スピーチレベルシフト(speech level shift)
日本語の口頭コミュニケーションでは、話し手がその発話場面をどのような場面(改まった場面かくだけた場面か等)と認識しているか、話し手が聞き手をそのような存在(目上か目下か、親しいか親しくないか等)として認識しているかによって異なる言語形式を選択します。例えば、改まった場面であれば敬語や丁寧体が選択されやすくなり、聞き手が目下で親しければ普通体が選択されやすくなります。そのような「場面や会話の相手をめぐる話者の認識が表示された言語形式のレベル」(三牧 2013: 72)をスピーチレベルと言いますが、スピーチレベルは常に同じレベルが維持されるわけではありません。「同一相手との同一場面における同一会話内においても、ある発話の素材となっている事柄、相手との心理的距離の変化等、会話の流れに応じて、スピーチレベルの移行が生じる」(宇佐美 1995: 28)ことがあり、このような同一話者が同一会話内においてスピーチレベルを移行させる現象をスピーチレベルシフト(speech level shift)と言います。(※スピーチスタイルシフトとも)
A:卒業したら中国に帰るんですか? (0)
B:はい、親が心配なんです。 (0)
B:だからいつまでも日本にいるわけにいかないし (-)
B:卒業したら帰ります。 (0)
日本語においてスピーチレベルが最も分かりやすく現れるのは文末の形式で、「~でございます」「~です」「~ます」等の丁寧体なら改まり度が高く、「~だ」などの普通体なら改まり度が低いと言えます。しかし、改まり度は文末の形式以外にも現れます。例えば一人称「わたくし」「わたし」と「おれ」「あたし」を比較すると分かります。スピーチレベルは文末の形式だけでなく、様々な言語形式に現れます。
スピーチレベルシフトの条件
宇佐美(1995)は日本語の口頭コミュニケーションで現れる敬語などの改まり度の高い発話を「+」、丁寧体を含む発話を「0」、常体や質問に対する簡略すぎる答え等の改まりの低い発話を「-」としてスピーチレベルを3つに分類し、敬語使用から不使用へのシフト(+と0から-へのシフト:ダウンシフト)と、敬語不使用から使用へのシフト(-から+と0へのシフト:アップシフト)が生起する当該会話の内部条件と機能をまとめました(宇佐美 1995: 33-37)。ここでは条件のみ触れます。
敬語使用から不使用へのシフト | ①親しみを表す、冗談を言う時 |
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②相手の「-レベル」の発話に合わせる時 | |
③ひとりごと的発話、自問するような発話をする時 | |
④何かを確認したり、確認のための質問をする、或いは、それに答える時 | |
⑤中途終了型発話 | |
敬語不使用から使用へのシフト | ①「-レベル」の発話の後、基本レベル(+・0)に戻る |
②新しい話題を導入する時 | |
③新しい話題を導入する質問に答える時 |
上述のスピーチレベルシフトの例は⑤中途終了型発話にあたります。
参考文献
宇佐美まゆみ(1995)「談話レベルから見た敬語使用-スピーチレベルシフト生起の条件と機能-」『學苑』662 27-42頁.昭和女子大学近代文化研究所
三牧陽子(2013)「スピーチレベル管理論」『ポライトネスの談話分析-初対面コミュニケーションの姿としくみ-』71-108頁.くろしお出版
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