平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題12解説
問1 規範的な立場から見て不適当な敬語
選択肢1
「ご苦労様でした」の「でした」をより丁寧な「でございました」に変えた「ご苦労様でございました」は文法的に適切な形ですが、目下の人が目上の人に「ご苦労様」というのは不適切です。通常は目上から目下に使う表現です。こ形は問題ないですが語用論的に不適当なので、この選択肢が答え。
選択肢2
目上の能力を問う、可能形を含んだ表現「話せますか」だったら失礼になる可能性がありますが、ここでは「お話しになる」と可能形を用いていないので大丈夫。
選択肢3
謙譲語Ⅱ「参る」は人以外にも使えます。「タクシー」などの人以外の存在に用いた場合は、聞き手に対して丁重に述べる機能があります。この文は文法的に問題ありませんし、状況的にも適切に使われています。
選択肢4
「とんでもないです」は形も問題ないし、この場面で使うことで謙遜の意味を表せます。
答えは1です。
問2 隣接ペア
選択肢1
スモール・トークとは、会話における本題に入る前に話す、天気について触れたり、相手の近況を伺ったりといった他愛もない会話のことです。挨拶的な役割を果たし、コミュニケーションを円滑にする役割があります。
選択肢2
最小対(ミニマルペア)とは、/kame/(亀)と /dame/(駄目)のように、ある1つの音素の違いによって意味の変わる語のペアのことです。
選択肢3
隣接ペアとは、挨拶に対する挨拶、問いに対する返答、誘いや申し出に対する返答などのお互いにペアとなっている2つの発話のことです。「おはよう」に対する「おはよう」、この2つの発話が隣接ペアになります。これが答え。
選択肢4
ターン・テイキングは会話分析の用語です。二人以上が参加する会話において、話し手が発話を始めてからその話者が交替するまでの発話のひとまとまりをターンと呼びます。会話では誰かが話し終わったら別の人が話し、また別の人が話し… という話者の交替が順番に起きます。この現象のことをターン・テイキング、あるいは話者交替と呼びます。
答えは3です。
問3 丁寧さの指標
選択肢1
目礼(目だけの礼)よりもおじぎの方が丁寧です。これは間違い。
選択肢2
ペンを借りる場面で「ペン」と言うのと、「ペンを貸して」というのと、「ペンを貸していただけませんか」というのを比較するとわかります。基本的には丁寧な言葉ほどモーラ数(拍数)が長めになります。モーラ数が長いかどうかは丁寧さの指標になるので、この選択肢は正しいです。
選択肢3
挨拶を省略するのは丁寧とは言えません。
選択肢4
午後は「こんにちは」を使うべき。
答えは2です。
問4 交感的な機能
ヤコブソンが分類した言語の6機能からの出題。
文章中に挨拶は他者との良好な関係を構築するのに役立つと書かれていますが、このような言語の機能は phatic function と呼ばれています。日本語だと「交感的機能」とか「交話的機能」と呼ばれています。
答えは4です。
問5 挨拶の指導をする際の留意点
選択肢1
極端な例ですが、カスタマーサービスなどでは「お電話ありがとうございます。~~~、カスタマーサービスの〇〇と申します。」みたいな長い挨拶も見られます。初級では「こんにちは」などの初歩的な挨拶だけ触れればいいんですが、上級になってこういう場面に遭遇するような学習者には、長めの挨拶の指導をしたほうがいいでしょう。
選択肢2
日本語の挨拶はただ口で言うだけですけど、諸外国だとハグしたりする挨拶も見られます。日本語の挨拶を繰り返し練習させることは良いですが、日本人に合わせる必要まではありません。その人が持つ文化を尊重すべきです。
選択肢3
正しいです。日本語母語話者では一般にこのような挨拶の形式が取られますよと教えてあげることは必要です。そのうえで学習者に日本の規範に従うのか、母国のやり方を維持するのか、中間的なやり方をするのかを判断させるほうがいいです。日本人の行動様式、習慣、価値観を強要するのは良くありません。
選択肢4
挨拶といっても「こんにちは」というだけではなく、実際はお辞儀をしたり、握手したりなんていう非言語的な動作も伴います。併せて指導するのが好ましいです。
答えは3です。
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