「負け始めた」って違和感ありませんか?

目次

日本語Q&A

質問者さん
(日本)

ネットニュースで「ロシアは負け始めた」って書かれていました。
なんだか違和感ありませんか?

管理人

確かに! 「負けつつある」って言ったほうが自然な感じがする。
「負ける」は「結婚する」などと同じ瞬間動詞だから、「~始める」はつけにくいと思います。

「~始める」は瞬間的に終わる動作を表す動詞につきにくい

 (1)?結婚し始めた。
 (2)?事故り始めた。
 (3)?死に始めた。
 (4)?負け始めた。

 「~始める」は一瞬で終わる動作を表す動詞、いわゆる瞬間動詞とか呼ばれるものに接続しにくい傾向があります。例えば「結婚する」は役所に婚姻届を提出するという動作を表すとすれば、提出するのは一瞬の出来事です。「事故る」もそうだし、「死ぬ」もそう。上記の動詞は全て瞬間的に発生して終わる動きを表す動詞です。これらの動詞が表す動作は時間的な幅がほとんどないので、その動作の開始局面にフォーカスしにくく、だから「~始める」がつきにくいわけです。

 こうした時間的な幅がほとんどない動きの局面を捉えるには「~つつある」が使えます。

 (5) 結婚しつつある。
 (6) 事故りつつある。
 (7) 死につつある。
 (8) 負けつつある。

 なのでそのニュースも「負けつつある」と言ったほうがより自然な気がしました。

こんな状況なら「負け始める」も自然?

 戦争には各地点の戦闘の勝敗と終結段階の勝敗があるので、前者の負けの数が増えてきたという意味なら「負け始める」を使っても大丈夫なんじゃないかと思いました。

 勝ち負けというと最終的な結果をイメージしてしまいますが、実は戦いが起こっている場所は各地たくさんあって、そこにはそれぞれの勝ち負けがあります。この地域では勝ったけどこの地域では負けたのような。これまでいろんな地域で勝ち続けてきたけど、負けが増えてきたという意味だったら「負け始めた」も使えそう。つまり、今戦闘が起きている様々な地点で「負け」が続いているため、戦争自体の「負け」に近づいているような意味合いで。
 ということは瞬間的に終わる動作であってもそれが連続して生じるような場合は、それらの連続した動作をひとまとめにして継続した動作としてみなすことができ、一連の動作に時間的な幅が生まれるので「~始める」が使えるようになるようです。例えば…

 (9) 政策の効果があったのか、人々は結婚し始めた。
 (10) オフィスの電気が消え始めた。

 「結婚する」は瞬間的に終わる動作でしたが、何組、何十組、何百組もの人々が次々結婚することで「結婚する」という動きに時間的な幅が生まれます。そのような文脈では(9)のように「結婚し始めた」と言えてもおかしくなさそう。他にも、ビルの明かりが次々と消えていく様子を見て「消え始めた」ということもできます。「消える」は瞬間的に終わる動きであるのにもかかわらず。

参考文献

 【N2文法】~つつある
 【N3文法】~始める/始まる




コメント

コメントする

目次