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平成26年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

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平成26年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

問1 誤用の訂正

 【誤用】 日本で生活は楽しかった
 (1) 日本で生活は楽しかった
 (2) 日本で生活するのは楽しかった

 「日本で生活は楽しかった」には少なくとも二つの訂正方法があるそうです。
 そもそも、助詞「は」で取り立てられる要素(「は」の左側の要素)は名詞か名詞句でなければいけないので、「日本で生活」の部分を名詞句化する必要があります。一つの方法は「日本での生活」と「の」をつけて全体を名詞句化する方法、もう一つは「日本で生活する」という節を「の」で名詞句化する方法です。

 これと同じ訂正方法になる誤用を選択肢から見つけます。

選択肢1

 【誤用】 この指輪は母から結婚祝いです。
 (3) この指輪は母から結婚祝いです。

 この誤用例はコピュラ文「AがBです」に関する誤用です。AもBも名詞または名詞句でなければいけませんが、Bにあたる「母から結婚祝い」は名詞句になっていません。訂正するなら「母からの結婚祝い」と「の」でつなげて全体を名詞句にする方法があります。訂正の方法はこれしかないので、この選択肢は間違い。

選択肢2

 【誤用】 事務所に提出が遅くなってしまいました。
 (4) 事務所への提出が遅くなってしまいました。
 (5) 事務所に提出するのが遅くなってしまいました。

 ガ格成分「事務所に提出」が名詞句になっていないので非文になっています。「事務所に提出」を名詞句化する方法は2つ。一つは「事務所への提出」と「の」で接続する方法。このとき「事務所にの提出」とは言えないので、「の」が接続できる「へ」に変える必要があります。もう一つの方法は「事務所に提出するの」と名詞句化して格助詞「が」でとる方法。方法は2つありますが、「に」を「へ」に変える点が「日本で生活は楽しかった」と異なるのでこの選択肢は間違い。

選択肢3

 【誤用】 私はハイキングが中止を知りませんでした。
 (6) 私はハイキング中止を知りませんでした。
 (7) 私はハイキングが中止になることを知りませんでした。

 この誤用例は、述語「知る」が二重の主格をとっています。一つは「は」で示された「私」、もう一つは「が」で示された「ハイキング」です。主格が二つあるので非文。述語「知る」という動作を行うのは紛れもなく「私」なので、「私」は意味的に主格であることは間違いありません。だから「私は」を変更する必要はありません。とすると「ハイキングが」がおかしいということになります。動詞「知る」は〔~が~を〕型をとりますから、この「ハイキング」をヲ格名詞の一部に入れてしまいましょう。
 一つの方法は、「ハイキングの中止」としてこれをヲ格でとる方法(6)。もう一つは「ハイキングが中止になること」という名詞句化された節を作って、これをヲ格でとる方法(7)です。
 この2つの方法は「日本で生活は楽しかった」と異なります。この選択肢は間違い。

選択肢4

 【誤用】 海上まで移動は時間がかかる。
 (8) 海上まで移動は時間がかかる。
 (9) 海上まで移動するのは時間がかかる。

 この誤用例は、助詞「は」で取り立てられた要素は名詞か名詞句でなければいけませんが、「会場まで移動」は名詞句でないので非文になっています。なので「会場まで移動」を名詞句化すれば正用になります。その方法は2つ。一つは「会場までの移動」と「の」を使って全体を名詞句化する方法。もう一つは「会場まで移動する」という節に「の」をつけて名詞句化する方法です。この2つの方法は「日本で生活は楽しかった」を訂正する方法と同じ。

 だから答えは4です。

問2 人称の誤用

選択肢1

 「やめようとしません」は二人称と三人称(話し手以外)の意志を表すときの表現なので、一人称(話し手自身)の意志を表すことはできません。話し手がやめないという意志を持っていることを表したいのなら、一人称の意志を表すのに使える「~つもり」や「~と思う」を使って、「私はこの仕事をやめるつもりはありません」や「私はこの仕事をやめようと思いません」と言ったほうがいい。

選択肢2

 「つもり」の前に接続できるのは動詞の普通体だけで、丁寧体は接続できません。この誤用は丁寧体も接続できると思っているので「やめませんつもりです」と言っているようです。これを訂正するなら「私はこの仕事をやめないつもりです」の1択。この選択肢は間違い。

