異音(allophone)
異音(allophone)とは、ある同一の音素に含まれる異なる複数の音声のことです。例えば、「あめ」を [ɑme] を発音しても、[ʌme] や [æme] などと発音しても日本語母語話者は「雨」と聞き取ります。このとき [ɑ] [ʌ] [æ] はその意味を弁別するのに役立たないため、同一の音素 /ɑ/ に含まれていると判定できます。図示すると以下のようになります。
このように、複数の音声が同一の音素に含まれるとき、それぞれの音声を異音と呼びます。この例であれば、[ɑ] [ʌ] [æ] は音素 /ɑ/ に含まれる、と言ったりします。
他の例も挙げます。例えば、ハ行。
日本語母語話者にとっての五十音図は母音 a,i,u,e,o の前に子音 k,s,t,n… などがついた構成として認識されています。「はひふへほ」は母音 a,i,u,e,o に子音 h が付けられている、というように。しかし、音声学的に見ればハ行の子音には [h] [ç] [ɸ] の3種類あります。
仮名 | は | ひ | ふ | へ | ほ |
---|---|---|---|---|---|
IPA | [hɑ] | [çi] | [ɸɯ] | [he] | [ho] |
ハ行は実際に異なる子音から構成されていますが、日本語母語話者にとっては同じと認識されていることから、これらの子音は一般にハ行子音の音素 /h/ としてまとめられます。そして、ハ行子音の音素 /h/ に含まれる [h] [ç] [ɸ] はそれぞれがハ行子音の音素 /h/ の異音にあたります。
音素は / / で囲んで表記しますが、正確な発音が書かれる必要がある異音はIPAの表記方法にならい [ ] を用いることが一般的です。
参考文献
菅原真理子(2014)『朝倉日英対照言語学シリーズ3 音韻論』7-9頁.朝倉出版
服部義弘(2012)『朝倉日英対照言語学シリーズ 2 音声学』1-2頁.朝倉書店
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