が回復したとは言うものの 給料はあがっている 。
b 景気が回復したとは言うものの 給料はあがっていない 。
「~とはいうものの」は逆接表現なので、前件「景気が回復した」というプラスの内容に対して、後件ではマイナスの内容が来ます。したがって(4a)のようなプラスの内容が来ることはできません。この選択肢は間違い。
答えは2です。
問5 誤用の訂正
ここでは「場面に応じた適切性に関わる誤用」と「文法的な正確さに関わる誤用」の2つが出題されているので、まずはそれを整理します。
(1) #ご苦労様でした。 (目上に対して労をねぎらうとき)
(2) *家で猫がいます。
(1)のような文は「場面に応じた適切性に関わる誤用」が含まれます。文法的には正しいですが、場面に合わせた適切な表現を使えていないからです。一方(2)は存在構文において「で」が現れるという文法的な正確さに関わる誤用が見られます。この2つの例文を用いて各選択肢を見てみましょう。
選択肢1
(1)のような場面に応じた適切性に関わる誤用と(2)のような文法的な正確さに関わる誤用は、どちらも常に訂正の対象なので、どっちを早く直すかという優劣はありません。この選択肢は間違い。
選択肢2
(2)のような文法的な正確さに関わる誤用は「正しい」か「正しくない」かの二項的な観点から訂正できますが、(1)のような場面に応じた適切性に関わる誤用は「正しい」か「正しくない」かの2つで指摘するのが難しく、適切か適切でないか、またはその中間かなどのグラデーションを持って訂正されます。例えば(2)において最も適切な表現は「お疲れ様でした」ですが、仮に「部長のすごいところを見せてもらいました」と言ったとしてもよく、その場面で用いることができる表現は複数あります。適切性は0か1で表せないので、場面に応じた適切性は二項的な観点でまとめられません。この選択肢も正しいのでは?
選択肢3
文頭、文中、文末のどこに誤用があるかどうかに関わらず、誤用であれば訂正すべき。この選択肢は間違い。
選択肢4
学習者のニーズから誤用を見た場合と指導方針から誤用を見た場合に分けて考えると…
その学習者が「伝わればいい」「最低限の生活ができればいい」などのニーズを持って言語を学んでいるとすれば、(2)「家で猫がいます」のように言っても意味が伝わるから特に問題がなく、とすると訂正を行わない可能性も出てきます。逆に、もし「自然な日本語を話せるようになりたい」などの正確さを重視するニーズを持つ学習者がいたとすれば、「家に猫がいます」と訂正してあげる必要があるでしょう。
指導方針がコミュニケーション重視であれば「家で猫がいます」みたいな文を言えば一応コミュニケーションは取れるのである程度誤用を見逃す可能性があります。しかし言語の正確さを重視する指導を行うのであればそれを見逃す選択肢はありません。
このようにコミュニケーションをどの程度重視するかによって誤用の扱い方は異なります。この選択肢が答えです。
公式の答えは4です。選択肢2も正しいと思うけど…
コメント
コメント一覧 (5件)
問3
「サラリーマンだ」「サラリーマンである」これはいずれも常体で普通体ではないでしょうか?
丁寧体だと「サラリーマンです」になるような気がするのですが・・
ご教示の程、よろしくお願いします。
>ミワミワさん
確認いたしました。どちらの常体(普通体)ですね!
常体といっても「~だ」と「~である」の2種類ありますので、その文体の違いだと思います。
問2の選択肢1について、
問題文は「複文」と「重文」なので、「じゅうぶん」について
説明していただけるとありがたいです。
>おおさかさん
従属節の一種である等位・並列節は、主節に対する従属度が低いので従属節ではないとする考え方があります。そういった考え方のもとでは「節」という言葉を避けて、その代わりに「重文」と呼ばれているようです。例えば「兄は大卒で、弟は高卒だ」のような例。これは述語が2つあるので複文としてみることができ、その場合は等位・並列節です。しかし従属節と主節の関係が並列的で主節に対して意味的に従属しているとは考えにくいので、そう考えると典型的な従属節ではないですね。だから従属節と区別して「重文」です。
初級では重文のほうが出てきますが、中級では複文が出てきます。
すみません。
「じゅうぶん」 → 「重文」です。