選択肢3

 「~(よう)としました」は動詞の意向形(食べよう、書こう等)にしか接続できませんが、この誤用はナイ形「やめない」を接続してしまっています。「やめる」の意向形は「やめよう」なので、否定の位置を後ろにおいて「やめようとしませんでした」とすると接続は正しくなります。だから訂正するなら「私はこの仕事をやめようとしませんでした」になりそうすが、これもまた不自然です。「~ようとしませんでした」は二人称や三人称主語に馴染み、一人称主語「私」だとおかしいです。述語をちょっと直して「私はこの仕事をやめようと思いませんでした」などと訂正するのが良いと思います。この選択肢は間違い。

選択肢4

 「やめないようと思います」は否定の位置に誤りが見られます。「~よう」の前にナイ形を置くことはできないので、「やめる」の意向形は「やめよう」に変えて、否定の位置を「思う」の後ろに持ってきます。すると「やめようと思いません」で良い感じ。だから訂正するなら「私はこの仕事をやめようと思いません」。

 答えは1です。

問3 人称の誤用②

 問2の答えから、   ア   には  私はこの仕事をやめようとしません  が入ることが分かっています。この誤用は問2 選択肢1の解説の通り、「~ようとする」は二人称と三人称に使う形式なのに一人称に使っていて、人称に関わる問題が見られます。だから答えは3です。

問4 文章・談話における適切性に関わる誤用

選択肢1

 (1) 毎日食べてばかりいるから太るんだよ。 <否定的な評価>
 (2) ずっとゲームばかりしている。     <否定的な評価>

 「~ばかり」は例文(1)(2)で示す通り、否定的な評価を表す表現です。しかし選択肢1の文は「混んでいる」という事態を「安くておいしいから」と理由付け、話し手は肯定的に捉えているようです。肯定的に捉えているのに否定的評価をくだす「ばかり」を使っているので、文全体の評価が一致していません。これは語の選択に関わる誤用ではなく、下線部Cに該当する誤用ではないかと思われます。
 この選択肢が答え。

選択肢2

 中国語の「了解」は日本語の「理解する」という意味なので、中国語を母語とする日本語学習者は「理解する」という意味を表すときに語彙に関する負の転移を起こして「了解」を使うことがあります。この選択肢の文章はおそらく中国語母語話者の誤用と思われます。「了解」と「理解する」の語の選択に関わる誤用として適当。

選択肢3

 「降りる」ではなく「落ちる」を使うべき。語の選択に関わる誤用として適当。

選択肢4

 「割れる」ではなく「壊れる」を使うべき。語の選択に関わる誤用として適当。

 答えは1です。

問5 文章・談話における適切性に関わる誤用②

選択肢1

 「~と」ではなく「~たら」を使うべき。しいていえば条件節に関わる誤用。

選択肢2

 改まった話をしているので文体も改まったものを使うべきですが、口語でよく用いられる「~とか」が現れています。これは下線部Cの内容に該当します。

選択肢3

 主節「先週は行けなかった」よりも<過去>に「A大学で研究会がある」という従属節の事態が生起しているので、従属節は相対テンスを持ち、タ形にしなければいけません。つまり「あるが」ではなく「あったが」というべき。これはテンスに関わる誤用。

選択肢4

 いくつかの訂正方法があると思うんですが… この学習者は「漢字はとても難しい」と言っているので、漢字はあまり書けないという否定的な捉え方をしていると考えられます。なので「少しだけ書けます」のように肯定的な表現に訂正するのは不適当。「少ししか書けません」「少しだけしか書けません」というべき。「だけしか」には述語に否定が呼応させないといけないのに、呼応させてません。しいていえば呼応に関する誤り。

 よって答えは2です。




コメント

コメント一覧 (1件)

  • ブログ主様、いつも勉強の際に参考にさせていただいています。
    問3についてお聞きしたいのですが、私はこの仕事をやめるつもりはありません。私はこの仕事をやめようと思いません。
    共に人称は『私』一つに関わらず、なぜ、この問題では人称に関わる少なくとも2つの考え方が考えられると言えるのでしょうか?

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