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平成23年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説

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平成23年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説

(1)異なる意味に結び付く異なる形式

 1 「旅行者」と「旅行社」は異なる形式で、異なる意味を持ちます。
 2 「エクスプレス」と「エキスプレス」は異なる形式で、同じ意味を持ちます。
 3 「ストライク」と「ストライキ」は異なる形式で、異なる意味を持ちます。
 4 「びよういん」と「びょういん」は異なる形式で、異なる意味を持ちます。

 したがって答えは2です。

(2)単音

 1 音素
 ある言語において、同じ役割を果たす音の集合のこと。例えば、「桜」を[sakura]や[sakuɾa]、[sakula]、[θakura]、[θsakuɾa]などと発音しても日本語では一様に「桜」を表す。これは日本語では国際音声記号(IPA)で表記される[s]と[θ]は区別されずにいずれもサ行、また[ɾ][r][l]もラ行と認識されるためである。このようなとき、[s][θ]が音素/s/、[ɾ][r][l]が音素/r/に属するという。表記は/ /で示す。現代日本語の音素は、母音音素5個、子音音素15個、モーラ音素3個の合計20~30程度ある。

 2 モーラ/拍 (mora)
 音韻論上、一定の時間的長さをもった音の分節単位のこと。日本語では拗音が伴う2文字と拗音以外の特殊拍を含む仮名1文字が1拍にあたる。例えば、「にほんごきょういく」は8拍となる。

 3 音節
 1つの母音を中心に、その母音単独、あるいはその母音の前後に1個または複数個の子音を伴って構成する音声(群)で、音声の聞こえの一種のまとまりのこと。例えば、「にほんごきょういく」は6音節となる。

 4 形態素 (morpheme)
 意味を担う最小の言語形式のこと。{ }で表される。例えば、逃げ水{nigemizu}は{nige}と{mizu}の2つの形態素からなり、そのいずれもそれ以上分解すると意味をなさなくなる。つまり{nige}も{mizu}も意味を担う最小の単位であるといえる。

 したがって答えは1です。

(3)プロソディー

 プロソディ/韻律 (prosody)とは、音声的な表記から決定することができない音声学的性質のことで、イントネーションやプロミネンス、リズムなどの要素のことを指す。例えば、「あの人、学生じゃない」という表記からは、疑問の「あの人、学生じゃない?」や否定の「あの人、学生じゃない」のような複数の意味が推測されるが、実際に発話される場面でイントネーションやプロミネンスなどが付加されることで意味が一つの決定される。このようなイントネーションやプロミネンス、リズムなどの表記だけからは決定することができない音声学的要素のことを指す。これらにはアクセントを含むこともある。

 1 正しいです。
 2 怒っていれば声を荒げるように、話者の発話態度によって文末イントネーションが変わります。平叙文・疑問文の違いを表す働きだけではありません。
 3 会話の間(ポーズ)は息継ぎのためにも必要ですが、統語機能もあります。例えば「私は泣きながら走る弟を追いかけた」は2つの解釈ができますが、「私は泣きながら、走る弟を追いかけた」や「「私は、泣きながら走る弟を追いかけた」のように、しかるべきところでポーズを入れる事で意味を弁別することができるようになります。
 4 「頭が痛い」の「が」を、高いアクセントで言えば「頭」を強調することになり、低いアクセントで言えば普通の文になります。格助詞の音の高さで情報構造が変わります。

 したがって答えは1です。

(4)音節文字

 1 表意文字
 音声と持った単語とは直接結びつかない文字のこと。顔文字、絵文字、ピクトグラム、アラビア数字など。アラビア数字の「1」などは各言語で別々の音声を持って発音されるが、それは「1」という文字が一つの概念を表しているといえる。

 2 表語文字
 一つひとつの文字が対応した一つの概念を表す文字のこと。漢字や象形文字など。

 3 音素文字
 表音文字のうち、一つの文字で音素を表す文字のこと。アルファベットなど。

 4 音節文字
 表音文字のうち、一つの文字で音節を表す文字のこと。仮名など。
 
 したがって答えは4です。

(5)文字と意味との対応関係が、音声と意味との対応関係とは異なる場合

選択肢1

 「あける」という文字からは、他動詞の「開ける」や自動詞の「明ける」が思い浮かびます。
 「あける」という音声からも、他動詞の「開ける」や自動詞の「明ける」が思い浮かびます。

選択肢2

 「はやい」という文字からは、速度の「速い」と時間の「早い」が思い浮かびます。
 「はやい」という音声からも、速度の「速い」と時間の「早い」が思い浮かびます。

選択肢3

 「はじめ」という文字からは、開始の「始め」と時間の「初め」思い浮かびます。
 「はじめ」という音声からも、開始の「始め」と時間の「初め」思い浮かびます。

 これが下線部D、文字と意味の対応、音声と意味の対応です。意味が違うと漢字表記が変わっていますから、しっかり棲み分けができています。

 ただし選択肢4は違います。
 「たかい」という文字や音声からは「高い」が思い浮かびます。
 しかし、「たかい」は高度に使うときも金額に使うときも同じ表記「高い」を使います。表記の棲み分けができていません。高度の「たかい」と金額の「たかい」は意味が違うので、本来違う感じを使って表したほうが分かりやすいんですが、これは異なる言語の文字体系を借用したものだからこうなっている、ということなんでしょう。

 したがって答えは4です。

 




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