平成26年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3D解説
(16)属性形容詞と感情・感覚形容詞
物事の性質や状態を表すイ形容詞とナ形容詞は、属性形容詞と感情・感覚形容詞に分けられます。属性形容詞事物の客観的な性状を表すもので、感情・感覚形容詞は人の主観的な感情や感覚を表すものを指します。
種類 | 例 |
---|---|
属性形容詞 | 大きい体、体が重い、明るい光、高い場所、小さい手、短い棒、新しい話、黄色い花、長い髪、静かな部屋… |
感情・感覚形容詞 | 私は悲しいです、高所が怖い、脚が痛い、対向車のハイビームがまぶしい、とても眠い、彼が嫌い、彼は良い人だと思う、ちょっと不安だ… |
1 「美しい」は属性形容詞、「うらやましい」は感情・感覚形容詞
2 「懐かしい」は感情・感覚形容詞、「うれしい」も感情・感覚形容詞
3 「楽しい」は感情・感覚形容詞、「冷たい」は文脈判断(後述)
4 「長い」は属性形容詞、「重い」も属性形容詞
属性形容詞か感情・感覚形容詞かを判断するときはわりと文脈判断も必要です。
例えば「冷蔵庫で冷やした水は冷たいものだ」のような文の「冷たい」は、冷蔵庫で冷やした水の一般的な性状を述べるものであって属性形容詞的な使われ方をしていますが、「彼の態度は冷たい」のように言うときの「冷たい」は話し手にとって一時的に冷たいと感じているだけで、彼は常に冷たいという性状を有しているわけではありません。この場合は感情・感覚形容詞的な使われ方をしています。だからこの問題のように単語だけで属性形容詞か感情・感覚形容詞かを判断するのは難しい場合もあります。
答えは1です。
(17)形容詞の人称制限
形容詞類を属性形容詞と感情・感覚形容詞に分類する価値は、それぞれが有する異なる文法規則を記述することにあります。
属性形容詞は事物の客観的な性状を述べるので、その性状を有する主体には人称制限はありませんが、主観的な感情・感覚を表す感情・感覚形容詞はその性質上、そのままの形では一人称主語のみが許されます。
属性形容詞 | 感情・感覚形容詞 | |
---|---|---|
一人称 | 私は美しい | 私は楽しい |
二人称 | 君は美しい | *君は楽しい |
三人称 | 彼女は美しい | *彼女は楽しい |
感情・感覚形容詞がそのままの形で二人称、三人称主語をとる場合は、「~そう」「~みたい」「~がる」などをつける必要があります。
つまりまとめると、属性形容詞には人称制限はないですが、感情・感覚形容詞には人称制限があり、そのままの形だったら一人称主語しかとれない、ということ。
だから答えは4です。
(18)格助詞を伴った形で用いることができるナ形容詞
格助詞を伴った形でも使えるかどうかをればいいので、各選択肢に適当に格助詞をつけてみましょう。ここでは「が」をつけてみます。
1 ◯自由が
2 ◯平等が
3 ✕熱心が
4 ◯元気が
「熱心」だけがつけられませんでした。感覚的には、ナ形容詞の多くは格助詞をつけて名詞として使えると思うんですが、「熱心」は格助詞をつけられないので名詞としての用法がありません。
答えは3です。
(19)補助形容詞
補助形容詞は、イ形容詞連用形、ナ形容詞連用形、動詞のテ形、一部の助動詞の後ろについて文法的な機能を担う形容詞の一種です。「~ない」「~ほしい」「~いい」「~よい」がそう。
(1) 身長はあまり高くない。 <イ形容詞連用形+補助形容詞>
(2) 高くていい。 <イ形容詞連用形+補助形容詞>
(3) 綺麗でない。 <ナ形容詞連用形+補助形容詞>
(4) まだ食べてない。 <動詞テ形+補助形容詞>
(5) 食べてほしい。 <動詞テ形+補助形容詞>
(6) 彼は学生でない。 <助動詞+補助形容詞>
(7) 男らしくない。 <助動詞+補助形容詞>
(8) 食べたくない。 <助動詞+補助形容詞>
これら補助形容詞は、その直前に「は」や「も」などの取り立て助詞が挿入できます。例えば(1)なら「高くはない」、(2)なら「高くてもいい」のようにいえます。この文法規則を使い、各選択肢の形容詞の直前に「は」や「も」が入ればそれは補助形容詞です。
1 帰りたい <希望の助動詞>
2 教えて(は)ほしい <補助形容詞>
3 つらい <形容詞>
4 らしい <伝聞の助動詞>
選択肢2だけ「教えてはほしい」のように「は」を挿入できます。これが補助形容詞の特徴。
答えは2です。
(20)辞書形のままでも異なる品詞の用法を持つイ形容詞
イ形容詞は辞書形のまま、直接後ろに名詞が接続できます。だからすべての選択肢はイ形容詞としての用法があることが分かります。
1 ◯大きい手
2 ◯早い反応
3 ◯すごい人
4 ◯まずい料理
では、名詞ではなくて別の品詞の語を後ろに置けるかどうか見てみましょう。ここで試してみたいのは動詞。
1 ✕大きい動く → 〇大きく動く
2 ✕早い逃げる → 〇早く逃げる
3 ◯すごい食べる → 〇すごく食べる
4 ✕まずい作る → 〇まずく作る
辞書形のままでは「すごい」だけが動詞にも接続できました。イ形容詞が動詞を修飾するためには通常連用形にしなければいけませんが、「すごい」は辞書形でも動詞を修飾できてしまいます。この言語実態は、「すごい」は形はイ形容詞でも、典型的なイ形容詞としての文法規則を持たないことを意味します。この「すごい」はそのままの形(辞書形もしくは連体形)で動詞を修飾できるので、どうも副詞っぽい働きをしていると考えられます。「すごい食べる」なら「食べる」という動きが激しいことを意味したり、その量が多いことを表したりするので様態副詞か程度副詞的な使い方。
つまり「すごい」はイ形容詞だけでなく、副詞としての用法もあります。
答えは3です。
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