6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

平成26年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題4解説

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平成26年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題4解説

問1 コミュニカティブ・アプローチ

 それまで隆盛を極めたオーディオリンガル・メソッドなどは言語形式を重視していたんですが、これだとコミュニケーション能力が育たないという批判が出てきて、コミュニケーション能力を養成しようとする意味重視のフォーカス・オン・ミーニングの教授法が生まれました。ここで生まれたのがナチュラル・アプローチやコミュニカティブ・アプローチです。

 コミュニカティブ・アプローチ
 それまでのダイレクトメソッドやオーディオリンガル・メソッドなどの非現実的な教授法を否定し、言語教育は現実的な場面を想定した会話の中で行われるべきという考え方から生まれた教授法。オーディオリンガル・メソッドとは異なり、母語話者並みの発音やスピードを求めず、正確さよりもコミュニケーション能力の育成を中心とする。概念・機能シラバスを用いた現実のコミュニケーションと同じような活動を教室で行い、その活動を通して文法や単語を身につけていくことを目標とする。また、インフォメーションギャップ(情報格差)、チョイス(選択権)、フィードバック(反応)の3つの要素がコミュニケーションの本質であるという考え方に基づき、これらの要素を盛り込んだ活動を行うのが特徴的。フォーカス・オン・ミーニング(言語の意味重視)の教授法。

インフォメーション・ギャップ
(information gap)
学習者同士の間にある情報の格差のこと。この情報の格差が学習者間のやりとりを促進する。
「机の上に何がありますか?」「本があります」というやり取りにはインフォメーション・ギャップがない。しかし、そこに衝立などを立てて机の上にあるものを隠し、学習者が質問して当てていくような形式にするとより多くのやり取りが生まれる。インフォメーション・ギャップはコミュニケーションの練習に役立つ。
チョイス/選択権
(choice)
タスクにおいて、どのような表現を用いるか、何を問うか、どう振る舞うかなどを選択する学習者に与えられた自由のこと。ゲームやロールプレイ、シミュレーション、プロジェクトワークのような活動で必要となる要素。
フィードバック(feedack) 相手の反応のこと。コミュニカティブ・アプローチでは、コミュニケーションの本質として活動に盛り込まれる。ゲームやロールプレイ、シミュレーション、プロジェクトワークのような活動で必要となる要素。

 コミュニカティブ・アプローチでは上述したようにコミュニケーション能力を重視しますので、ロールプレイ、ディスカッション、ディベート、シミュレーションなどの学習者間のやり取りが多くなる活動を行います。
 したがって答えは4です。

問2 ファシリテーターの役割

 ディスカッションにおけるファシリテーター(促進者)の役割に関する問題です。ファシリテーターは学習そのものに参加せず、あくまで中立的な立場から活動の支援を行うように立ちまわります。

 1 説明せずに、どのように理解するかは学習者に任せるべきです。
 2 ディベートのやり方についての記述です。ディスカッションは事前に立場は割り振らず、学習者自身の意見に従います。
 3 展開や対応は全て学習者に任せるべきです
 4 中立的な立場からの支援としては適切。話し合いが進むように促すのがファシリテーターです。

 したがって答えは4です。

問3 伝達能力(コミュニカティブ・コンピテンス)

 コミュニケーション能力と言えばカナル&スウェイン (M.Canale & M.Swain)のコミュニカティブ・コンピテンス (communicative competence)。これはコミュニケーションを行うための能力のことで、以下の4つに分けられます。

談話能力 言語を理解し、構成する能力。会話の始め方、その順序、終わり方などのこと。
方略能力
(ストラテジー能力)
コミュニケーションを円滑に行うための能力。相手の言ったことが分からなかったとき、自分の言ったことがうまく伝わらなかったときの対応の仕方のことで、ジェスチャー、言い換えなどがあてはまる。
社会言語能力
(社会言語学的能力)
場面や状況に応じて適切な表現を使用できる能力。
文法能力 語、文法、音声、表記などを正確に使用できる能力。

 下線部Cの学習者は、否定的な意見を婉曲的に述べるんじゃなくて直接言うようです。場面や状況に応じて適切な表現を選ぶことができていないので、社会言語能力が欠如してます。
 したがって答えは2です。

問4 ディベートに適したテーマ

 文章中に、ディベートは「肯定派と否定派の二つのグループに分かれ」とあります。
 答えが複数ある中から参加者で話し合いを行うディスカッションとは違い、ディベートは肯定派と否定派の対立構造があります。

 1 ディスカッションのテーマ(考え方は複数があるし、答えが一つに決まらない)
 2 ディスカッションのテーマ(考え方は複数があるし、答えが一つに決まらない)
 3 ディスカッションのテーマ(考え方は複数があるし、答えが一つに決まらない)
 4 ディベートのテーマ(引き上げ賛成派と反対派)

 したがって答えは4です。

問5 ディベートの特徴

 ディベートは肯定派と否定派に分けられるようなテーマで討論します。参加者は自分の意見とは無関係に、いずれかの立場に振り分けられます。

 1 正しいです。ディベートでは事前準備をするので、こういう時こう言おうみたいな準備ができます。その時に必要な表現をあらかじめ学ぶことができます。
 2 ディベートではあらかじめ立場を決めます。学習者自身の意見は尊重されずに、賛成派か反対派に分けられます。
 3 正しいです。相手の意見に対する反論などから、論理的な思考力が養えます。
 4 正しいです。意見を述べたり反対質問したりする時間が決まっているので、意見は述べやすいです。

 したがって答えは2です。




コメント

コメント一覧 (2件)

  • 初めまして。日本語教育能力検定試験を受ける予定の者です。いつもこちらのサイトを大変参考にさせて頂いています。問4について、質問させていただきたいのですが。答えは4の消費税率を引き上げるべきか、という選択肢のようですが、なぜ2が間違っているのかが理解できません。2も肯定派と否定派に分けられると思うのですが、いかがでしょうか。

  • >Nomaさん
    こんにちは、コメントありがとうございます。問4選択肢2についてのご質問にお答えいたします。

    ディベートは一つのテーマにすべきです。例えば選択肢2のテーマについて、少子化対策を進めることには賛成ですが、観光客を増やしたりするのには反対という人がいたとします。その人は肯定派にも否定派にも分けられなくなってしまいます。このような複数の選択肢があるテーマはディベートよりもディスカッションに向いています。

    それとこれは経験上の話になりますが、このテーマは意見対立がしにくいと思います。少子化対策を進めるべきですか?という問いに対してはほとんどの人が対策すべきと答える気がします。はっきりした対立構造が見いだせない以上、このテーマを授業で採用しないほうがいいです。

    選択肢2が間違いである理由は以上になります。

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