6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

「見える」「聞こえる」辞書形? 可能形?

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日本語Q&A

質問者さん
(日本)

「見える」「聞こえる」は辞書形だと勉強しましたが、「見る」「聞く」の可能形のように感じます。
なぜ辞書形だと言われているんですか?

管理人

一段動詞の可能形は語幹に -rare(ru) あるいは -re(ru) をつけます。この規則に照らすと「(一)見る」の可能形は「見られる」あるいは「見れる」となります。「見える」は「見る」を活用して作った形ではありませんし、「見る」の可能形ではありません。五段動詞の可能形は語幹に -e(ru) をつけます。この規則に照らすと「(五)聞く」の可能形は「聞ける」です。「聞こえる」は「聞く」と活用の面で関係ありません。

つまり、「見える」「聞こえる」は「見る」「聞く」と無関係

「見える」「聞こえる」は辞書形で可能の意味を持つ

 一段動詞の可能形は語幹に -rare(ru) あるいは -re(ru) を、五段動詞の可能形は語幹に -e(ru) をつけます。これが可能を表す形態素です。この文法に沿って「見る」と「聞く」を可能形にしてみると(3)(6)のように「見れる」「聞ける」となります。すなわち、「見れる」は「見る」の可能形、「聞ける」は「聞く」の可能形ということです。

 (1) (一)寝る  → 寝られる(ne-rare-ru)/寝れる(ne-re-ru)
 (2) (一)食べる → 食べられる(tabe-rare-ru)/食べれる(tabe-re-ru)
 (3) (一)見る  → 見られる(mi-rare-ru)/見れる(mi-re-ru)
 (4) (五)書く  → 書ける(kak-e-ru)
 (5) (五)結ぶ  → 結べる(musub-e-ru)
 (6) (五)聞く  → 聞ける(kik-e-ru)

 では、「見える」「聞こえる」はどうかというと…
 「見える」も「聞こえる」も確かに可能の意味が感じられるので「見る」「聞く」の可能形だと思ってしまうのは理解できます。しかし、「見える」が「(一)見る」の可能形だとすれば、語幹 mi に可能を表す形態素 -rare(ru) あるいは -re(ru) が付与されていなければいけません。同様に「聞こえる」が「(五)聞く」の可能形だとすれば、語幹 kik に可能を表す形態素 -e(ru) が付与されていなければいけません。

 (7) 見える(mie-ru)   
 (8) 聞こえる(kikoe-ru)

 (7)には可能の形態素 –rare(ru) あるいは -re(ru) は含まれてないので、「見る」の可能形が「見える」説は否定されます。「見る」と「見える」の間に活用の面で関係はありません。(8)には -e(ru) が含まれていますが、それを可能の形態素だと仮定した場合、語幹は kiko ということになってしまいます。しかし「聞く」の語幹は kik なのでこの点で一致しません。よって「聞く」の可能形が「聞こえる」説は否定されます。同じく「聞く」と「聞こえる」の間には活用の面で関係ないことが分かりました。

 よって「見える」「聞こえる」は辞書形です。これらの可能形はそれぞれ「見え(ら)れる」「聞こえ(ら)れる」になりますが、辞書形で既に可能の意味を持っているので可能形にはできません。




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