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平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題13解説

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平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題13解説

問1 日本語能力が高くない外国人に日本語母語話者が話す場合の特徴

 「日本語能力が高くない外国人に日本語母語話者が話す」とは、フォリナートークのことを言ってます。

選択肢1

 フォリナートークでは格助詞はよく省略されます。後述のアコモデーション理論の収束では、相手の日本語レベルが高くなくて話し方がつたないと、できるだけその話し方に近づけようとします。その結果がフォリナートークです。友達に話すような、子どもに話すような話し方になりやすいので、格助詞は省略されやすいです。

選択肢2

 相手が分かりやすいような言葉遣いになるので、単純な文構造の発話が多くなります。この選択肢は間違いです。

選択肢3

 非母語話者に対する話し方は簡略化されやすいです。「〇〇さんの趣味は何ですか?」よりも「〇〇さんの趣味は(何)?」のように普通体を用いることが多くなります。

選択肢4

 相手が英語圏なら外来語のほうが伝わりやすく、漢字圏なら漢字が伝わりやすいので、外来語が一様に回避されやすいということはありません。

 したがって答えは3です。
 コメントでのご協力ありがとうございました!

問2 アコモデーション理論

 1 バイリンガリズム
 二言語を併用することです。

 2 ピジン化仮説
 ピジン化仮説という言葉自体はあるようですが、ちょっとよく分からないので後回し…
 ちなみにピジンとは、異なる言語を話す者同士が意思疎通するため、お互いの言語の要素を組み合わせて作られた接触言語のことです。お互い正しい意思疎通をするために文法が単純化されたり、一つの単語が多義的に用いられたり、発音も簡略化される傾向があります。そしてその単純化、簡略化される過程をピジン化(言語の単純化)と呼びます。

 3 アコモデーション理論
 ジャイルズ (Giles)によって提唱された、相手によって自分の話し方を変える現象を説明するための理論です。相手の言語能力によって話し方を変えるフォリナートーク、赤ちゃんに対する話し方のベビートーク、世代間のギャップを無くそうとわざと若者言葉を使って年下の人々に受け入れられようとすることもアコモデーション理論で説明できます。

 4 ダイグロシア (diglossia)
 ある社会において高変種と低変種の二つの言語変種が存在し、それぞれが場面や状況によって使い分けられている状態のことです。高変種とはいわゆる公的な場面で使用される言語形式のことで、H(High)変種とも呼ばれます。低変種は口語や方言において現れる、より私的な場面で使用される言語形式のことで、L(Low)変種とも呼ばれます。

 文章中にある「相手に応じた話し方の調整」というのがアコモデーション理論のことです。アコモデーション理論では相手によって話し方が変わることを、コンバージェンスとダイバージェンスで説明しました。
 したがって答えは3です。

問3 言語的収束(コンバージェンス)

 アコモデーション理論には、言語的収束(コンバージェンス)と言語的分岐(ダイバージェンス)という概念があります。

言語的収束
コンバージェンス
自分の話し方を相手の話し方にできるだけ近付けていくこと。上司が部下に受け入れられるために若者言葉を使ったりすることなどがこれにあたる。
言語的分岐
ダイバージェンス
自分の話し方を相手の話し方からできるだけ離していくこと。関西圏でも共通語を使おうとすることなどがこれにあたる。

 この2つの考え方で、相手に応じて話し方が変わることを説明するのがアコモデーション理論です。例えば、母語話者が非母語話者に対して用いるフォリナートークは、相手が分かりやすいようにゆっくり話したり、難しい語彙や表現が回避されたり、はっきり発音されたりする特徴があります。これは相手の話し方にできるだけ近づようとする(コンバージェンス)ために生じた話し方の変化と考えます。

 1 相手に良いイメージを与え、距離を縮めようとするのは言語的収束です。
 2 距離を縮め、コミュニケーションを効率的にしようとするのは言語的収束です。例えば大の大人が子供に話しかけるときに丁寧で敬語を使ったとしたら子供はたぶん分かりにくい。相手の話し方に合わせて話すことでコミュニケーションは効率的になります。
 3 共感によって親密な関係を築こうとするのは言語的収束です。
 4 言語的収束は自分が相手の話し方に合わせることであって、相手が自分の話し方に合わせることではありません。

 選択肢4だけ考え方が違います。
 したがって答えは4です。

問4 ティーチャートーク

 ティーチャートークとは、教師が学習者に対してする話し方のことです。ゆっくりはっきり話したり、言葉を選んだりします。相手のレベルによって話し方は変わります。

選択肢1

 この選択肢は逆です! 指示質問(答えを知らない質問)を多くしたほうが単調になりません。指示質問はインフォメーションギャップが生まれますので、コミュニケーションが活性化します。

提示質問
ディスプレイ・クエスチョン
質問者が答えを知りながら尋ねる質問形式のこと。
指示質問
レファレンシャル・クエスチョン
質問者が答えを知らない状態で尋ねる質問形式のこと。

選択肢2

 「分かりましたか」と質問して「分かりました」と学習者が答えたとしても、本当に分かっているかどうかは分からないです。反射的に「分かりました」と言っているだけかもしれませんし、「分かりません」ということが恥ずかしかったりして遠慮してるかもしれません。

選択肢3

 正しいです。学習者が知っている語彙や文型ばっかり使って話すのではなく、未習の語彙や文型を少し入れることで学習者に推測させることができます。その中で「これはどういう意味ですか?」とか「もっと詳しく説明してください」みたいな意味交渉を増やすことができ、学習者のレベルアップにつながります。
 ここでいう意味交渉とは、以下の3つです。

明確化要求 相手の発話が曖昧で理解できないときに、発言を明確にするよう要求すること。
確認チェック 相手の発話を自分が正しく理解しているかどうか確認すること。
理解チェック 自分の発話を相手が正しく理解しているかどうか確認すること。

選択肢4

 わざと強調して発音するのはよくないです。それが正しいアクセントと思ってマネしちゃうかもしれません。ティーチャートークはゆっくりはっきり話すことが多いですが、不要な強調などはしないで自然に話すべきです。

 したがって答えは3です。

問5 言語的分岐(ダイバージェンス)

言語的収束
コンバージェンス
自分の話し方を相手の話し方にできるだけ近付けていくこと。上司が部下に受け入れられるために若者言葉を使ったりすることなどがこれにあたる。
言語的分岐
ダイバージェンス
自分の話し方を相手の話し方からできるだけ離していくこと。関西圏でも共通語を使おうとすることなどがこれにあたる。

 1 相手の話し方に近づけているので、言語的収束(コンバージェンス)です。
 2 日本人に日本語で話しかけるのは言語的収束(コンバージェンス)です。つたない日本語でも距離を縮めようとしています。
 3 馴染んでいることを示すためにその地域の言葉を使うということは、その地域の人々に近づこうとしているので言語的収束(コンバージェンス)です。
 4 相手の話し方に近づけていません。相手との距離を取るためにわざと外国人なまりで話をしています。これは言語的分岐(ダイバージェンス)です。

 したがって答えは4です。




コメント

コメント一覧 (3件)

  • 問題13の問1について質問なのですが、選択肢1の「格助詞の省略が回避されやすい」ということは「格助詞の省略がされにくい=格助詞は省略しない」とも解釈できるので、正解になりませんか?

  • >akariさん
    確認しました。
    解説は逆になっていますね…
    「省略が回避されやすい」は「省略されにくい」で、これが間違い。つまり「省略されることが多い」が正しいということですか。修正しておきます!ご指摘ありがとうございました。

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