ロールプレイ(role-play)
ロールプレイ(role-play)とは、設定された状況の中で与えられた役割(ロール)を担い、何らかのタスクを遂行する活動のことです。学習者は与えられた役割を果たすために様々な言語行動が求められますが、何を言うか、どのように振る舞うかは学習者自身が決められ、非常に自由で創造的な教室活動になります。状況と役割さえうまく設定できれば教室で疑似的な現実場面を再現することができ、場面に応じた表現を産出させることができます。ただし、人前で話すのが苦手だったり芝居要素を寒がったりして盛り上がりにくい学習者もいるので、教師はその点にも注意しなければいけません。
やり方
役割(ロール)が書かれたカード(ロールカード)を参加者に配り、カードに書かれた指示にしたがって会話をさせます。カードの指示は学習者が理解可能なら目標言語で、理解が難しいようなら学習者の母語などの媒介語で書いてもいいです。役割を理解できなければロールプレイはできません。カードの指示が伝わるかどうかはとても重要です。
ロールカードの例
あなたは会社員です。来週の木曜日の夜か、金曜日の夜に部下と食事に行き、仕事のことについてゆっくり話したいです。そのことを部下に伝えて、居酒屋に行くことについて相談してください。 | あなたは会社員です。上司が一緒にご飯を食べたいと言ってきました。あなたは本当は嫌ですが、しょうがないので行くことにします。できるだけ早く帰るために、短い時間で食べられるご飯を提案してください。 |
ロールカードにはその授業で扱う学習項目が使われるような会話を促す内容が書かれている必要があります。上記は「~はどうですか」「~でもいいです」「~は難しいです」などの提案、許可、拒否を使わせるロールカードの例です。
文型先行型ロールプレイとタスク先行型ロールプレイ
山内(1999)は学習項目を導入してから行う従来型のロールプレイを「文型先行型ロールプレイ」、ロールプレイをしてから学習項目を導入するロールプレイを「タスク先行型ロールプレイ」と区別しました。
文型先行型ロールプレイ :①文型や語の導入→②練習(ドリル)→③ロールプレイ
タスク先行型ロールプレイ:①ロールプレイ →②文型や語の導入→③練習(ドリル)
タスク先行型ロールプレイにおいてタスクを先行させる目的は「やや難し目のロールプレイを課すことによって言語的挫折(linguistic breakdown)を起こさせ」(山内 1999: 108)ることにあります。タスクを達成するために言わなければいけないことが目標言語で言えないような言語的挫折を経験すると、それを克服するための表現に対する学習意欲が高まり、のちの文型や語の導入の段階でより有意義な学習が実現できます。逆に、先行させたタスクで言語的挫折を経験させられなければその後に行われる文型や語の導入は意味をなしません。簡単すぎず難しすぎず、教師は学習者のレベルよりもやや難しいタスクを課す必要があります。
メリットとデメリット
文型先行型ロールプレイとタスク先行型ロールプレイを比較したときのメリット、デメリットを以下にまとめます。
文型先行型ロールプレイ | タスク先行型ロールプレイ | |
---|---|---|
ロールプレイの自由度 | 低い | 高い |
学習者の不安 | 軽減できる | 高まる |
初級レベルで | できる | 難しい |
タスクの難易度 | 易しい | 難しい |
文型先行型は先に導入した学習項目を使ってタスクを達成しようとするので自由度はタスク先行型よりも低くなりますが、全体の難易度は下がるのでどのように言えばいいか分からないという不安を払拭させることができます。表現に困りにくいという性質上、うまくやれば初級でもできるのが文型先行型の特徴です。
参考文献
田中望(1988)『日本語教育の方法―コース・デザインの実際』151-153頁.大修館書店
山内博之(1999)「タスク先行型ロールプレイの実践方法について」『岡山大学文学部紀要』第32号.107-116頁,岡山大学文学部
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