6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

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平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

問1 ラポール (rapport)

 ラポールとは、二人の間にある相互信頼の関係のことです。

 1 ラポールのこと
 2 ん? 分からない。
 3 ソーシャルディスタンスのこと
 4 ノンバーバル・コミュニケーションのこと

 信頼関係ときたらラポールです!
 したがって答えは1です。

問2 傾聴

 相手の話をしっかり丁寧に耳を傾けることを傾聴と言います。自分が聞きたいことを聞くんじゃなくて、相手が話したいことを真摯に聴き、理解・共感することが中心です。カウンセリングなどで用いる聞き方です。

 1 話を引き出すのではなく、相手が話したいことを聴くのが傾聴です。
 2 正しいです。傾聴は「話を聞く」というより「耳を傾ける」です。
 3 正しいです。自分自身を客観的に見られるように誘導するというか、カウンセリングするのが良いです。
 4 正しいです。カウンセラーが納得する結論じゃなくて、相談者が納得いく結論にいくようなサポートが好ましいです。

 したがって答えは1です。

問3 周辺化

 文化変容(文化受容態度)とは、異なった文化を持つ人が別の文化に入った場合、入った人と受け入れる側がどのように対応するかによってその人を取り巻く社会、環境が変容するという考え方のことです。ベリーが提唱しました。その人を取り巻く社会、環境の在り方を統合、離脱(分離)、同化、周辺化(境界化)の4つに分類しています!

統合 自文化と滞在国の文化が共存している状態
同化 自文化を喪失し、滞在国の文化に馴染んでいる状態
離脱/分離 自文化を保持し、滞在国の文化に馴染めていない状態
周辺化/境界化 自文化を喪失し、滞在国の文化にも馴染めずにいる状態

 それぞれ固定的なものではなく常に変化するものとされ、そのうち「統合」は最も望ましいタイプとされています。

選択肢1

 「自分化と留学先の文化に関心を持ち」が、自文化の保持と周辺との関係が良いことを表しています。これは「統合」です。

選択肢2

 自文化を喪失しつつも、周囲との関係が良い「同化」です。

選択肢3

 自文化を喪失し、周囲との関係も悪い「周辺化(境界化)」です。

選択肢4

 自文化を保持し、周囲との関係が悪いのは「離脱(分離)」にあたります。

 したがって答えは3です。

問4 文化相対主義

 文化の優劣に対する考え方は2つあります。

文化相対主義
文化相対論
特定の文化は他の文化の尺度では測れないとし、文化には多様性があることを認め、それぞれの文化の間に優劣はないとする立場のこと。ボアズ (Boas)によって提唱された考え方。
自文化中心主義 自文化が最も優れているという考え方で、自文化を絶対的基準として他文化を推し量ろうとする立場のこと。

 1 自文化中心主義の考え方
 2 自文化中心主義の考え方
 3 文化相対主義の考え方
 4 この考え方はありそうですが、どんな名前がついてるか分かりません… たぶん「〇〇仮説」だと思うんですけど。もし「母語が文化や行動、思考を規定する」だったらサピア・ウォーフの仮説です。

 したがって答えは3です。

問5 高コンテクスト文化

 文化を分類する際、高コンテクスト文化と低コンテクスト文化という考え方があります。

高コンテクスト文化 実際の言葉によりもその裏にある意味を察する文化のこと。重要な情報でも言葉に表わさず裏に隠して、相手に汲み取らせたり曖昧な言葉を使って表現する。世間一般の共通認識に基づいて判断したり、感情的に意思決定がなされる文化であり、いわゆる「空気を読む」ことが求められる。実際に発話された言葉は、会話の参与者の関係性、表情、状況、それまでの文脈などから判断して意味内容が変わり、特に日本はこの傾向がとても強い。
低コンテクスト文化 高コンテクスト文化とは逆に伝えたいことは全て言葉で説明する文化のこと。言葉以外や雰囲気で気持ちや情報を伝えることはせず、全て自らが発した言葉で表現する。この傾向が強いのはドイツ語圏とされており、またアメリカやカナダなどの歴史的に移民で成り立っている国にも多いとされてる。移民が多い国ではさまざまな考え方を持つ人々が集まっているため、文化ごとに異なる気持ちを汲み取るのではなく、分かりやすい言葉で伝えることが重視される。

選択肢1

 「察し」は高コンテクスト文化の典型的な例です。

選択肢2

 「人々の移動が多く」は移民のことを指しています。「結びつきが弱い」は移民が多い国ではいろんな人が集まっているので、お互いの距離が遠いことを指しています。
 移民が多い国はお互い直接言わないとしっかり伝わらないということがあるので、低コンテクスト文化になる傾向があります。

選択肢3

 共通の価値観や前提の共有が少ないのは低コンテクスト文化の特徴です。そのためはっきりと言葉にしなければ伝わりにくくなります。

選択肢4

 高コンテクストと低コンテクストに優劣はありません。いずれの場合も正常にコミュニケーションが取れます。

 したがって答えは1です。

 




コメント

コメント一覧 (2件)

  •  初めまして、学習者です。いつもお世話になっております。心から感謝しております。
     自文化を喪失し、滞在国の文化に馴染んでいる状態である「同化」、自文化を自文化を喪失し、滞在国の文化に馴染んでいる状態である「分離」。というのが あって、教えていただければと思いますが。
     ありがとうございます。

  • >馬文さん
    ご指摘ありがとうございます!
    ベリーの文化変容モデルの説明について見直してみたところ、「分離(離脱)」の説明に確かに誤りがありました。

    以前の内容は「自文化を喪失し、滞在国の文化に馴染んでいる状態である『分離』」でしたが、正しくは「自文化を保持し、滞在国の文化に馴染めていない状態である『分離』」です。

    混乱させてしまい大変申し訳ありませんでした。
    当サイトのベリーの文化変容モデルに関する解説は全て修正済みです。これからもよろしくお願いします!

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