平成23年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説
(1)異なる意味に結び付く異なる形式
問題文はシニフィエとシニフィアンのことを言ってます。基本的には形が違うと意味が違うし、意味が違うと形が違うよ、という考え方です。でもそうではないものもあります。
1 「旅行者」は旅行する人、「旅行社」は旅行会社。異なる形式で、異なる意味を持ちます。
2 「エクスプレス」と「エキスプレス」は異なる形式ですが、「急行」という同じ意味を持ってます。
3 「ストライク」は野球用語、「ストライキ」は労働者の抗議。異なる形式で異なる意味を持ちます。
4 「びよういん」は美容院、「びょういん」は病院。異なる形式で異なる意味を持ちます。
選択肢2だけ形が違うけど意味が同じでした。外国語からの借用なので、その形に揺れがあるせいだと思われます。
答えは2です。
(2)単音
ここでいう「単音」とは、子音や母音を指してます。子音や母音が違うことで意味が変わる例はたくさんあります。例えば…
(1) ガム [gɑmɯ]
(2) ゴム [gomɯ]
「ガム」と「ゴム」は2つ目の音が [ɑ] と [o] で対立する語(ミニマルペア)です。単音の違いが意味の違いを生むとはこういうこと。そしてこの単音は、その言語における音素と密接なかかわりがあります。
選択肢1
これが答え
選択肢2
拍(モーラ)は一定の時間的長さを持った音の単位で、日本語では拗音を除いて仮名1文字が1拍に相当します。仮名1文字のレベルで意味の違うを生む例は、例えば「ムシ」と「ナシ」が考えられますが、前者は [mɯɕi] 、後者は [nɑɕi] で二つの単音が異なります。拍レベルの意味の違いは、単音レベルの意味の違いとは異なるものです。この選択肢は間違い。
選択肢3
一つの母音を中心として、その前後に1個または複数個の子音を伴った音声的なまとまりを音節と言います。ちょっと解説が難しい特殊拍や拗音、二重母音を除くと、日本語は仮名1文字で1音節を形成します。つまり「ムシ」は2音節、「ナシ」も2音節です。この2語は音節「ム」と音節「ナ」で対立しているので、音節レベルの意味の違いに関わる例ですが、選択肢2でも述べたように、この2語は二つの単音が異なるので音節レベルの意味の違いと、単音レベルの意味の違いは全く別物です。この選択肢は間違い。
選択肢4
意味を担う最小の言語形式を形態素と言います。形態素が異なることで意味が違う例は数えきれないほどあって… 例えば「読み切る」と「書き切る」。それぞれ形態素に分解すると、前者は {yomi} と {kiru}、後者は {kaki} と {kiru} です。前部要素の形態素が違うので意味が対立していますが、対立している形態素 {yomi} と {kaki} の中にはそれぞれ4つの単音が含まれています。形態素レベルの意味の対立と単音レベルの意味の対立は別物なのでこの選択肢は間違い。
したがって答えは1です。
(3)プロソディー
プロソディとは、音声的な表記から決定することができない音声学的性質のことで、イントネーションやプロミネンス、リズム、アクセントなどの要素を指します。
選択肢1
正しいです。
日本語のアクセントは語に対して定められた高低の規則です。この高低アクセントは語の意味を弁別する機能があります(→弁別機能)。例えば「はし」と発音すると「橋」で、「はし」と発音すると「箸」になります。「は」が高いか低いか、「し」が高いか低いかによって語の意味が変わります。
また、日本語のアクセントは統語的な構造の違いを表す働きもあります(→統語機能)。詳しいことはリンク先をご覧ください。
この選択肢は正しいです。
選択肢2
怒っていれば声を荒げるように、話者の発話態度によって文末イントネーションが変わります。
平叙文・疑問文の違いを表す働きだけではありません。
選択肢3
会話の間(ポーズ)は息継ぎのためにも必要ですが、統語機能もあります。例えば「私は泣きながら走る弟を追いかけた」は2つの解釈ができますが、「私は泣きながら(ポーズ)走る弟を追いかけた」や「「私は(ポーズ)泣きながら走る弟を追いかけた」のように、しかるべきところでポーズを入れる事で意味を弁別することができるようになります。
選択肢4
「頭が痛い」の「が」を、高いアクセントで言えば「頭」を強調することになり、低いアクセントで言えば強調しない普通の文になります。格助詞の音の高さで情報構造が変わります。
答えは1です。
(4)音節文字
1 顔文字、絵文字、ピクトグラム、アラビア数字など。
2 一つひとつの文字が対応した一つの概念を表す文字のこと。漢字や象形文字など。
3 表音文字のうち、一つの文字で音素を表す文字のこと。アルファベットなど。
4 表音文字のうち、一つの文字で音節を表す文字のこと。仮名など。
「ひらがな」と「カタカナ」は音節文字。答えは4です。
(5)文字と意味との対応関係が、音声と意味との対応関係とは異なる場合
選択肢1
「窓をあける」は「開ける」と書き、「夜があける」は「明ける」と書きます。
同じ「あける」ですが意味が違い、異なる漢字表記が当てられています。
選択肢2
「朝はやい」は「早い」で、「はやい車」は「速い」と書きます。
同じ「はやい」ですが意味が違い、異なる漢字表記が当てられています。
選択肢3
「はじめ」は「料理をしはじめる」は「始め」と書き、「はじめに挨拶する」は「初め」と書きます。
同じ「はじめ」ですが、前者は”開始”、後者は”先に”で意味が違い、異なる漢字表記が当てられています。
選択肢4
「たかい位置」のように高度を表すときでも、「たかい商品」のように金額を表すときでも「高い」という漢字を使います。
意味が違うのに同じ漢字が当てられています。これが答え。
答えは4です。
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