平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説
問1 ラポール (rapport)
カウンセリングにおいて、クライアントとカウンセラーの間にある信頼関係はラポールと言います。
答えは1です。
問2 傾聴
末武(2018: 182)によると、傾聴とは「クライアントの言語的および非言語的な表現やその存在全体に積極的に関心を寄せ、その語りや感情に耳を傾け、クライアントが自由にそして主体的に語ることができるように促進すること」です。簡単にいうと相手の全てに注意を払ってしっかり話に耳を傾けること。
選択肢1の内容だけ間違っています。話を誘導して引き出すのではなく、相手が話したいことを聴くのが傾聴。
答えは1です。
《参考文献》
末武康弘(2018)『心理学的支援法-カウンセリングと心理療法の基礎』182頁.誠信書房
問3 周辺化
ベリーが提唱した文化受容態度は統合、同化、分離、周辺化の4つに分類されます。詳しくはリンク先をご覧ください。
このうち周辺化とは、自文化を守ることも異文化を取り入れることもしないときにとるストラテジーで、敵ばかりで味方がいなく、疎外感や不安感を感じるような状態を指します。
選択肢1
「自分化と留学先の文化に関心を持ち」が、自文化の保持と周辺との関係が良いことを表しています。これは「統合」です。
選択肢2
自文化を喪失しつつも、周囲との関係が良い「同化」です。
選択肢3
自文化を喪失し、周囲との関係も悪い「周辺化」です。
選択肢4
自文化を保持し、周囲との関係が悪いのは「分離」にあたります。
答えは3です。
問4 文化相対主義
文化相対主義とは、特定の文化は他の文化の尺度では測れないとし、文化には多様性があることを認め、それぞれの文化の間に優劣はないとする立場のことです。
1 自文化中心主義の考え方
2 自文化中心主義の考え方
3 文化相対主義の考え方
4 ???
答えは3です。
問5 高コンテクスト文化
文化を分類する際、高コンテクスト文化と低コンテクスト文化という考え方があります。
高コンテクスト文化 | 実際の言葉によりもその裏にある意味を察する文化のこと。重要な情報でも言葉に表わさず裏に隠して、相手に汲み取らせたり曖昧な言葉を使って表現する。世間一般の共通認識に基づいて判断したり、感情的に意思決定がなされる文化であり、いわゆる「空気を読む」ことが求められる。実際に発話された言葉は、会話の参与者の関係性、表情、状況、それまでの文脈などから判断して意味内容が変わり、特に日本はこの傾向がとても強い。 |
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低コンテクスト文化 | 高コンテクスト文化とは逆に伝えたいことは全て言葉で説明する文化のこと。言葉以外や雰囲気で気持ちや情報を伝えることはせず、全て自らが発した言葉で表現する。この傾向が強いのはドイツ語圏とされており、またアメリカやカナダなどの歴史的に移民で成り立っている国にも多いとされてる。移民が多い国ではさまざまな考え方を持つ人々が集まっているため、文化ごとに異なる気持ちを汲み取るのではなく、分かりやすい言葉で伝えることが重視される。 |
選択肢1
「察し」は高コンテクスト文化の典型的な例です。
選択肢2
「人々の移動が多く」は移民のことを指しています。「結びつきが弱い」は移民が多い国ではいろんな人が集まっているので、お互いの距離が遠いことを指しています。
移民が多い国はお互い直接言わないとしっかり伝わらないということがあるので、低コンテクスト文化になる傾向があります。
選択肢3
共通の価値観や前提の共有が少ないのは低コンテクスト文化の特徴です。そのためはっきりと言葉にしなければ伝わりにくくなります。
選択肢4
高コンテクストと低コンテクストに優劣はありません。いずれの場合も正常にコミュニケーションが取れます。
したがって答えは1です。
コメント
コメント一覧 (2件)
初めまして、学習者です。いつもお世話になっております。心から感謝しております。
自文化を喪失し、滞在国の文化に馴染んでいる状態である「同化」、自文化を自文化を喪失し、滞在国の文化に馴染んでいる状態である「分離」。というのが あって、教えていただければと思いますが。
ありがとうございます。
>馬文さん
ご指摘ありがとうございます!
ベリーの文化変容モデルの説明について見直してみたところ、「分離(離脱)」の説明に確かに誤りがありました。
以前の内容は「自文化を喪失し、滞在国の文化に馴染んでいる状態である『分離』」でしたが、正しくは「自文化を保持し、滞在国の文化に馴染めていない状態である『分離』」です。
混乱させてしまい大変申し訳ありませんでした。
当サイトのベリーの文化変容モデルに関する解説は全て修正済みです。これからもよろしくお願いします!