サイレント・ウェイ(Silent Way)
サイレント・ウェイ(Silent Way)はアメリカの心理学者ガテーニョ(C.Gattegno)によって開発された教授法です。ガテーニョは人がほぼ確実に母語を習得することに注目し、その理由が”子どもは未知のものに対して試行錯誤を繰り返し、その正誤に自ら気づく能力があるため”と考えました。この言語習得観に基づき、サイレン・ウェイでは教師は文法説明やミムメム練習、パターン・プラクティスなどを用いるなどして直接教えることはせず、学習者自らの気づきを促すような授業をします。
学習者に気づかせるために教師は極力発話を控えるのが特徴的ですが、その際、沈黙して授業ができるようにサウンド・カラー・チャート(Sound Color Chart)、フィデル(Fidel)、語彙チャート(Word Charts)、ロッド(Rods)、ポインター(Pointers)などの教具を用います。
実際の授業例
次の画像はサウンド・カラー・チャートで、目標言語の音声を習得するために用いられます。ここでは左上から順番に「あいうえお」、2行目は「かきくけこ」、3行目は「さしすせそ」を指しているものとします。
教師はこれを学習者に見せ、一番左上のピンクの矩形を指しながら、ジェスチャーで学習者に何か発音するよう促します。学習者がいろんな発音をする中で /a/ を発音した場合は、それが正しいことをジェスチャーで示します。次にその右隣の青い矩形を指して同じことを繰り返し、/i/ を発音した場合はそれが正しいことをジェスチャーで示します。このようにして1行目を終えたら2行目に移ります。2行目の矩形は上が紫、下が各母音を表す色が並べられていますが、これもまた学習者に一つずつ発音させて、/ka,ki,ku,ke,ko/ が発音されたらそれが正しいことをジェスチャーで示します。
上の画像は語彙チャート(語彙表)と呼ばれるもので、日本語の「赤い」「くさい」「お酒」「お寿司」が平仮名で書かれています。これらの平仮名は、母音なら単色、子音+母音の組み合わせなら上部と下部の2色に塗り分けられ、先に練習したサウンド・カラー・チャートの配色と一致するものです。ピンクは /a/ 、紫は子音 /k/ であることを学んでいれば、「あ」に塗られた色から発音は /a/ であることが分かり、「か」に塗られた色から発音は /ka/ であることが分かります。
初級の段階ではこのような教具を用いて授業を行いますが、教具が特殊であることから日本語教育ではあまり用いられていません。
参考文献
石田敏子(1988)『日本語教授法 改訂新版』34-35頁.大修館書店
アラード房子(1998)「サイレントウェイ」『日本語教授法ワークショップ』58-81頁.凡人社
木村宗男・阪田雪子・窪田富男・川本喬(1989)『日本語教授法』59-60頁.おうふう
コメント