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選択制限とは?(共起制限)

選択制限(selectional restriction)

 cut は具体的な事物を表す bread(パン)などを目的語として取ることができますが、(1b)の sincerity(誠実さ)のような抽象的概念は目的語として取ることができません。また、eager(切望する)はその主語が Ella であれば成立しますが(2a)、Sincerity であれば不自然になります(2b)。cut(切る)という動詞の目的語や eager の主語はどんなものでもよいというわけではなく、そこには一定の制限が見られます。生成文法においては、このようにある述語が取る項に課す意味的な制約選択制限(selectional restrictions)、もしくは共起制限(co-occurrence restriction)と呼びます。

 (1) a Ella cut the bread.
       (エラはパンを切った。)
     b *Ella cut the sincerity.
       (*エラは誠実さを切った。)
 (2) a Ella is eager to travel abroad.
       (エラは海外旅行に行きたがっている。)
     b *Sincerity is eager to travel abroad.
       (*誠実さは海外旅行に行きたがっている。)

 cut は bread、paper, hair などの物理的に切れるものを目的語に要求しますし、eager(切望している)というからには、その感情を持つことができる有生物が主語に来なければいけません。言い換えると、cut は目的語に「物理的に切れるもの」という意味的な選択制限を課し、eager は主語に「有生物」という意味的な選択制限を課しているということです。どちらの文も文法的には正しいですが、抽象的概念である sincerity を目的語として取る(1b)、無生物 sincerity を主語として取る(2b)には意味的な逸脱(選択制限違反:selectional restriction violation)が生じており、意味論的な誤りが認められます。

日本語の例

 (3) a 家に帰る。
     b *彼に帰る。
 (4) a あそこに彼がいる。
     b *あそこに木がいる。

 「帰る」という動詞のニ格には場所性の高い名詞(<場所>という意味成分を有する名詞)が来なければいけません。「家」は場所性が高いために(3a)は成立しますが、「彼」のような場所性の低い名詞がニ格成分となっている(3b)は選択制限違反を生じさせています。
 構文「~に~がいる」のガ格には有生性の素性を持つ名詞が来なければいけないため、有生性の素性を持たない「木」がガ格成分となっている(4b)は選択制限に違反しています。

参考文献

 郡司隆男・坂本勉(1999)『言語学の方法(現代言語学入門1)』210.岩波書店
 田中伸一・阿部潤・大室剛志(2000)『入門生成言語理論』151-152.ひつじ書房
 田中春美ら(1988)『現代言語学辞典』587-588.成美堂
 中井悟・上田雅信(2004)『生成文法を学ぶ人のために』47-49.世界思想社教学社




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