日本語Q&A
質問者さん(日本)
なぜですか?
管理人
それぞれ他動詞の定義が違いますから、言語によって自他の分類は当然異なってきます。
日本語における他動詞の範囲
動作主による意図的な動作が対象を変化させる度合いのことを他動性(transitivity)と言います。「私が彼を殺す」の「殺す」は対象に変化を与えていて他動性がとっても高い動詞です。「私が紙を切る」の「切る」もそうですね。このように、日本語において他動性が高いと思われる動詞は、働きかける対象を「を」でとる、という共通点(文法)が存在します。そこで昔の国語学者はこの共通点を重視し、「〔主体〕が〔対象〕を〔動詞〕」の形をとる動詞を他動詞と呼ぶことにしました。日本語においてこの形になる動詞は他動詞に分類されます。日本語においては、一見して他動性があまり高くない「見る」「思い出す」などもこの形をとるので他動詞として扱われます。
(1) 私が彼を殺す。 (他動性が高い、典型的な他動詞)
(2) 私が紙を切る。 (他動性が高い、典型的な他動詞)
(3) 私が音楽を聴く。 (他動性は低いけど他動詞)
(4) 私があなたを思い出す。 (他動性は低いけど他動詞)
(5) 私が彼と結婚する。 (「〔主体〕が〔対象〕を〔動詞〕」の形じゃないから自動詞)
英語における他動詞の範囲
英語でも同じような手順を踏んで他動詞の定義を決定しています。例えば、”I will kill him.” や “I will cut the paper.” は、”kill”(殺す)、”cut”(切る)などやっぱり他動性は高いです。英語においては、他動性が高いと思われる動詞は動詞のすぐ後ろに目的語となる名詞句が来る、という共通点(文法)が存在します。そこで英語学の研究者は「VO」型をとる動詞を他動詞と呼ぼう!みたいに定義しました。
(6) I will kill him. (VO型だから、”kill” は他動詞)
私が彼を殺す。
(7) I will cut the paper. (VO型だから、”cut” 他動詞)
私が紙を切る。
(8) I will listen to music. (V to O型だから “listen” は自動詞)
私が音楽を聴く。
(9) I will remember you. (VO型だから、”remenber” は他動詞)
私があなたを思い出す。
(10) I will marry him. (VO型だから “marry” は他動詞)
私が彼と結婚する。
”listen” はその後ろに “to” を介して目的語がきます。VO型じゃないから自動詞です。
このように構文上の特徴から他動詞、自動詞を定義するのが一般的です。
言語によって他動詞の範囲は違う
興味深いのは、言語が違うと他動詞の範囲も違ってくること。
「殺す」と “kill” 、「切る」と “cut” 、「思い出す」と “remember” はどちらの言語でも他動詞に分類されますが、「聴く」は日本語では他動詞なのに英語では自動詞、「結婚する」は日本語では自動詞だけど英語では他動詞です。こんなことが起きます。
なぜこうなるかというと、昔々の日本人が「聴く」という動作の他動性が高いと感じたから「~が~を聴く」という文型で用いたから、「結婚する」は他動性が低いと感じたから「~が~と結婚する」という文型で用いたから、というほかありません。英語ではたまたまその逆だったというだけ。確かに「聴く」や「結婚する」は、「殺す」や「切る」に比べて他動性は高くないし、かといって「降る」「光る」のような典型的な自動詞と同じとも言いがたい。他動詞と自動詞の中間に位置しそうだから言語によって自他の分類が分かれるのもうなずけます。全て他動詞か自動詞かに綺麗に二分できるわけではなく、実際はグラデーションがあります。
「離れる」と “Leave”
それで最初の問題ですが、”Leave” はこのように「VO」型をとるから他動詞です。
(11) I leave the house. (VO型だから “leave” は他動詞)
(12) 私は家を出る。
じゃあ日本語の「離れる」や「出る」は…?
(12)を見ると「〔主体〕が〔対象〕を〔動詞〕」の形になっているから他動詞だ! と思いきや、これは違います。「出る」の対象は「家」ではありません。「出る」という移動の出発点が「家」です。他動詞文と同じ文型をしていますが、ヲ格名詞は対象ではなく出発点でした。紛らわしいというべきか、日本語では他動詞の対象を「を」で表しますが、移動の出発点も「を」で表し、移動の経路も「を」で表すのです。
(13) 窓を壊す。 (「壊す」対象が「窓) → 他動詞
(14) 家を出る。 (「出る」出発点が「家」) → 自動詞
(15) 橋を渡る。 (「渡る」経路が「橋」) → 自動詞
惑わされてはいけません。「出る」や「離れる」は対象の「を」をとらないから自動詞です。

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